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転生しましたが軟禁中。それでも逞しく生きていく

作者: おかき
掲載日:2026/03/01

私はリリアーナ・ブルーム。

転生者である私はブルーム伯爵家の次女として生をうけた。

6歳上の姉の様に、蝶よ花よと育てられる……筈だった。


母であるエルザは、父であるギルをとても愛していた。

嫡子であった母は婿養子を迎えなければならず夜会に足を何度も運んだ。

だが、運命と呼べる相手には出会えなかった。

エルザは、面食いなのだ。とんでもなく。


エルザの両親が見目の良い相手を探し出した。

それが、ギルである。


ギルの実家のベリル伯爵家は貧乏貴族と呼ばれていた。

お人好しの先々代が借金の肩代わりをした為だ。

良くある話だった。


ギルは3男である為、成人したら平民になり文官になる予定でいた。

だが、ブルーム伯爵からの縁談が来た。

ギルは家への支援金を条件に縁談を受けた。エルザはギルの顔を見た瞬間に恋に堕ちた。

ギルは家族になったエルザを、生まれた長女キャサリンを大切にした。


次女のリリアーナが生まれ成長するにつれ、家族の仲がギクシャクし始めた。


リリアーナの容姿が1番の理由であった。


母エルザも姉のキャサリンも、燃えるような赤い髪に薄い金の瞳。


大輪の薔薇の花の様な美しい容姿であった。

2人揃って社交界に出れば、男性陣に囲まれ身動き出来ない程だ。


リリアーナの問題とは、ギル以上の美貌だったからだ。


そんなギルの容姿は、美しい銀髪にとても薄い緑の瞳。優しげな瞳を向けられたら女性は意識を無くす程だった。

通った鼻筋、薄い唇に甘い顔立ちをしている。半端ないイケメン。

エルザの両親はお宝級の掘り出し物を見つけたのだ。


そのギルを上回る美麗の持ち主が、リリアーナ。

ギルの容姿そのままに、小柄な身長は幼い頃から『宝石姫』と呼ばれる程に儚く美しく、ことさら可愛らしいのだ。


リリアーナが8歳になり、茶会に出る様になると男の子達はリリアーナに群がってくる。

リリアーナに近付きたくて男の子達の喧嘩が始まる。


リリアーナが恐怖に涙すると、他家の大人達はこぞって慰める。


女の子からは嫉妬の視線を浴びる。


茶会は毎回修羅場となる。


(無限ループの繰り返し……。)


エルザもキャサリンも自分の容姿に絶対的自信があったため、リリアーナが自分達より持て囃されるのが許せなかったのだ。


それを境に、病弱になったと公には嘘をつき母はリリアーナを引きこもらせた。

それは、14歳になるまで続いた。

伯爵家の裏にある小さな別宅にリリアーナを軟禁していた。


食料等を玄関に置くのみ。

自分で全てやらなければならない。

前世1人暮らしをしていたので、リリアーナには楽勝であった。


ただ、背が低く手足が短いため、大変ではあった。


数日置きに姉がやってくるが、日々の自慢話をして来る。

無視を決め込むと扇子で頬や腕を叩いてきた。

適当に相槌しても叩かれる。

うんざりでしかない。


母は徹底的に私の存在を無視した。

ギルはエルザに従っている振りをし、こっそり可愛がっていた。


家族に見放されたリリアーナ。

家族に愛されない可哀想な令嬢。。

そんな日々に泣き暮らしていた……。


【んなわけあるか〜ッッ!!!】


リリアーナはお茶会なんて、行きたくもなかった。


(周りがうるさい、触るな、気持ち悪い。

どっか行け!!)


と、散々心のなかで悪態をついていた。

たが顔に出さない為、儚げな雰囲気を纏うリリアーナが少し困った顔をしたり、上目遣いで頼めば静かになるのだ。


前世32歳まで生きた薬剤師。

窓口対応をしていたのだ。接客スキルと、友達から貰った1冊の本。


「異性を落す大人のスキル」


薬草の本と同率のバイブルなのだ。

恋人がいないお一人様ではあったが、その本の知識は役に立った。


別宅に軟禁されたが、それも逆にラッキー。

魔法なんて想像の世界なのだ。

魔法は想像力!

