第9話 あまりにも治安が悪すぎるので偽名使用
サヴァイヴという名前は無意味ではありません。
3人はヘレルから貰った金銭で酒場に行き昼食を食べる事にした。
「いや〜ラッキーだね。もう腹が減ってしょうがない、この世界では飯を提供する店はあるのか?元の世界では割と近代に出来たから不安だ」
リアルの世界での最古のレストランは1700年代初頭であり、それまではワインやパンにチーズと簡単な食事を提供する場しかなかったのだ。
「あるぞ、そっちがどうか知らないがこっちはどこでも戦いが絶えないから食事を提供する店はいくらでもある............まあ、略奪する方が楽で安いがな」
「それはダメよ!もう私の仲間なのだから!」
そう言いながらアッシュを見上げる。
「そっちの方が楽ってだけでやる訳じゃないから安心しろ。ほら、話していたら着いたぞ」
冗談が洒落にならない自覚が少し足りていないアッシュは困りつつ到着を告げた。
そこには石の壁に木のドアがあり、白く四角い看板が二つ連続に並んでおり、水と酒と書いてあり店の名前はBar⭐︎アントニオと書いてある。
「バー!?昼間っから酒飲むってか?ちゃんと肉とかあるのか?つまみだけじゃあキツいぜ」
(その間にある⭐︎はいらないだろ............私の好きな魔法少女アニメか)
「綺麗で安全な水は値が張る、それに比べて安全で安いラム酒あたりを飲む方が良い。それと食事は大丈夫だろう、大抵は狩りやすいツノナシツノアリオオウシモドキくらいの肉や芋はある」
「まあ私がある程度の水は持っているから町や村が無くても数日は大丈夫よ。今は冬が明けてとても心地よい気候だから干からびるというのは無いからね」
実際、現実でもミネラルウォーターよりワインやビールが安い国がある。それに蛇口を捻って出てきた水をそのまま飲める国は極々少数なので日本生まれの彼女にはそんなは考えはなかった。
そしてまた出てきたツノナシツノアリオオウシモドキの正体が気になってしょうがないヒカリ。
「酒は水分補給にならないぞ!余計に喉が渇くってこちらの世界では常識だ!それに金ならあるんだろう?ジュースは無いのか?炭酸とか?」
(またその動物か!図鑑とかで絵とか写真が見たいな)
「あるが節約するに越した事はないだろ、俺らが王国のギルドから仕事貰って稼ぐ訳にもいかないしな。それにジュースなんてその辺の果実でも絞って飲んでろ、あと炭酸は二酸化炭素を入れる機械が高い。だからこんな町には無い」
「ジュースよりも早くストレートのウォッカが飲みたいなぁ〜ジョッキで」
それを聞いて目を開け驚くヒカリ。
「度数かなり高いのが好きなのか?見た目に合わないな」
「あら?こう見えてかなりお酒が好きなのよ、嫌な事もほんの少しだけは忘れられるしね。さぁ、入りましょ♪」
闇が少し見えて1人は少し暗くなり、もう1人は罪悪感を感じた。そんな事も気づかずウキウキのライラは思いっきり音を立ててドアを開けて入る。中はヒカリが想像していたカウンターがあるバーとは違い、イカついおっさんが喚き散らしたり喧嘩したりと汚目な酒場だった。
「っ!?」
(汚ねぇしムキムキ野郎共がうるせえな............)
