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アーヴィッコ侯爵夫人の茶会である。
本日の装いはユリアが気合を入れて、久しぶりに着飾る形となった。
髪型は髪の毛を高い位置にひとつにまとめて括り、布とレースを被せてリボンで結ぶ。
布の方は髪の毛を纏められるサイズで、レースはその布のサイズより縦長の長方形型を使用し、余った部分を折り返して下に垂らす事でヴェールっぽく見える。
着用しているドレスは、アールトネン伯爵領から取り寄せた絹の素材に似た光沢のある生地を、クリスティアン様の髪色より少し淡く染め上げ、薔薇と蔦をモチーフにしたものを青銀一色の刺繍糸で模様を描いたもの。
刺繍糸の一色といっても侮れない。
濃淡の糸を上手く活用してグラデーションに見せる技も、刺し手のセンスによるものが大きいだろう。
この世界の刺繍の技術が素晴らしいので、ドレスの柄は刺繍が主流だ。基本的に刺繍は手作業で行うが、レース同様に魔法スキルの活用で仕上がるペースが速いのだ。
胸元と袖にはレースをあしらい、上品に仕上げてもらった一着。
アクセサリーも青銀色に輝く鉱石、土台と留め金にはプラチナを使用している。
お土産には大森林から収穫した雑草のブレンドティー。さすがに雑草茶という名では売れないので、グリーンティーとして販売を始める。
そして、この世界になかったカステラも用意した。
ドレスは実家の伯爵領産で、宝飾品は公爵領産という宣伝する気満々な姿である。
「今日の奥様は格別に美しいです!」
自分の腕を自画自賛するユリアは悪くない。
彼女はコーディネイトのプロであり、メイクや髪型もセンスが抜群に良いのだ。
普段は私以外の相手には厳しく、海鮮料理に目がない一面しか見ないがーーー。
専属侍女として彼女は頼もしい。
「ユリアは普段のわたくしの装いが気に入らないのかしら?」
「いいえ、普段の奥様も妖精みたいに可憐なのですが、今日みたいに着飾った奥様は神々しさが増して溜息が出ます」
元日本人の私はドレスを着る事が好きではない。
この世界にコルセットが存在していなくて本当に良かったと思う。
シュミーズやカボチャパンツみたいな下着だったら、本気で泣いていた。
幼児までならカボチャパンツも我慢できるが、さすがに思春期を迎えたら恥ずかしくて無理。
「アーヴィッコ侯爵家の庭園は素晴らしいから、お茶も進みそうですね」
アーヴィッコ侯爵領はマルヴァレフト公爵領と対角の位置にあり、馬車で向かうには約二週間ほどかかる。
空間魔法があれば一瞬で行けるが、自分が行ったことのない場所には行けない。
今回は王都にある屋敷でのお茶会なので、私は昨夜のうちに公爵家の王都邸へ向かうべく、空間魔法で馬車ごと移動していたのだ。公爵邸へ行った事がないので、先にアールトネン伯爵邸へ魔法で移動してから、改めて馬車で移動する。
初めて訪れたけど、本邸と同じ職人が建築したものなのか、魔道具と付与が設置されている。邸の大きさは本邸よりこじんまりしているが、王都の伯爵邸と比べたら格の差を感じてしまうほどだ。
インテリアも趣味が良く、ゴテゴテしていないのが良い。
前世風に例えると、アンティーク調で落ち着く感じ。
部屋も殺風景にならない程度に家具やインテリアが置かれ、そして使用人の教育が行き届いているのが素晴らしかった。
王都へはユリアを筆頭に伯爵家から連れて来た専属護衛騎士の二人と、侍女頭のミカエラが同伴。
私の専属護衛騎士は女性だが、その辺の騎士より遥かに強い。
そして私とユリアも戦闘狂の部類に入るほど。
一応、全員が貴族令嬢である。
エーヴァとイェンナは魔法騎士に憧れ、幼少期の頃から魔力制御の訓練を続けていたようだ。
騎士家系という環境も二人にとって良かったのかもしれない。
ユリアは完全に私の影響だろう。
彼女はアールトネン伯爵家の分家筋に当たる子爵令嬢で、私が三歳の頃からの付き合いである。
幼馴染というより姉であり妹みたいな存在。
「奥様、アーヴィッコ侯爵家の門が見えてきました」