(前世読んだ漫画で魔法師が言ってた。)

バンバン魔法を出した。

父がこっそりプレゼントしてくれたのは、特級魔法の本。

熟読して実践してみるが、簡単だった。


それからこっそり魔法で日当たりの良い部屋の中に薬草畑を作った。


部屋の壁から床まで結界を張りつければ何とでもなった。

転生チート確定の鑑定魔法で、沢山の薬とポーションを上級まで作った。

作ったが、売る事が出来ない。

ただいま私は軟禁状態中だった……。


空間魔法は特級の本にあったからそれに時間無効を付ける。

取り敢えず、作った薬とポーションは消費期限は永久になった。

魔法って楽しいな。


私の属性は無属性。


無属性は魔力量には反応するが、属性が無い。色が無いので属性無しとされる。

魔法が使えないのだ。

でも医療で役立つ。

魔力暴走など、魔力の異常があれば魔力に干渉出来るからだ。


14歳になると、国民の義務として魔力鑑定が行われる。

これをきちんとしないと、厳しい罰則が下る。

本来鑑定は神殿で神官と一対一で行われる。

が、病弱設定を受けているので父が神殿にお願いをし、別宅に来て貰う事になった。


結果、魔力量は測定不能。

無属性であるのに、見たこと無い銀色。

問題だらけだ。

神官が詳しく調べると全ての属性に反応したのだ。


神官は両親を呼んで欲しいと言って来たが、父だけを私が呼んだ。

母を呼んだら大変な事になるからだ。


(まぁー、私に興味のない母は呼んでも来ないだろうが。)


神官が父に説明をする。

父には口外しないよう、私が誓約魔法をかけた。

神官もビックリ。14歳の少女が特級魔法を使ったからだ。

その光景に、神官は顔を青褪めた。


ここから先を簡単に説明すると


全属性持ちの無属性は今まで存在しない。

銀色の魔力は神の加護を受けてる証。

特級魔法が使える。


そんな貴重な人物が、家族に虐げられている。

当然王家が介入する案件となった。


属性や加護の話は内密に、ブルーム伯爵家には苦言の書簡が届いた。


『特級魔法が使える物を尊重せよ。』


王命だっ為、本邸は大騒ぎ。

リリアーナへの嫉妬は増すばかりになる。


今日は何やら本邸が騒がしい。

王命を受けて母に本邸に移動する様に言われたが、未だに別宅にいる。

薬草畑の世話もあるし、母や姉と顔を合わせたく無かったからだ。


本邸を覗くと着飾った姉がいた。

「今日は第3王子が来られるの。ブルーム伯爵令嬢宛に縁談よ。小汚いあんたは顔を出さないでよね。」

と綺麗な顔で説明する。ついでに悪口も。

私には関係ないと別宅の裏の畑の手入れを始めた。軟禁は解除さたが、屋敷の敷地からは出れない。出る気もないが。


桑を片手に苗を植える。

光魔法で栄養を与える。


敷地に出る許可が出てからは、部屋の中ではなく外に薬草畑を作った。

毎日毎日、薬草畑の手入れをする。



ふと、騒がしい気配を感じた。


(こちらに誰か向かって来ている?)


騒がしい集団がきた。姉がいる。

金切り声で解る。


遠くを見ていると、背後に誰かが立った。

振り返ると、真後ろに黒髪赤目の男性がいた。

リリアーナのドストライクの容姿。


彼は第3王子だった。

魔法師団に所属していた為、私の魔法に興味があったらしい。

(幼い頃の茶会で私の容姿も確認済だった。)


今の私の容姿は、彼のドストライクだと言われた。


彼は背が高く顔立ちは良いが、顔つきが鋭い。顔に似合わず、可愛い物が大好きなのだが、可愛い物は動物も人も怯えて逃げるらしい。


彼は、可愛らしい私に首ったけになった。


王子の名前はエアハルト。歳は4歳上だった。

姉は年下王子を狙っていたのか?

