008-ジュディ
「よし」
俺はマーケットにマサドライトを流す。
数はとりあえず少量。
それが終われば、今度は買うものについてのリサーチを始める。
「えーと、この国は...」
オルトス王国。
広大な領土を持ち、その統治者はアーラム・ディクロス・オルトス。
国内で流通している主な攻撃武装は実体砲、レーザー、ミサイル。
防御方式はシールドで、国内に最も多数いる海賊は「カルメナス」、海賊国家カルメナスに所属する、他の地域密着型の海賊やマフィアグループとは異なり、侵略に近い行為を行う勢力なんだそうだ。
「となると、あまり高いものは運べないな」
輸送艦ともなると、敵は「カーゴスキャナー」を使ってくるだろう。
船には対電子戦防御装置があるが、恐らくそれを貫通する装備があって然るべきだ。
カーゴスキャナーとは、SCLの装備でスキャン波を飛ばして船のカーゴベイの中身をスキャン、その中身を容易に知ることのできる装備だ。
「最初は安くて需要があって軽いものから始めるべきだな」
反芻するように呟く。
安くて需要があって軽いもの...それは即ち、食料・飲料だ。
業者の仕事を代替する形になるが、SELLの輸送依頼掲示板にはそういった、追加輸送依頼などが出されていることもある。
だからこそ、安いところ...つまりは物が集積される場所で購入し、モノの搬入されにくい場所で売る。
そうすることで、マーケットにそれを買い求めに来た人間が現地基準の相場で買ってくれる、というわけだ。
その辺の法律ってどうなってるんだ、と思ったが。
この国は半分絶対王政と半分立憲君主制なので、民主的な活動で作られた法律と、貴族と企業がグルになって作った法律が混在しており、違法性はそんなにないらしい。
「それなら、小銭を稼ぐくらいはいいか」
そう思っていた時、通知を知らせる軽快な音が鳴り響く。
キーボードを叩いて画面を操作すると、マサドライトに買い手が付いていた。
売値交渉がしたいようだ。
「思う壺だな...」
このまま相場を探り、少量を売り払う。
相手は値切ってくるだろうから、その最小を見計らうのだ。
『Lilly:こんにちは』
『Judy:失礼致します』
やはり、チャットの文字も読むことができる。
俺はキーボードを叩き、次なる一手を考える。
『Lilly:本日はお値引き交渉との事でしたので、応じさせていただきました』
『Judy:はい、お値段の所、kg単価一万MSCとの取引でしたが、お値引き頂けませんか?』
『Lilly:では、王国中央部での平均取引額までお下げ致しましょうか?』
『Judy:それですと、単価18万ですので殆ど変化しないのです』
ふむふむ。
やはり単価はこの辺だったか。
もう少し攻めてみるか?
『Lilly:では、17.5万で如何ですか?』
『Judy:もう少しお値下げ頂けませんか? 可能であれば、お取引先をいくつかご紹介致しますので』
交換条件か、見ず知らずの俺相手に?
しかし、面白い。
信用商売なんて名ばかりだというのに、こちらを信じて取引をしようとしてくれている。
それも打算あってのことだが、美学を感じる。
『Lilly:分かりました。15万で取引致します』
『Judy:ありがとうございます。では、価格の再設定をお願いします』
『Lilly:横取りされても面倒ですから、直接契約で搬送いたします』
『Judy:では、送料はこちらが持ちます』
こうして、初の売買は終了したのであった。
俺は1500万MSCを手にし、同時にマサドライトのある程度の相場を把握し、コネも同時に手に入れた。
想定外の収穫はあったが、概ね計画通りなのだった。
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