007-嫌悪と、精一杯の抵抗
というわけで、俺はペリメーターの第二ステーション...つまりは商業ハブへと辿り着いた。
流石に商業ハブとしてはこの辺で最大なだけあり、円筒状のステーションの周囲には物凄い数の船が浮いていた。
『入港を希望されますか?』
「はい、お願いします」
『整理券を発行します。2331番です、呼ばれるまでお待ちください』
物凄いお役所対応だが、この数ならば仕方ない。
あまり長居できないのかとも思ったが、単純に収容数の問題ではなく、ステーション内の輸送インフラや、停泊時の整備などを踏まえた調整を行なっているようだ。
「流石に、凄い規模のマーケットだ...」
マーケットデータを見ると、とんでもない数の売り注文が目に入ってくる。
慎重にソートし、鉱石類や雑貨類を見ていく。
「...ん?」
マサドライト。
うちの艦にも積んでいるが、その名前に見覚えのない鉱石の一つだけ、高額の買い注文があるが売り注文が一つもなかった。
「これは...売りだな」
SCLの世界であれば、まず詐欺を疑うが。
しかし、この額は詐欺ではないだろう。
適当に相場を調べたところ、ジュースの原価が2.2MSC(MajestySecureCredits)。
マサドライトのkg単価は202.1万MSC。
こちらには50t分の積載分がある。
「まあ、先ずは登録からだが」
マーケットに流すためには、SELLへの登録が必須だ。
もう身分証の本登録は済んでおり、メールでその旨が送られてきた。
ネットワークにアクセスすると、更新された身分証が反映される。
「よしっ」
これで登録が出来るが、ペリメーター第二ステーションにあるSELLの支部は有人だ。
それどころか、輸送依頼の交渉場所でもあるために人も多い。
この身体で出るのは緊張する。
あとは...
「女っぽい喋り方ってなんだ...?」
声はなるべく高くするべきだろうか。
怪しまれないようにしないと、俺はただでさえ身元不明の外国商人だからな。
『2331番の方、誘導ビーコンに従って77番ガントリーに入港してください』
その時、俺の番がやってきた。
オリオンを駆り、ドックの中へと入る。
そこはガントリー(船の着陸台)の並ぶラックのような場所だった。
俺は慎重に船を操作し、七十七番と書かれたガントリーに船を下ろす。
直後、固定される金属音が響く。
『荷下ろし及び、積み込みをご希望の場合は、ステーション管理局までお願いします』
「はい、ありがとうございます」
荷下ろしと言われても、売るものもないのだからまだ必要がない。
俺は身一つで船を出る。
船をロックし、貨物エレベーターで最下層へ。
そこでは、ステーション内専用のトラックが往来し、その左右端を歩道として利用している場所であった。
「...」
道を行く異種族たちは何も思わないようだが、
同じ人間は、俺を二度見する。
その視線に耐えつつ、ステーションの中へ入る。
喧騒は過ぎ去り、空調の機械音と足音だけが響く。
まるで、テーマパークのSFエリアのようだが...
「...!」
長い通路を抜け、広いロビーに出る。
そこから、右に曲がって外へと出ると...
広大な空間が広がっていた。
ビルが立ち並び、それは傾斜して左右に広がっていく。
円筒の内側に、ビルが張り付いているのだ。
「(広いな....)」
呆れつつ、街を歩く。
たまに男が話しかけてくるが、無視して通り過ぎる。
それを繰り返していくと、SELLの支部にたどり着いた。
「ここか」
見た目は普通のオフィスだ。
しかし中に入れば、多くの人間が交渉を行っている光景が目に見える。
全て遮音性のガラスもどきに阻まれていて、音は聞こえないが。
「人に見られても困らないような内容の話をしているというポーズか」
エレベーターに乗り込み、上へ。
最上階にある受付に向かうと、一斉に視線が集中した。
「おい、何だあいつ?」
「身体でも売りに来たのかよ?」
聞こえないとでも思っているのだろうか。
しかし、今の俺は貧弱な身体であり、彼らに挑戦することなど出来ない。
「.......登録を行いたいのですが」
「SELLへのご登録ですね、身分証と個人データの提示をお願いします」
「はい」
身分証と個人データを提示して、受付の男が作業をするのを見守る。
2分ほどで作業は終わり、俺の携帯端末が勝手にホログラムのポップアップを表示した。
「登録が完了しました、ようこそSELLへ」
「はい、ありがとうございます」
とりあえず一旦帰るか。
そう思って、エレベーターの側に立った時、手を掴まれた。
振り返ると、軽薄そうな男が立っていた。
「...何ですか?」
「おい、姉ちゃん。俺と付き合わねえか?」
「...?」
いきなりの事で、何を言われたか理解するのに暫くかかった。
沈黙を否定と受け取ったのか、男は続ける。
「俺はさるコーポレーションのお手付き運び屋なんだ、家を飛び出してきたクチだろ? 自分でチマチマ稼ぐより、俺と一緒になった方が楽に生きていけるぜ」
話にならない。
文字通り、「お手付き」ならそれは実績にはなり得ないし、何より。
「ふーん。じゃあ...いくら稼いでるか、教えてよ」
「大きな声じゃあ言えないが、マサドライトって知ってるか?」
「ええ、知ってるわよ」
「あれがでかいコンテナに丸々入るくらいは、一年ありゃあ稼げるぜ」
じゃあ、話は終わりだな。
今からそれを稼ぐ予定なのだから。
俺は男の手を振り払う。
「じゃあ、話は終わりね。お...私はそんなに安くないから」
これで不自然ではないだろうか。
一度言ってみたい台詞ランキングにありそうな言葉だ。
しかし...効きはしたようだ。
「...そうかよ」
男は引き下がる。
俺は背後に気をつけつつエレベーターに乗り込み、そのまま船まで急いで帰るのだった。
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