ヒカリは軍人みたいな屈強な男しかいない事に驚く。
「ははっ!ド田舎にしては賑やかで綺麗な方ね」
さりげなく口が悪いライラ。
「へぇ、かなり広いし活気があるなぁ。それに天井が高くて助かるな」
とアッシュが呟いた時に店内の目線が集中し静まり返る。無理もない、ライラが乱暴に開けた音で視線を集め、その先には灰色のオークにバカデカい女とチビ女が入って来たのだから。
「............おい、畜生がいると酒がマズくなんだよ。出てい............ぐぁ!?はっ離せッ!!俺が誰か知らねえのか!」
アッシュに近づきどつこうとした身長180くらいの巨漢(アッシュの身長約320センチ)の手をヒカリ(身長205センチ)が思い切り掴む。
「何がだ?誰がだ?畜生だァ?コノヤローッ!!大体誰なんだよテメェはッ!バカヤロー!テメェ私に喧嘩売ってんのかッ!!?」
ヤクザ映画みたいなキレ方をするヒカリ、仲間の侮辱は自分への侮辱と捉える思考なので止まらない。
「おいバカ、揉めたら面倒な事になるぞ」
と注意しつつも非道な自分を人として、そして仲間として扱われている事に少し嬉しいアッシュ。
「シュベリ陛下御用達のピルケ傭兵団の3番隊隊長!ジュナク=ホレだ!俺らを敵に回したらチンケな虫ケラ共は後悔する事になるぞっ」
そう言いながら彼女の手を振り解き、自分の掴まれた部分の腕を撫でながら吠える男。
「............ムラサメ、出るぞ。客の8割くらいがこいつの味方みたいだ」
(こいつらがさっきヘレルが言っていた傭兵団か)
「そうね、宿で食べ物を頂けないか交渉しましょう。あとお酒」
2人は出ようとするがヒカリは喧嘩を売られたら買うタイプの馬鹿なので止まらない。
「いいや。どうせ逃しちゃくれねぇだろ?男は黙って拳でケリつけようか?魔法に武器なんか無しでよ」
さりげなく魔法が使えないので日和りつつ自分の有利な方向に持っていこうとするセコい馬鹿。
「当たり前だ、ピルケ傭兵団の隊長が、図体だけのチンケな女相手にどれだけ強いか示すのに魔法も武器もいらねぇ」
そう言うと部下達がテーブルを退けて店の真ん中がリング場の様になる。そして蚊帳の外のマスターは頭を抱えている、この傭兵団は太客であり目上の人間だが迷惑と本気で困り果てている。
「馬鹿が!もう後に引けないぞ!体術の方は大丈夫なのか?」
「そりゃあモチのロンよ〜!学生の頃は合法的に喚き散らしながら人の顔面を竹の棒で殴れる剣道や柔道とかしていたし、すごく忙しい仕事の合間も健康と趣味の為にボクシングジムに行って殴り殴られの気持ちが良い殴り合いを楽しんでいたからな!!」
「ああ、そうか............よくわからないが自信はあるんだな?じゃあもうヤケクソだ、己の力を示してやれ!」
(まあ魔物に素手で勝てるなら人間くらいどうにでもなる............か?)
「えぇ、仮にも負けて殺されそうになれば私がお相手の方々を惨殺処刑するのでご安心を」
「負けた後にその仲間が追撃するのは情けねぇし負けないから大丈夫!やっと久しぶりの本当の喧嘩だ!」
そう言うとライラ製の靴と靴下を脱ぎ、床に足をしっかりつけて重心を下げ構える。
「平民で女の分際で隊長サマに歯向かうとどうなるかわからせてやるわ!少し体がデカいからと言って気までデカいマヌケがっ!」
(ん............?待った、こいつ靴脱いだよな?底上げかと思ったが素で2メーター越えなのか??そんな人間の女見た事がねぇぞ!?何かとのハーフか?だが奴の皮膚を見れば素人なのはわかる、傷も無ければ日焼けも全くしてない赤子の様な軟く白い肌に細い指。俺ら歴戦の傷を負いつつも膝をつかず戦い続けた傭兵団員には敵わんっ!)
身長を上げ底の靴のせいで高く見えると勘違いしていた男はそれでも自分が強いと己を鼓舞する。
「いつでもかかって来い」
(かかって来てくれないと手の内わからないからカウンターとか怖い............)