まぁ王子様となれば狙うだろう。あの姉ならば。


突然の来訪から毎日のように、エアハルト様は私の住む別宅に転移して来る。


「リリアーナは何かやりたい事はないのか?薬草が好きなのは解るが、やりたい事があるなら手助けしたい。」


(いつも思う。歳の離れた幼い私をいつも気にかけてくれる。本当に優しい人。)


「そうですね。ここは甘えてお願いをしても?」


私は空間魔法を展開して、貯めに貯め込んだポーションやら薬草やらを出した。

自分で作った保存食用のお菓子まで出した。


「こんなに沢山!?凄いね。」


と、リリアーナを褒めつつも、お菓子に手を伸ばしている。


王子の手をリリアーナは軽く叩いた。


「めっ!」私のだから。

リリアーナはそう口にした。


エアハルト様がプルプル震え勢い良く抱きついてきた!!


「何だよ〜。今の、めっ!って。本当に可愛い〜。」


なでなでからの、ギュー。


いつも私の行動に可愛いと連呼し、なでなでするか抱きしめてくる。


この直球の愛情表現に絆されない人はいるのだろうか?

でも、私は知っている。


私を可愛がるのは、容姿を気に入っているだけ。

可愛い物が大好きなエアハルト様のペット枠である事を。


そう考えると、暗い気持ちになる。

幼い自分が、年上のエアハルト様に釣り合う筈が無かった。

姉の方が令嬢としても、婚約者としても相応しいのは明確だった。


少しだけ気落ちする私に気が付いたエアハルト様が、

「リリアーナ?どうかしたのか?」

膝に私を乗せたまま、頭をなでなでしてくる。

(完全に子供扱いよね……。)


「何にもないわよ?次は何の薬草を植えようかを考えていたの。」

私の返事に、「リリアーナは偉いね!」

と、またなでなでが続く……。


「忘れてました。明日から隣国に行かれるのでしょう?あったら便利かも知れない薬を作ったので、持って行って下さい。」


エアハルト様は明日から暫くの間、魔法に関する仕事で各国を訪問するのだ。

胃腸薬や解熱剤に、解毒剤。

それに、媚薬の解毒剤まで作った。

媚薬の解毒剤を見たとき、エアハルト様は笑っていた。


「お土産を買ってくるからね。」


エアハルト様は笑顔で私に伝えると、王宮へと転移した。


「二度と会う事は無いでしょう……。」

ポツリと呟いた言葉と一粒の涙を知る者はいなかった……。


リリアーナの初恋は散ってしまった。



※※※



それは一ヶ月前の事だった。

姉のキャサリンが嬉しそうにリリアーナの別宅へとやって来た。


「お姉さま。ご機嫌ですね。」

そう問いかけると、キャサリンは右手に光る大粒の指輪を見せつけた。


「エアハルト様が婚約の記念に届けてくれたのよ?」

キャサリンは指輪を撫でながら、自慢気に話している。


リリアーナはようやくエアハルトへの恋心に気が付いた。

(私はエアハルト様を好きになっていたのね……。)


「良かったですね!お姉さま!」

私は意地で笑顔で祝福を送った。


「あら?あんたもエアハルト様を狙っていたのでしょう?無理しなくて良いのよ?」

ニヤリと笑いながらキャサリンが言う。


「私はやっと15歳になったのですよ?エアハルト様には、不釣り合いです。」


言いながら胸が痛む。

でも、お姉さまだけには知られたくない!


