091-宇宙のレストランで
食事を終えた俺たちは、アンドロイドがお盆を片付けてくれたのでデザートタイムに入っていた。
俺はフルーツケーキを謳う謎のケーキとお茶を、アルは緑色のシャーベットとホットミルクを交互に食べていた。
「やっぱりさ、ここは捨てられないと思うんだけど」
「でも...」
そして、そんな時間でも俺たちは会話をやめない。
買い物の内容は決まったとはいえ、観光計画である。
携帯端末でガイドに連絡を入れて、おすすめの企業エキシビション会場などを送ってもらった。
最先端の技術を、コーポレーション側が積極的に展示しているので、どれも魅力的だ。
「イザリオ・バイオテックとかどう? なんか、品種改良した果物とか食べられるんだって」
「危なくないの?」
「AIの審査通過済みだよ、実験じゃないわけだから...」
アルは子供だから、食べる系のアクティビティには敏感かと思ったが、鋭い質問が飛んできた。
だがもちろん、客で実験をするほど終わってる企業ではない。
安全性は保証されているそうだ。
「僕は...うーんと、船が見たい!」
「また船?」
「でも、気にならない? 船の設計図作ってるところ見たい!」
あーそっちか。
俺は考える。
シップヤードではなくシップメーカーのエキシビションなら、船の設計に関する情報を得られるかもしれない。
「よし、そこも行こう」
「あとはー...」
そう長くは滞在しない予定なので、予定は慎重に詰めなければならない。
だが、もう一日残っているし、また明日決めればいいか。
俺はさっきから惰性のように食べていたフルーツケーキに手を伸ばす。
美味しい、のだが...
「(やっぱり、わからないな)」
前世で女性がスイーツに目がなかった理由が。
諸説あるとはいえ、男性ホルモンが一定量の糖分を拒否するという論文がありそれを目にした事で納得したが...
肉体の99%は完全に女性と断言できる今、元々甘いもの好きの俺はもっと食べられていいはずなのだ。
謎だ...
「ま、個人の趣味ってのもあるかな」
「え?」
「何でもないよ」
俺はケーキを完食する。
このペースで自堕落に過ごすと太るな...
もっと筋トレに精を出さなければ。
俺はそう考えて、ふと周囲を見渡した。
この世界には、色々な種族がいる。
人間用のレストランとはいえ、仲間に付き添って来ている異種族も居た。
例えば、ハムート人とかな。
消化器官が原始的なために、汁物しか味わえないと聞く。
だが、その分味覚が鋭く、飲み物のスペリャリストと言っても過言ではない。
そんなハムート人が、遠くのテーブルでスープを飲んでいる。
アクラ星系の味噌を使った魚醤スープで、信じられないくらい美味かった。
逆にいえば、彼等の舌から見て美味いものはそれだけで三ツ星同様だ。
そういう「事情」をいくつも理解しなければ、大きな商売は難しいということでもある。
輸送依頼や日用品の取引にとどめているのも、よく知りもせずに大商売を行えば大損するからだ。
「戻ろっか」
「うん...」
満腹になると、思考がうまくまとまらない。
俺は綺麗に全てを完食したアルと共に、レストラン会場を後にする。
ここでの食事は宿泊費に含まれているので、支払いの必要はない。
明日に備えて、早く寝てしまおう。
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