ヒカリは手をくいくいとして来いと挑発。相手の筋力などがどれ程かわからないので受け身を意識して待つ。
「急に怖気付いたか?脳みそ揺らしてやるわァ!!」
男は脳震盪目当てでヒカリの顎目掛けて殴ろうとするが、彼女はその腕を掴み相手の殴りつけようとする勢いと、それの同じ方向に自分の勢いを上乗せし思い切り投げ飛ばし硬い石の地面に叩きつけた。
「ぐわぁーッ!!ぶぇっ!ぐ、ぐぅ............クソッタ、うぎゃあいあ!!」
倒れた男が起き上がる前に顔面を軽く蹴り飛ばし、更にその上に全体重をかけて腹部に踏みつけるとゲロを吐き男は動かなくなり喚いていた外野が静まり返る。そして、それを見たヒカリはゲロで窒息死しない様に体勢を変えさせた。
「ふぅ............この戦い私の勝利だ!店と私たちに迷惑をかけたんだ、食事代と清掃代くらい奢れよ!!」
(よ、よかったぁ............頑丈で力強い身体にしてくれたあの変な神に感謝だな。ま、まあ、ちょっとこっちがズルしているみたいだけどな。生前の肉体なら筋力と体格の差で技を発揮できず死んだだろう、流石人間の傭兵団隊長だな)
転生モノの主人公なのに、やっと楽に勝てた相手が魔法無しの人間相手という虚しい事実には気がつかず、取り敢えず安堵している彼女。
「まあ当然よね、かなり身長差があるのだから」
「だが収まりがつくのか?」
2人が話していると他の傭兵が武器を抜き始めた。
「こんな事して生きて帰れると思ってんのかァ!!」
「体術なら団長以外に負け無しのジュナクさんが負ける訳ねぇ!身体強化の魔法を使ったままやりやがっただろ!」
「この辺で見た事ねえクソアマが!それが命取りよ、我らに喧嘩を売るなんてなぁ!」
酔っている事もあり眼が血走り殺気全開で怒り狂う傭兵達、総勢28名。
「私はクソアマなんて名前じゃない、サヴァイヴだ覚えておけ。大体王国直属の兵士みたいなモンなのに勝手に暴れて良いのか?」
こうして話している間にも魔法の準備をしたりマスケット銃に弾を込めている傭兵達。アッシュとライラも仕方なく武器を出す。
「サヴァイヴぅ?聞いた事ねぇ名前だなぁ?やはり名的にも、この辺の人間じゃないな。己の無知さを後悔して死にやがれ!」
「待て、ここだとマスターに迷惑がかかる。お前らも行きつけの店が潰れたら嫌だろ?それに体勢を変えて窒息しない様にしたが、そこの隊長さんを介護しないと危ないぞ?」
明らかに囲まれて不利なので外に出る様に提案するヒカリ。
「チッ、ジュナクさんの介抱をお前らしろ!外の空気を吸わせて水で洗って差し上げ............っ!?」
ダァンッッ!!!
そう話している最中に1人の男がマスケットを不意打ちにヒカリ目掛けて発砲。弾は顔に当たって衝撃で壁にもたれかかる。
「しゃあっ!俺の魔力の大半を込めた炸裂魔弾で1匹おしまいよ!」
「ヒ、サっサヴァイヴ!............あ、貴方達ィ余程死にたいのね?」
ライラは偽名を忘れて本名で呼びかける程焦る。そして怒りを露わにして巨大な斧を2つ持つ。だがなんとヒカリは普通に立ち上がりライラの肩に手を置く。
「安心して、身体の頑丈さだけが取り柄だから!ほら!血も出てないから!」
ピンピンした様子に不意打ちをした傭兵は恐怖する。
「直撃だぞ!?............ば、化け物っ!この辺で面倒な、あのガロウウッドの群れを1〜2撃で屠れるのだぞ!」
狼狽える傭兵にヒカリは一言言う。
「ガロウウッドなら頭を素手で掴んで走りながら地面に擦り付けて削り倒したぞ、だから明確にフィジカルは私の方が強い!!」
握り拳を上げてドヤるヒカリ。
「なっ!つまらんハッタリ言いやがって!副隊長!早くぶち殺し、えっちょ!待っ!うぎゃあ!」
そう焦る魔力がほぼ切れた男に隊長の代わりに取り仕切っていた男が殴りかかる。
「ぐぇつ!な、なんで仇打ちじゃないすか!」
「一旦外に出るって話になってんだから、ここで撃つんじゃねえよ!それにジュナクさんは死んでねえから!大体相手が負けてから追撃するのは恥と言った状況で多勢の俺らがやるか?プライドはないのか!!?」
「い、いやぁ、しかしですね............」
言い訳をしようとするも遮られ怒鳴られる男。
「黙れ!それも更に不意打ちした上でほぼダメージ無しとは恥を知れ!お前は野営基地に戻ってろ、仕事に備えて無駄に使った魔力の回復に努めろ」
そう言うと男達を外に出した。