キャサリンは少し考えて、

「そうよね。貴女は見た目も子供みたいだし、ペット枠なのでしょう。」


言いながらキャサリンは納得したのか、別宅から帰って行った。


(婚約者はお姉さまに決まったのね……。

性格は別にして、綺麗なお姉さまとエアハルト様はお似合いよね……。)


リリアーナはこの時、初恋と失恋を体験したのだ。


(初恋は実らないって前世でも聞いた事がある。)


リリアーナは二人を見るのは辛いと思い、父のギルにある相談をする。


「お父様。お願いがあります。」

リリアーナの真剣な眼差しに、ギルは驚きはしたが直ぐに話を聞いてくれた。


「私はお父様の生家のベリル伯爵家の領地に行こうかと思います。あの領地には作物が育ちにくい場所があると聞いてます。その土地に行き、私は薬草畑を作り領民達を助けたいと思います。」


逃げる為でもあるが、実際リリアーナはいつか実行しようとしていたのだ。

ただ、思ったより早くなっただけ。


「リリアーナ!なんて優しい子なんだ。エルザやキャサリンにあんな仕打ちを受けても、領民達の為に尽くしてくれるなんてっ……。優しい子に育ってくれて……。」


ギルは毎日後悔していた。

キャサリンも自分の娘ではあるが、同じ血が流れる妹を虐げ続けるキャサリンを止める事も出来なかった……。

婿入りのギルは、邸での力がなさ過ぎたのだ。


「お母様とお姉様に知られたら邪魔をされてしまいます。お父様は何も知らない振りをして下さりますか?私は準備が出来たら領地に向かいます。」


父と約束して少しすると、エアハルト様が他国に向かう話を聞いた。


(最後にエアハルト様に会って、お別れね。)


リリアーナはエアハルトとの最後の対面を終えると、辺境に近い領地へと向かったのだ。

王都には二度と戻らないと誓って……。



※※※


リリアーナは不作の地と呼ばれた土地を見後に復活させていた。

魔法を駆使し、数日で土壌の改良を行いどこを見渡しても草原のように広がる薬草畑を作りあげたのだ。


毎日毎日、領民と薬草の手入れをしリリアーナはポーションを作る。


以前作り隠し持っていたポーションは、エアハルト様に渡した為、手元にポーションが無かった。


辺境伯の邸や、流行り病が起きた領地にポーションを無償で送った。


感謝の手紙と、お礼の金貨がリリアーナの邸に贈られたのだ。

リリアーナはそれを資金にして、平民向けの安価だが良く効くポーションを作る。


貴族向けには、疲労回復ポーションも追加で作った。



貴族向けには他にも、美容ポーションとハゲ抑止ポーションを作った。

貴族向けのこのポーションは、まだ売りには出していない。

大事にアイテムポーチに仕舞ってある。


忙しい毎日が過ぎる頃、二つの季節が過ぎていた。


(忙し過ぎて忘れていたわ。エアハルト様は帰って来たのかしら?)


姉のキャサリンが、エアハルト様が帰国した後に婚約発表があると話していた。

まだその話は届いていない。


(まだ帰ってないのかしら?)


自分にはもう関係ないと、考える事をやめた。


同じ毎日を過ごしていると、邸に父のギルがやって来た。


「リリアーナ。元気にしていたか?」

ギルがリリアーナに近づき、抱きしめようとしたのだが、横からリリアーナを掻っ攫われてしまった。


「リリアーナ!やっと見付けた!」


リリアーナの視界には、黒髪が見える。

まさか!と思い抱きしめる人物の顔を見ると、なんとエアハルト様だった。


「黙っていなくなるなんて、なんて酷いことをするんだ!どれだけ探したと思っている!?」


リリアーナはエアハルトにお説教されてしまった。


(何それ……。エアハルト様に関係ないじゃない!)


