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終わりと始まり

「これより! 大罪人エイジの処刑を執り行う!」


 死刑宣告。しかし俺は妙に納得していた。これが当然かのように


かつてギルドで俺は冒険者をやっていた。冒険者ってのは平たくいうと魔物退治や、傭兵みたいに軍に従軍したりする荒くれ者集団って感じだ。ギルドはそいつらを統括する組織だ。だが、一応組織だから一定のルールはある。俺はその中の一つを破った。


それは____仲間殺しだ

そいつを語るには数年前まで遡る…。


 数年前、俺はこの町にきたばかりのただの村人だった。俺は山奥の村で生まれ育ったが、このまま一生を山奥で暮らすなんて俺には無理だった。俺は昔からあちこち山の中を探索してはイノシシに追いかけられたり、熊に遭遇したり。とまぁ、村でも札付きのワルだった。困った村長が俺を追放同然に村から追い出したわけだ。この町に来た当時の俺はなんでもいいから仕事を探していた。じゃねーとぶっ倒れるくらい腹を空かせていた。やっと見つけた冒険者の仕事は俺と合っていたよ。危険な仕事だが、金は稼げる。村ではたまにしか食えなかった肉もたらふく食えた。


 そこでは仲間もできた。シーラとザクって言う俺と同じく社会から弾かれた連中だ。俺たちは同じ境遇同士、意気投合した。シーラは冒険者の中じゃあ割と面のいい女だった。俺は一目惚れしたよ。ザクは気の良いやつだった。あいつとは毎晩酒を交わした。今ではもういない。…そうさ。大抵のやつは死ぬか辞めるかだ。…分かっていた、分かっていたけど…やっぱ辛ェ…後から聞いた話だが、俺はあいつらの死体を抱えて三日三晩何も食べずに泣いてたらしい。その時の俺は泣くこと以外何も感じられなかった。ただ、仲間を失った悲しみと、敵への怒りが腹の奥で燃えていた。


 それからの俺は一人で敵を倒し続けた。殺して殺して殺して…この気持ちは仲間の敵を討ったら変わるかと思った。だが…何も変わらなかった。俺の胸に残るのは仲間を失った痛みとどこに向けるかも分からない怒りだけだった。


 いつしか俺はギルドの中でも重要な地位につくようになった。仕事は皇帝の護衛や軍の指揮。直接人を殺すことは少なくなった。そこからだんだんと気持ちも落ち着いてきた。かつての仲間の墓参りもしなきゃなって思い始めてた


 しかしそれは一つの出来事によって崩れ去る。ある晩、俺は皇帝の部屋の前で周囲を警戒していた。その時____ガシャンッ!と窓ガラスが割れる音が部屋から聞こえた。俺はすぐに部屋に入り、皇帝の名前を呼んだ。しかし、返事は返ってこない。肉の裂ける鈍い音とともに刺客が血まみれでこちらを見る。鋭く尖った目はまるで獣のよう。俺はすぐさま戦闘に入った。刺客の剣はかつての俺の剣のように獰猛だった。だからこそ、俺は刺客を簡単に捕まえることができた。俺は刺客に馬乗りになり、顔のマスクを外す…俺はその顔を見るなり絶句した。そいつの顔はかつてのシーラそっくりだったからだ


「お…お前…その顔は…」


動揺する俺に刺客は何かに気づいたように目を見開いた


「…エイジ。へぇ…出世したんだ…顔つきも随分変わったね…」


刺客は不敵に笑う


「お前は誰なんだ! なぜシーラと同じ顔をしている!?」


「そんなに怒鳴らないでよ…私はシーラの双子の妹。…エーラって言うの。あんたのことは姉から大体のことは聞いてるよ。…で、殺さないの?」


剣を握る俺の手は震えていた。かつての仲間の妹。復讐心に駆られていたあの時の俺だったらすぐに首を切り落としていただろう。だが、今の錆びついた俺にはできなかった。


「…ふぅ。やっぱりね。あの時のこと、まだ引きずってるんだ。…ずぅーっと考えてた。姉はどうしてあの時あんたのこと助けたんだろーってね。そしてあの時からずぅーっと考えてた。どうしたらあんたをできるだけ苦しんで殺せるか」


「お、俺は…ずっとお前に謝りたかった…姉を殺して、のうのうと生きている自分に腹が立った」


「…何それ、今更贖罪?…もう遅いよ。何を言っても無駄」


「…殺してくれ。かつて復讐に走った俺を俺は罰せずにいた。だからお前の復讐のために死ぬ」


「…姉はあんたのことが好きだったんだ。最初は野良犬みたいで…汚くて、誰にでも吠えるようなやつだった…でも、一緒に仕事しているうちにザクや私を庇って怪我をしたり、三人で何度も死地を潜り抜けてきた。いつしか姉はあんたが目標になってた。姉は今まで悪い大人に利用し続けられてきた。親が借金を背負わされ、大金を稼ぐために入ったギルドでも女の立場は弱い。それでも必死に食らいついていた。立ち止まって後ろを振り返ると、あんたよりよっぽど私の方が野良犬だったんだと思ったって姉は言ってた」


「…っ…どうしてそんなことを俺に教えてくれるんだよ…」


「…そんなこと知ったらあんた、余計にシーラが恋しくなるだろ? シーラはもうこの世のどこにもいないのにね。…私だって…! シーラのことが好きだった!でもあんたが全てを奪った! 優しかった姉も、私の人生も!」


「………」


俺は何も言えなかった。心の中はグチャグチャになって、濁ったスープを飲み干してるような気持ちになった。


「…ハハッ。やっと分かった…?…グッ……」


俺は無意識にエーラの胸に剣を突き立てていた。意識が戻ると、俺は必死にエーラを抱き抱える


「エーラ!…ど、どうして…なんで俺はこんなことッ…!…し、止血を…」


「フフフッ…カハッ…幻覚魔法をかけた…これで私の復讐は終わり…せいぜい生きて苦しみ続けろ…そして、愛する人とその妹を…自らの手で手にかけた事実を…噛み締めろ」


「それでは…執行!」


処刑の合図が聞こえる…民衆の罵詈雑言が聞こえる…俺の人生はなんだったのだろうな。結局、何も守れず…迷惑をかけ続けて…だがやっと解放される…


肉の裂ける鈍い音が聞こえた。そこで俺の人生は終わったと思っていた…だが、俺は酒場で目を覚ました。


「ここは…」


俺が呆気にとられていると、後ろからどこか懐かしい女性の声が聞こえる


「よっ…おい、なーに驚いた顔してんの、…えっ! な、泣いてる!?」


間違いない、俺の目の前にいるのはかつて一緒に冒険した仲間、シーラだった。

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