門を抜けて庭園に近い場所で馬車を降りる。
アーヴィッコ侯爵家の執事がエスコートしてくれたので、馬車の踏み台から足を滑らせなくて良かった。
着慣れないドレスでの足さばきが難しい。
普段はマキシ丈のワンピースしか着ていない弊害がーーーー。
靴もぺたんこオンリーなので、ドレス用の靴は踵が高いので歩きにくいのだ。
そのうち靴も改善したいと思う。
ピンヒールではなく踵が太くて安定したもの。
「ごきげよう、マルヴァレフト公爵夫人」
「ごきげんよう、アーヴィッコ侯爵夫人。本日はご招待ありがとう存じます」
アーヴィッコ侯爵夫人は私の二つ年上で、双子の姉と同級生だった。
薄茶色の髪をハーフアップにし、淡いミモザ色のドレスを上品に着こなしている。
この色は人を選ぶので、こんなに上品に着こなせる人は少ないと思う。
「本日は気の置けない方しか招いていないから、無礼講よ」
「まあ!」
それは有難い話である。
社交はあまり得意ではないが、領産物をプレゼンする時は私も饒舌になるというもの。親しい相手しかいないのなら、堅苦しくならずに済む。
手土産をアーヴィッコ侯爵家の執事に渡すのを失念していた。
慌てて執事の姿を探す。
「あの、こちらを……すっかり失念していましたの。お恥ずかしいですわ」
私は恐縮した体を装い、無事に執事の手に土産を渡し終えてホッとする。
「これはご丁寧にーーー」
彼はにっこりと微笑んでから、手土産を置きに去っていく。
アールノもイケおじだが、彼も素晴らしいイケおじなのだ。油ギトギト系や性格の悪さが滲み出ているオヤジより、知的なインテリジェンスや、立ち居振る舞いがスマートなイケおじは大好物だったりするのだ。
私がクリスティアン様と上手くやれているのも、年の差が大きいかもしれない。
九歳差だから微妙な年齢差ではあるが、かつての婚約者たちと違い、クリスティアン様は一緒にいるだけで心が落ち着く。
「マルヴァレフト公爵夫人、ごきげんよう」
「ごきげんよう、カイヴァント伯爵夫人」
クリスタ・カイヴァント伯爵夫人は五歳離れているが、彼女とは学院に通っていた時に王都で知り合った。
彼女の趣味はお菓子作りである。
趣味が高じてカフェを開店。
自領での店舗が本店となっているが、王都にも進出して二号店を出しているのだ。カフェで人気となっているのは、カイヴァント伯爵領が誇るレモンを使用したケーキとゼリーである。
テイクアウト用の商品は瓶詰のジャムとお茶。ゼリーはレモンの果実部分を使用する為、果実を取り出した皮をゴミとして処分していたそうだ。その皮も活用できると教えたら、彼女はレモンのジャムとお茶を考案。
レモンの皮を乾燥させて、一般の紅茶用の茶葉とブレンド。
新たなフレーバーティーの誕生である。
彼女が自信をもって提供するケーキは、レモンの爽やかさと渋みがマッチした絶品の美味しさ。
ゼリーの方は甘さ控えめで、幾つでも食べられる恐ろしいものになっている。
カイヴァント伯爵夫人はこげ茶色の髪を緩く巻き、両サイド後ろに流してバレッタで止めているだけのヘアスタイルだが、ドレスは彼女の旦那様の瞳の色であるシャンパンゴールド。
夜会用のドレスとして作っても良い色である。
昼間の茶会は派手さよりも控えめで上品な装いが求められるのだ。
「マルヴァレフト公爵夫人、ごきげんよう」
「コティペルト伯爵夫人、ごきげんよう」
古い知り合いに会えてホッとする。
コティペルト伯爵夫人は、実家のアールトネン伯爵領の隣領を治めるディングス伯爵家の長女で、アールトネン伯爵領の専属仕立て屋だ。
実家の財政を立て直す為に始めた仕立て屋だったが、私がその腕に惚れこんでスカウト。
自分が結婚する事を失念していて、彼女との契約はアールトネン伯爵専属として結んでしまったのは悔しい。
彼女は祖母のお気に入りだから余計に手放さないだろう。
彼女の技術と同等か、それ以上の仕立て屋が切実に欲しいのだ。
そんな彼女は淡い金髪を結い上げ、サイドの髪を一束だけ残している。彼女の瞳と同じ薄い緑色のドレスは、私のドレスと同じ素材のものだろう。薄い緑色に染めるのも素敵だ。