リリアーナはエアハルトに会えた喜びより、苛立ちが先に来ていた。


「エアハルト様。何かご用でしたか?」


リリアーナの笑顔もなく、無表情な顔や声色にエアハルトはたじろいだ。


「久々に会えたのに……。」

エアハルトはリリアーナの態度にガックリと肩を落とす。


その隙にギルの腕の中にリリアーナは逃げた。


「エアハルト様に私は用がありません。エアハルト様の用件をお聞きします。

客間に案内しますので。」


ギルの腕の中から、リリアーナが話しかけた。


エアハルトはリリアーナの冷たい態度に困惑しながらも、ギルとリリアーナの後をついて行った。



客間に通され、エアハルトはリリアーナと向かい合う。


「帰国し邸に転移したが、リリアーナが何処にもいなくて……。誰も行方を知らないし、ギル殿に聞いても知らないと……。

リリアーナを大切にしていたギル殿を見張れば、リリアーナの元に行くかもと見張りを付けていたのだ。」


エアハルトの説明を聞いたが、リリアーナの質問の答えにはなっていない。


「用件を。と、言ったのです。」

リリアーナの返事に、

「婚約者がいなくなれば探すに決まっているだろう!」

珍しく、エアハルトが声を荒げた。


「お姉様の行方を私が知るはず無いでしょう?」

リリアーナは、何を言っているのやら……。と、呆れ顔でエアハルトを見た。


エアハルトも、何故キャサリン嬢の名前があがるのか理解出来ない。


「「……。」」


二人は暫く黙り込む。


「エアハルト殿下は何故リリアーナを追いかけるのですか?婚約者の妹を構いすぎると外聞も良くないかと……。」


エアハルトはギルの言葉で違和感にやっと気が付いた。


「婚約者の妹とは、リリアーナの事か?私がキャサリン嬢と婚約をしている。そう言いたいのか?」

エアハルトが捲し立てるようにギルを問いただす。


「エアハルト殿下の婚約者はキャサリンと、妻から聞いております。正式に婚約指輪もキャサリンの手に嵌められております。」


エアハルトはバッと立ち上がると、

「何故そんな話になっているのだ!!初めて伯爵家で会ったあの日から、私の婚約者はリリアーナなのだぞっ!!」


とても恐ろしい顔で叫ぶエアハルトに、リリアーナもギルも抱き合って怯えている。


「私はずっとリリアーナに愛情を伝えていた。気持ちを受け入れてくれていると思っていたのに……。違うのか?」


泣きそうな顔で、リリアーナに問いかける。


「愛情……。」

リリアーナが不思議そうに答えた。

エアハルトは気持ちが届いていなかったと知り、ガックリとソファーに沈んだ。


「エアハルト様は、てっきり私をペットと思って接していると思っていました。」


リリアーナの言葉に、もう沈み込むスペースは無かった。


ガックリ項垂れるエアハルトに、リリアーナは直球で問いかけた。


「エアハルト様はもしかして、私を異性として好きなのですか?」


エアハルトは項垂れたまま、コクリと頷いた。


「お姉様は、エアハルト様から大きな指輪を贈られたと私に見せに来ました。

それはブラックダイヤで、エアハルト様の色でした。」


リリアーナの話に、エアハルトは理解した。


「嵌めてくれたな……。」

地を這う魔王のような声に、リリアーナとギルが再び抱き合う。


「リリアーナはまだ幼いから、似合う歳になる頃に渡すと。大切に保管すると夫人が言ったのだ!

