077-ウルブレン・ワープドライブ工場見学1
翌日。
俺たちはオリオンをアイネマン第二惑星の軌道上にあるウルブレン工業の工場ステーションに入港していた。
昨日のうちに予約を入れてあるので、すぐにアンドロイドがやってきた。
人間の人員はほとんどいないようだな。
『我がウルブレン工業のファクトリーへようこそ』
「ええ、本社はインナーリウムに?」
『その通りでございます』
ロビーはたいして混んでいなかった。
もともと、商談の客の方が多いんだろう。
「ね、あれなに?」
「んん、何だろうね?」
その時、アルがある一方を指し示した。
俺がそちらを見ると、謎のオブジェがあった。
『あちらは王国初代ワープドライブの模型ですよ、全てのワープドライブメーカーの工場には、名もなき開発者への敬意を表し、模型を配置しているのです』
「名もなき?」
『初代ワープドライブは王国にとって軍事機密であったため、開発者とその所属組織の名称は抹消されているのです』
成程なあ。
確かに、ワープドライブがあれば他国と大きく差を付けられる。
そのためには、人権を抹消してでも開発を断行する必要があったのだろう。
『さて、早速工場内にご案内したいのですが......』
「何ですか?」
『ワープドライブの性質上、放射線被爆や熱傷を負う危険性があるため、工場内の移動は専用のリフト内から見下ろす形になります、それでも構いませんか?』
「アル、大丈夫?」
「うん!」
安全を取るのは悪い選択肢ではない。
ワープドライブの原理をよく知らない以上、無理を言って放射線障害を負う可能性も充分にあるという事だ。
『工場見学前に、我が国でのワープドライブの開発の経緯をお話するパビリオンがございます、寄って行かれますか?』
「ぜひ」
これは俺も興味がある。
だって、ワープドライブだぞ?
地球では夢のような産物で、理論的には可能だが机上の空論であるような代物だ。
オリオンのワープドライブとは仕組みが違うようだが、ウラシマ効果が発生しないというのも謎だ。
俺とアルは、順路に沿って奥へと向かった。
そこでは、映像を見れるスペースがあり、そこで俺とアルは映像を見た。
『もともと、王国では既にワープドライブが流通していました。しかしながら、古代の遺跡から発掘された産物であり、複製どころか修理も出来ないようなもので、同じように発掘品を利用していた他国と差をつける必要があったのです』
映像内では、何だか偉そうなお爺さんが解説をしてくれていた。
「レリック・ライトドライブ」というものが王国の建国初期には使用されており、古代の戦場跡から数基が発見できる程度のものだったという。
その代わり高性能で、輸送艦や主力艦に積まれて使われていたという。
『当時、ワープドライブの原理は推測や憶測でしかなく、明確に理論として確立されているものではありませんでした。それどころか、レリック・ライトドライブは”光速を突破する”というだけで、現行のワープドライブのような数光年を高速で移動するというものではありませんでした』
ライトスピーダー.....例の宇宙戦争に出てくるようなものに原理としては近かったという事らしい。
そして、ワープドライブの開発機関が設立され、名無しの研究者たちがそこに集ったという風に話が進んでいく。
『船体そのものを光速に加速する技術は二百年をかけて完成したものの、そのままではレリック・ライトドライブとは異なり、ワープ中に元の惑星では何か月も経ってしまうという欠陥がありました』
つまり、別の仕組みに置き換わったという事だ。
どういう事だろうか?
『しかし、これを解決したのが......私の友人です。今でも名前を明かすことはできませんが、彼は船を双極磁性のバブル.....泡で包み、目的地まで船の時間を外と同じに保つ事に成功したのです。そして、このバブルによって船が損壊する危険性がなくなったため、空間平面状のグリッドを歪曲させる形での高速飛翔空間――――ワープトンネルの形成による光速での移動が可能となったのです』
日本語でおk。
いや、日本語でもないんだろうが。
要するに、船を泡で包んで、そのまま通ると船も無事では済まない加速トンネルを通って超加速するというものなのだろう。
「あ、終わった」
『――――近年では、このワープトンネルの経路上に配置することで、バブルの維持を阻害し、安全装置を強制作動させてワープを停止させるインターディクターが開発されていますが、軍事用でまだ民間用ではありません』
終わった映像の続きを、アンドロイドが引き継いだ。
そして、照明が点灯すると同時に俺たちを手招きした。
『さて、お次はお待ちかねの工場見学になります。気を付けてついてきてくださいね』
「アル、行こう」
「...うん」
つまらないものに付き合わせてしまったな、と俺は反省する。
俺の好奇心だけで、アルの楽しみの邪魔をしてしまったと。
しかしすぐに切り替えて、戻るのであった。
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