「さあさあ皆様、お好きな席に座ってお茶を楽しみましょう」
アーヴィッコ侯爵夫人の言葉に、それぞれ席につく。
この場にいるのは、主催のヴィオラ・アーヴィッコ侯爵夫人、クリスタ・カイヴァント伯爵夫人、エミリア・コティペルト伯爵夫人に私の四人である。
円形のテーブル席は少し小さめなものだが、四人揃っておしゃべりをするのに丁度良いサイズ感だ。
「ねえ、ディア」
椅子に腰を降ろしたタイミングで、コティペルト伯爵夫人に声を掛けられた。
「あの双子をどうなさったの?」
コティペルト伯爵夫人の言葉に一同が私に視線を向ける。
「どうなさったとは?」
一斉に視線を向けられると、何も悪い事をしてないのにドキドキするのは何故だろう。
「二人は外出したきり戻って来ないのよ」
「それが理由なのね」
真正面に座っていたアーヴィッコ侯爵夫人は何かを察したように頷く。
「どういう事?」
「下位貴族の夫人や令嬢が騒がない理由よ。貴方のお姉様、下位貴族の方々にスキャンダルを提供しているでしょう? この半月ほど社交界はとても平和なの」
「ああ……」
私は遠い目をしながらため息を漏らす。
「お姉様たちは二日前に、いきなり公爵邸に押しかけて来たのよ。そこで押し問答となり、旦那様の怒りを買って地下牢へ入れられたの」
「まあ!」
「相変わらずスキャンダルが絶えないお二人ね」
アーヴィッコ侯爵夫人とカイヴァント伯爵夫人が呆れたように告げる。
「ディアの所にいる事は分かっていたわ。そもそも双子が外出した理由は、大奥様が双子に足りない教養を厳しく指導されていたのが原因よ。あの二人は大奥様が茶会へ出ている隙に逃げ出したの。王都の邸が使えないのなら、行先はディアの所しかないじゃない」
「あの二人に教養が身につくとは思えないけれど……」
「そうよね。学院時代からお騒がせな二人でしたし」
「わたくしと学年が違うのに、彼女たちの噂は聞き及んでいたわ」
カイヴァント伯爵夫人は二十一歳だが、この場では最年長となる。
「ディアの元婚約者だった伯爵令息を追いかけて、わたくしの教室まで来ていたわね」
コティペルト伯爵夫人は元婚約者と同じ年で上位クラス。
当時は物凄く迷惑をかけたのだろう。
「わたくしもディアの元婚約者と同じ学年で、彼と教室も一緒だったから双子を良く見ていたわ。ディアにしか興味のない令息に付きまとっているのが不思議だったのよ。彼は令嬢に期待を持たせるような態度を一度も取っていないし、きちんとお断わりの言葉もおっしゃっていたけれど……」
アーヴィッコ侯爵夫人も姉二人の行動が理解できないようだ。
「マルヴァレフト公爵様まで怒らせたのでしょう?」
「地下牢にいるので被害は見張り役の騎士団員ですね」
私は彼女たちに姉二人が地下牢へ入れられた経緯を簡単に説明する。
「どうしたら、そんな考えに至るのかしら?」
「わたくしの侍女がバカと呼んでいますの」
「それは……ふふふ、正直な方ね」
「そこで皆様にお願いがあるのです。姉たちは下位貴族の方としか交流がなく、自分たちは傅かれる存在だと思い込んでいるので、その傲慢な態度を改めさせる為に高位貴族の茶会に招待して頂きたくて……」
「ああ……彼女たちの取り巻きは子爵家や男爵家だったわね」
「子爵家から見たら伯爵家は高位貴族ですから、当たり前のように傅かれるわけね」
「そうなのです。でも……姉たちの性格では他の方々に迷惑をかけそうで」
高位貴族に囲まれたら、姉たちも自分が優位じゃないと自覚できれば幸いである。
今の状態では下位貴族しか交流がないままだ。
「そうね、茶会に招いても構わないわよ?」
アーヴィッコ侯爵夫人があっさり了解してくれた。
「本当に?」
私の声に頷く。
そこへ何かを察したカイヴァント伯爵夫人が、アーヴィッコ侯爵夫人に提案を持ち出す。
「あの方も招いた方が良いのでは?」
あの方が誰なのか。
しかし、アーヴィッコ侯爵夫人は、その相手を限定したらしい。
「ディアにも紹介したいし、良い機会でもあるわね」
「わたくしに紹介したい方がいるのですか?」