「くっ............不意打ちは悪かったな。おれは副隊長のスナツだ、決闘を申し込みたいと思ったが先の射撃の詫びに、そちらの今回の振る舞いは不問に処理する。恥の上塗りはごめんだ、俺らは戦場では前線を押し上げる隊だから血の気の多い馬鹿が多いんだ」
詫びたくない、だが筋が通らない。だから決闘も暴れた事も無しにする事でケジメとしようとする。
「まあ、悪いけど見たらわかるわ。そっちから喧嘩売って来た割に偉そうで腹立つけど、こっちも大人になって割り切るよ。じゃあ、もう飯食いたいから戻る。部下の手綱はちゃんと握れよ」
と店に戻ろうとするが引き止められる。
「ちょっと待て、これは詫びだ。私達のツケで好きに食べると良い。そしてもうこの町から出たほうが良い、起きた隊長が怒り狂ってお前を探すぞ」
「ほお?ありがとよ、確かに変装は無理だしな」
そう言いながら副隊長が紙に何か書いた物を渡すと去って行く。
「はぁ............脳筋で助かったな。この紙は............あいつのサインと詫びの文章か。もう忘れよう、さっさと飯食おうぜ!」
「俺は昨日からずっとヒヤヒヤしている............」
「まあいいから飲みましょ♪」
そうして一行は再度店に入り、店内の端で震えている一般客に謝罪しつつ豪遊。
「マスター!1番高い酒をくださいまし!あの腰抜けの奢りですから!」
「あまりそうしていると恨まれるぞ............」
「もう恨まれてんだからいいだろ、私は1番高い肉料理!」
「分かりました............正直助かりましたよ、こちらとしても」
とうんざりした表情で頭を下げて言うマスター。
「それは良かったですよ」
と笑いながらサムズアップするヒカリ。こうして馬鹿みたいに豪遊し、傭兵団の3番隊の給料が減ったのは言うまでもない。
そして宿に戻り一息つく。怒涛の戦闘の連続で1人だけ魔法でしか休めていないアッシュは服を脱ぎ楽な体勢で巨体種族専用のベッドに寝そべる。
「はぁ............俺が腐れ野郎から引き受けたのが悪いが疲れた............悪いが寝るぞ、何かあれば呼べ............ぐぅ............」
爆速で眠るアッシュ。2人は少し寝たのとヘレルの魔法で疲労が無い為、眠らずにいた。
「ふぅ〜、この世界は面白いが命がいくつあっても足りねえなぁ。私の住んでいた国は基本老衰まで生きれるよ............」
「すごいわね!大体この世界は賊か魔物に殺されるか疫病で死ぬわ。でも最近は技術も発展した方らしいからあなたのいた世界に近づくでしょうね〜」
「そりゃあいいなぁ、それよりあんなにバカスカ飲んでいたのに顔色すら変わらないなんてすごいなライラは」
基本度数40%以上の酒を何杯も飲んだのに一歳酔っていない上に胃袋に収まりきるのかと疑問に思うヒカリ。
「だから言ったでしょう?私はお酒に強いって!」
ムフーと自慢げに言う彼女を見て微笑むヒカリ。
「ははっ、本当にすごいよ。あ、思い出したんだけどあの傭兵団は知ってる?やっぱり有名なの?」
「そうね、お金はすごくかかるけどそれに見合う仕事はするって有名ね。私が城下街で暮らしていた時から雇われていた気がするわ」
「ほへー、あいつは3番隊隊長って言っていたけど何番まであるの?やっぱり1番隊が1番強い??」
「うーん、かなり増減していた気がするから正確にはわからないわ。ちなみに1番だから強いとかじゃなかった気がする、確か役割毎に部隊を分けているから」
「あーそう言えば自分たちの役割みたいなの言っていたなぁ」
と答えているところでライラが話題を変えた。
「そう言えばまだ貴女の事をあまり知らないのよね〜お互いに自分の事話さない?」
「おお!そうだね!じゃあライラから聞かせて、この世界の事も知れるだろうしね」
「わかったわ!えーっと............」
そうして夜になるまで2人は仲良く相互理解を深めた。
あの時ジュナクを殺そうと思えばヒカリは一撃で内臓破裂させて殺せています。ですがジュナク相手に魔法ありで戦った場合、ヒカリはアルカナソードありでも勝つのは厳しいです。
ヒカリの真名魔法は相手に触れる、魔法自体に触れるもしくはその魔法が込められたモノに触れないと基本的にコピーできない上に発動条件も相手と同じなので、予備動作や詠唱など色々行い発動するタイプだとせっかくコピーしても把握しなければ発動できません。