確かにリリアーナに似合う色ではない。だからそれを受け入れたのにっ……。チッ。」


エアハルトが舌打ちすると、ビクリと跳ね上がり怯える二人が視界に入る。


「す、すまない!」


と、慌ててソファーに座る。


「リリアーナ。私は貴女が大切で可愛くて仕方ないのです。ちゃんと、愛していますよ。帰国したら婚約発表するつもりでいたのに、愛しい婚約者は行方知れず。

心配したのですよ?」


悲しそうに愛の言葉を伝えるエアハルトに、リリアーナは立ち上がるとその逞しい胸に飛び込んだ。


「私も、エアハルト様が大好きですわ!でも、お姉様の婚約者なら諦めなければと。忘れる為に、この離れた領地に来たのです。」


ほんの数ヶ月会わないうちに、蕾の花が花開いた瞬間だった。

叶わぬと思った初恋が実り、愛を伝えられ喜びに満ちたリリアーナの笑顔は美しい。


「リリアーナは王都には戻らぬか?」

エアハルトがリリアーナの顔を覗き込み、尋ねた。


「私はこの領地に愛着が湧いています。やっと領地が回復した今は、離れられません。」


リリアーナの言葉を聞いたエアハルトは微笑む。


「リリアーナの考えは好ましいよ。色恋と貴族の役目をきちんと分けて考える。リリアーナを尊敬する。」


エアハルトはギルを見た。


「ギル殿はリリアーナと共に、伯爵家を出る覚悟はあるか?」

エアハルトがギルにそう問いかけた。


「エルザもキャサリンも私の大切な家族でした。しかし、リリアーナにする仕打ちは許せなかった。

リリアーナと共にいられるのならば、伯爵家を出る覚悟があります。」


ギルはそう答えた。

リリアーナが、

「駄目よっ……」

父を引き留めようと、声をかけようとするが、エアハルトに抱き込まれ話せなくされた。


「私は婚約し婚姻後は、領地を貰う事になっていた。陛下にこの領地の話をする。ギル殿とリリアーナは暫くこちらで待っててくれ。」


私は客間からエアハルト様と父に追い出された。

何やら計画を練るらしいが、私には聞かせられないと追い出されたのだ。



あれから更に一月が過ぎた。


私はエアハルト様の膝の上で、お母様とお姉様の話を聞かされている。


あの後、エアハルト様は陛下に私に関する全ての事を話された。


王家からの「大切にせよ」との命は一切守られず、王命であるエアハルトとリリアーナとの婚約を破談に仕向けようとした事。


そしてリリアーナが父の生家の不作の地を再生させ、更に発展させている事。


「陛下。いえ、父上。

私はリリアーナと共にある、あの不作の地を賜りたい。ギル殿の兄であるベリル伯爵とは話がついています。」


陛下はエアハルトの初めての願いを聞き届けた。

ベリル伯爵家と話がついている以上、陛下が何も言う事は無かったのだ。


「して。ブルーム伯爵家への処罰は如何するのだ?」


陛下は少しばかり楽しそうに問いかけた。

エアハルトは呆れ顔をしながらも、

「明日の夜会で一生消えない恥をかいてもらいます。」

恥だけか……。

エアハルトの処罰の甘さに、陛下がため息を吐く。


「リリアーナは私との関係を拗らせた事には怒っていますが、うけた仕打ちはまったく気にしていないのです。

逆に、魔法を思う存分に使えたので逆に感謝しているくらいなのです。」


エアハルトは苦笑いで陛下に伝えた。


「貴族令嬢として耐え難い仕打ちを、そのように申すのか……。15歳の娘とは思えぬな。だが、本人がそう言うのならば、やり過ぎは良くはなかろう。」


陛下はリリアーナと会わせる事を条件に、夜会でのエアハルトの行動を黙認する事にした。


夜会の開催理由は、エアハルトの婚約発表。


夜会当日、ブルーム伯爵邸は慌ただしく支度が進められていた。



エルザはキャサリンが勝手に指輪を持ち出し、婚約したことを広めた事に怯えていた。

だが、エアハルトが帰国し邸に訪れた時も何も言わずに帰って行ったのだ。