「マルヴァレフト公爵様から紹介されるのを待つより、先に知り合っていた方がディアの為にもなるわよ」
「もしかして旦那様と付き合いのある方かしら?」
実はクリスティアン様の友人に関して詳しく知らないのだ。
彼と話をするのは公爵領についてだったり、事業の事についての相談が主な内容である。
あとはーーーまだ内密であるが、クリスティアン様の父親と兄の死について。
最近は姉二人に対しての相談だった。
クリスティアン様の婚約者というか、最初の奥様とは呼べない相手の事は教えてくれたが、友人関係について話題が一度もなかった事に気づく。
「旦那様の侍従や騎士団総隊長が幼馴染と聞いただけで、他に親しくしている相手については何も知らないわ」
「結婚したばかりなのだから仕方ないわ」
「そうよ。それにマルヴァレフト公爵様は急に爵位を継がれたのだから、引継ぎや雑用もあって多忙なのではなくて?」
「今も魔獣討伐隊と一緒に領内を回っていて、なかなかお会いする機会がないのよ」
現在の多忙さが落ち着くまで待つしかない。
「でも安心したわ」
「本当に。二度も双子のせいで婚約が白紙と無効になって、とても心配していたのよ。マルヴァレフト公爵様とは良い関係なのね」
「わたくしの事を大切にして下さっていると思うわ」
ほとんど不在で傍にいないが、彼もマメに連絡をしてくれるので寂しいと思う事はない。
「友人関係については聞いてないので分からないのだけど……わたくしに紹介して下さるのは、旦那様と親しい方で間違いないかしら?」
「少し意味合いが違うわね。ディアに紹介したいと思っているのは、マルヴァレフト公爵様と親しい間柄の奥様よ」
「旦那様のご友人の奥様?」
「驚かないでね。まず……エルヴァスティ公爵夫人、ニスカヴァーラ侯爵夫人、ヘルミーナ・クヤラ王女殿下、そしてアイナ・ハーヴィスト王太子妃殿下よ」
物凄い大物貴族や王族の名前が聞こえる。
ニスカヴァーラ侯爵夫人は宰相を務めている方の嫡男の妻で、エルヴァスティ公爵夫人は元第四王子の嫡男の妻。そして王女殿下に王太子妃殿下とはーーー想像以上に大物過ぎるのでは!?
「辺境伯の奥様も王都にいらっしゃれば紹介できましたのに、彼女は安定期に入るまで辺境伯領から出られないらしいの」
マルヴァレフト公爵家の人間なのだから、自然と高位貴族の令息が集まるのだろう。王弟殿下の嫡男と宰相の嫡男は同年代というだけじゃなく、家同士の繋がりもありそうだがーーー王太子殿下と王女殿下までは思いつかなかった。
亡き義理のお父様や義理兄との繋がりかもしれないが。
「そんな大物がいる茶会なんて……姉たちは不敬罪で極刑ね」
「双子は自分たちが絶対君主だと勘違いをされているのでしょう? 本物の絶対君主の前で、あの二人がどんな対応をするのか楽しみだわ」
「本当に構わないの?」
「あの方たちは面白い事をするのが好きなのよ。笑って許してくださるわ」
その言葉を信じて良いのだろうか。
「それより、ディアに質問しても良いかしら?」
「なによ改まって……答えられる事なら大丈夫よ」
アーヴィッコ侯爵夫人がぐいっと顔を寄せてきた。
「貴方の双子の姉は何がしたいの? 学院を卒業して二年よね? 家の事をしている様子はないしーー本気で婚活をしているようにも見えないのよね」
「姉たちは意外と結婚願望は強い方かと。ただ……自分の決めたターゲットには猛進しますが、肝心のターゲットとなる相手は身近な人の婚約者に限定されるみたいですね」
「え? どういう意味かしら?」
「なになに?」
「姉たちは奥手というには厳しいかもしれませんが、自分で相手を見つけたり探す事が出来ないのです。わたくしがその実例なんですよ。わたくしの元婚約者の話から始まりますが、わたくしとの交流をしに元婚約者が家に来ると、なぜか自分に会いに来たと思い込んでしまうのです。たまたま元婚約者の容姿が、姉たちの好みだった事も大きかったと思いますがーーー」
「それで?」
「普段は令嬢としか交流がないので、最初のアプローチの仕方を知らないのです」
「ますます意味が分からないわ」
