089-チェックイン
数時間後。
俺たちはホテルのロビーにいた。
わざわざレセプションに並ぶ必要もなく、チェックインは済ませた。
「2055号室だって」
「じゃあ、すっごく高い?」
「どっちの話?」
そんな取り留めのない会話をしながら、俺たちはエレベーターに乗る。
流石に宿泊者が多いだけあって、エレベータールームにあった扉は全部で三十。
ボトルネックもくそもない構造だ。
長い廊下を歩き、取った部屋の前へ。
「開けるよ」
「早く早く!」
扉を開ける。
その先にあったのは、落ち着いた様子の一室だった。
少なくとも標準人間用で取ってるので、あまり変な部屋ではなかった。
「いろんな種族用の部屋があるんだけど、私たちは人間だから...」
「すっごく良い部屋! ありがとう、リリーさん!」
「うん、良かったね」
ベッドは二つ、通路を跨いで置かれていた。
窓の外は宇宙...というわけではなく、森が広がっていた。
ベッドサイドのディスプレイから操作すると、森の光景が海へと変わった。
「えっ!?」
「あー、そういうことか」
考えてみれば宇宙に住む人々にとって、宇宙を見ながら寝るのはいつもと変わりない。
だからこの部屋には、惑星上でしか見れないものが写っているのだろう。
「シアターにもなるみたいだよ」
「へぇ...!」
俺は洗面所と浴室もチェックする。
このホテルは大浴場がついてないタイプだからな。
何しろ多種族が泊まりに来るわけで、人間用以外も用意しないとならない。
「お風呂大きい...!」
「後で背中洗ってあげるからね」
「は、はーい...」
まあ、ここはあくまで買い物拠点でしかない。
三日の宿泊プランで取ってはいるが...
「今日は何するの?」
「今日は何もしない」
旅の疲れを何とやら。
俺はベッドに腰掛けてホテルの案内を見る。
このホテルは「惑星上と同じおもてなしを」がコンセプトだ。
ホテル内には庭園を模したスペースや、草原を体験できるスペースが存在しているらしい。
「このホテルのディナーはビュッフェ形式だから、三日しっかり楽しめると思うよ」
「えっ!?」
どんなディナーかは行ってからのお楽しみ、だ。
俺は部屋の冷蔵庫を漁り、サービスのドリンクを発見した。
「アル、はいこれ」
「これ...何?」
「パフカっていう花の香りのする水だって」
アルは困惑している様子だ。
まあ、ミネラルウォーターの方がいいよな。
俺も同意しつつ、一口飲んで冷蔵庫へ再びそれを仕舞った。
「アル、夕ご飯までちょっと時間あるからさ、アレして遊ぼうよ」
「あ、うん! 昨日レベル50まで上げたよ!」
地球のゲームに似たものを見つけたので、アルとやる事にしたのだ。
ワープ中は娯楽に困るしな。
「一旦今日は狩りしよう、レベル80はないと厳しいから」
地球ならオンライン級のクオリティを、携帯端末だけで遊べるのは凄い。
というわけで、全部コンプしきるまではずっと楽しめるだろう。
そんなふうにして、俺たちは時間を潰した。
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