エアハルトが指輪の話を咎めない事を、婚約者をキャサリンに変更しても良いものと勝手に勘違いし、思い込んでいた。


エアハルトはリリアーナがいなくなった事に焦り、誰の話も全く聞いていなかっただけである。

四六時中、リリアーナの事ばかりを考えていた為、自身の婚約者の変更の噂話があがっていた事も耳に届いていなかったのだ。


それを聞いたリリアーナは、

「エアハルト様がしっかりしていたら、お姉様もあんな無様な姿を晒さずに済んだはずよね……。」

と、少しだけエアハルトを責めた。

でも、お姉様とお母様の暴走は何処までも続くのでお灸を据えるには良い機会。

と、リリアーナは思う。



そして、運命の夜会の日。

お姉様は、エアハルト様の色である黒のドレス姿で現れた。


会場では、エアハルト様のお相手がキャサリン嬢と広まり容姿の良いキャサリンに納得する者と。

キャサリンの本性を知る者のエアハルトに対する失望を持つ者。


様々な感情が交わる中、夜会が開催された。


両陛下が先に会場に入り、次いで王太子夫妻が会場に入った。


最後に、今日の主役であるエアハルトが会場入りするが、エアハルトの纏う衣装の色にキャサリンの赤は見つけられなかった。


ひそひそ話す声が会場に響く。


「今宵はエアハルトの婚約発表をいたす。」

エアハルトが前に一歩踏み出す。

それと同時に、キャサリンが最前列へと歩み出たのだ。


エアハルトは一瞬視線をやるが、キャサリンを無視した。

自身の色を纏うキャサリンを、視界に入れたくなかった。


エアハルトの衣装は銀色。チーフは薄い緑。

リリアーナの色であるが、リリアーナは社交界に長らく顔を出していない為、会場にいる者は誰の色か気付けずにいた。



「私の婚約者は、ブルーム伯爵令嬢。リリアーナだ。」


エアハルトの高らかな言葉に、キャサリンが驚愕な眼差しでエアハルトを見る。


会場は大きなどよめきが起きた。


リリアーナの名前を聞き、幼き頃の姿を思い出す。

宝石姫と呼ばれていた令嬢を。


「エアハルト様!私にこの指輪を下さったのではありませんか!」


キャサリンが右手に輝く大きなブラックダイヤを高く掲げた。


「その指輪はリリアーナに贈ったものだ。夫人がまだ幼いリリアーナには似合わないと。その時がくるまで大事に保管しておくとな。」


冷たい視線と声をキャサリンに向けた。

わなわなと体を震わせ、怒りを抑えるキャサリン。


「お前達が幼いリリアーナを邸の別宅に軟禁し、虐げていた事は調べがついている。

王家からの特級魔法師を大切にせよ。との命も見事に無視したな。」


エルザはキャサリンに近付き慰めていたが、自身にも矛先が向いた事に顔を青褪めさせた。


「リリアーナは父のギル殿と一緒にベリル伯爵家の領地にいる。

私はリリアーナとの婚姻で、ベリル伯爵家の北の領地と辺境の森を領地として賜る。

ギル殿も一緒にな。」


エアハルトの言葉に、

「ギルは私の愛する夫です!そんな勝手に決められて良い筈はないでしょう!」

エルザは必死に訴える。

美しいギルを、エルザは手放したくないのだ。


「愛する夫。ね……。ギル殿は夫人に未練はないようですよ?幼いリリアーナを見放し切り捨てる母親を好きでいると思いますか?ギル殿は貴女達から必死にリリアーナを守っていた。優しく聡明な令嬢になったのは、ギル殿のおかげだ。」


ギルが会場の隅から前に出て来た。

王族が並ぶ壇上に頭を下げ、声がかかるのを待った。


陛下がギルに声をかける。

「ギル殿。話すことがあるなら話すが良い。」


陛下の許可を得たギルが、エルザとキャサリンに向かい合う。


「私は家族を愛してきた。婿入りし、ベリル家を助けてくれたエルザには感謝している。だが、リリアーナも私の大切な娘なのだ。同等に愛せずとも、ほんの少しばかりでも気にかけてやる事は出来たはずだ。

だが、それすら貴女は放棄した。

キャサリンも妹に何故そこまで酷い事が出来るのだ?血を分けた妹なのだぞ?