「どう説明すべきか……面識のない令息に自分から近づけないと言えば良いのかしら? 例えば姉の取り巻きの令嬢の婚約者だったり、妹であるわたくしの婚約者であれば適当な口実を作って近づけるのです。でも初対面の相手には気おくれして近づけない。あんな行動をしているのですが、根は異性に対して奥手なのですよ」
私はそれで二度も婚約が破談になってしまった。
姉は自分からアプローチ出来ないくせに、取り巻きの令嬢の婚約者や私の婚約者には猛アタックする。
要はそういった形でしか令息に近づけないのだ。
姉の知り合いの婚約者という限られた中から、容姿の良い男性に急接近している。他人の婚約者を奪ったり破談に導く行為であるが、そういった形でしか男性に近づけない。
相手にとっては迷惑な話だ。
「とてもそうは見えなかったわ」
「わたくしも同感です」
「わたくしは何となくディアの言わんとしている意味が分かりましたわ」
私も姉の行動は理解出来ない。
それに思い込みも激しいので、本当に分かりにくいのだ。
「旦那様にも迷惑をかけてしまいまして……」
「婚約を白紙や無効にしただけじゃなく、今度は離縁までさせるつもりだったの?」
「わたくしの旦那様が姉カトリーナの理想そのものだったようです」
「呆れた……あの女はまだ諦めていなかったのね」
コティペルト伯爵夫人が盛大な溜息を漏らす。
「そうですね。カタリーナお姉様は容姿に拘っているだけで、相手の爵位は子爵までなら気にしないと思うわ。婚約者または旦那様となる方が美形であれば良いのです。問題はカトリーナお姉様ね。カトリーナお姉様も、お相手となる方の容姿が美形である事もそうですが、高位貴族の嫡男である事が絶対条件なのですよ」
「無理ね」
「無理よ」
「同感ですわ」
三人が同時に呟く。
「確かに高位貴族の嫡男を狙うのは、貴族令嬢として理解できるわ。けれど高位貴族に嫁ぐには、学院の勉学を始め礼儀や教養だけでは到底賄えない。その家の歴史や経営を学ぶのは必須、他国語が必要な家柄だってあるわよ。学院での成績が最下位の双子には、死ぬ気で覚えないと無理な話だわ」
「下位貴族としか付き合えていないのだから、高位貴族の礼儀作法も怪しいわね」
「ディアとアールトネン伯爵令息様は、学院での成績は主席だったのに……あの二人は本当に実の姉なの?」
「大奥様の頭痛の種ですね」
「伯爵夫人は躾を間違えてしまったのね」
「どこかに姉二人のお眼鏡に叶うような相手がいれば、わたくしと伯爵家は平穏に暮らせるのですが」
「そもそも容姿が端正で若い高位貴族の独身者は、マルヴァレフト公爵様が最後の一人だったのよ。伴侶に先立たれた結婚歴のある年配の方しかいないわね。その中で高位貴族で独身って言えば、宰相をされているニスカヴァーラ侯爵様、息子に爵位を譲って隠居されたフオヴィネン前辺境伯様あたりかしら?」
宰相をしているニスカヴァーラ侯爵の年齢は四十七歳、隠居されたオヴィネン前辺境伯が五十歳だった気がする。
貴族名鑑に載っていた写真もどきを見たけど、どちらも年齢を感じさせない美丈夫だった。前辺境伯は鍛え抜かれた体の持ち主で、おそらく隠居していても現役で魔獣討伐をしていそう。
ニスカヴァーラ侯爵は現役の宰相だが、外見は色気むんむんなイケおじ。フェロモン垂れ流し的なイケおじは大好物なのだ。おまけに宰相職である。頭の回転は速いだろう。
クリスティアン様と結婚していなければ、私が宰相様の後妻に立候補したかった。
「嫡男でなければ、王太子殿下の弟君の第三王子殿下ね」
「第三王子殿下は二十一歳だったわね」
「王子殿下の婚約者だったパロヘイモ帝国の第二王女殿下が、半年ほど前に病でお亡くなりになってしまったから」
仲睦まじいと噂だったので、姉との婚約は厳しいだろう。
自分の事を客観的に見る事が出来ないと、本当に行き遅れで独身まっしぐらだ。
「双子の為に茶会を開くから、楽しみにしてて」
王太子妃殿下と王女殿下も参加するとなれば、私の方が緊張して粗相をしてしまうかもしれない。
その後は新商品となるグリーンティーの宣伝と、カステラの感想を聞いたりして楽しい時間を過ごしたのだった。