私は貴女達の行いについて行けない。わたしは伯爵家を出て行く。」


ギルは怖いほどの美しい顔で、妻のエルザに伝える。


「私と離縁して頂く。離縁の届けは、先程受理された。」


ギルの残酷な一言に、エルザは床にへたり込んだ。


キャサリンも今の自分の立ち位置を理解した。

妹を虐げ、妹の婚約者を奪おうとした滑稽な自分に。

キャサリンもエルザの横に座り込んでしまった。


「私の婚約者のリリアーナだが、領地で薬草を育てポーションを作っている。

平民向けに安価で提供している。貴族向けのポーションもだ。」


会場では、有名な「疲労回復」ポーションを作っているのか……。と、エアハルトの婚約者のリリアーナを全員が認めていく。

しかも、リリアーナが特級魔法師となれば、更に祝福が広がる。

会場の貴族がエアハルトと不在ではあるが、リリアーナの婚約を祝福した。


そして、ブルーム伯爵家はエルザが女伯爵を降り、前伯爵が領地から戻り当主に就いた。


「ここに戻るまでの話は、これくらいかな?」


ニコニコ笑顔を向けるエアハルトの膝の上で、リリアーナは恥ずかしそうに俯いている。


いつもなら平気なリリアーナだが、今日は無理!


なぜなら、目の前には両陛下と王太子夫妻もいるのだ。


一貴族でしかないリリアーナが狼狽えるのは、仕方ない事である。



「リリアーナ嬢の可愛らしさは、幼い頃から有名でしたもの。一度だけ見かけた事がありましたが。まさか、エアハルトのお嫁さんになるなんてね!」

王妃様が可愛いリリアーナを嬉しそうに眺めながら話す。


「あ、ありがとうございます。」

顔を真っ赤にしながら返事を返すリリアーナに、王妃様と王太子妃は大はしゃぎ。


居た堪れないリリアーナは、

「あの。まだ売りに出していないポーションがあるのですが、両陛下と王太子夫妻に贈ろうと持って来ました。」


「新しいポーションかい?」

陛下の言葉に、リリアーナはコクリと頷いた。


「エアハルト様。いい加減降ろして下さい。ポーションが出せません。」


ずっと逃れようともそもそしているが、ガッツリ腰に腕を巻かれて逃れられないでいた。


エアハルトは渋々リリアーナを膝から降ろした。

リリアーナがポーションを陛下と王太子に先に渡す。

文字を読んだ二人がニヤリと笑った。


王妃様と王太子妃には美容ポーションを渡した。


「ありがとう。リリアーナ嬢。また作ったら優先的に買い取ろう。他国に高く売りつけるのも視野に入れねば。」


陛下の言葉に王太子が

「リリアーナ嬢のおかげで、戦場や魔物討伐で負傷する者が激減しました。

平民達にも安くポーションが手に届く。

感謝しかありません。」


王族に褒められ照れてしまう。


その後は薬草の話を聞いてくれたり、エアハルトの幼い頃の話も聞かせてくれた。


次はエアハルトの婚約者として夜会の参加を約束された。


エアハルトが転移で、両陛下達を送って行った。


静かになった邸に、隠れていた父が出て来た。

王族に顔向け出来ないと、居留守を使っていたのだ。


「お父様。お姉様はどうなったのですか?」

誰もキャサリンの話を口にしなかった。


父も話しにくそうにする。


「いつか教えて下さいね。」


リリアーナは父を気遣って、これ以上の話はしなかった。


ブルーム伯爵家は前伯爵が戻ったのだが、一斉に見放された為、資金繰りに苦労していた。

成り金と言われる商会が、キャサリンとの縁談を莫大な資金と共に結ぶ事を申し出たのだ。

商会は前伯爵と顔見知りであり、黒い部分はない。

ただ、妾扱いの嫁入りになる。

キャサリンは泣きながら嫁入りしたらしい。


お姉様の話を聞けたのは、結婚して暫く経ってからだった。



転生して薬師の知識を少し使い、薬を作ったり魔法を覚えたり楽しく過ごした。

初恋を実らせ、二人の子供も授かった。


「異世界転生したけど、前世より幸せね。」


リリアーナは薬草畑で今日も手入れをする。


前世のバイブルを使う事なく、愛する人を見付ける事が出来た。


これからも毎日幸せな日々を送るために、せっせとポーションを作り出していくのだ。



(陛下達に贈ったポーションは、ハゲ抑止ポーションと増強ポーションである。)


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