表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/29

007-嫌悪と、精一杯の抵抗

というわけで、俺はペリメーターの第二ステーション...つまりは商業ハブへと辿り着いた。

流石に商業ハブとしてはこの辺で最大なだけあり、円筒状のステーションの周囲には物凄い数の船が浮いていた。


『入港を希望されますか?』

「はい、お願いします」

『整理券を発行します。2331番です、呼ばれるまでお待ちください』


物凄いお役所対応だが、この数ならば仕方ない。

あまり長居できないのかとも思ったが、単純に収容数の問題ではなく、ステーション内の輸送インフラや、停泊時の整備などを踏まえた調整を行なっているようだ。


「流石に、凄い規模のマーケットだ...」


マーケットデータを見ると、とんでもない数の売り注文が目に入ってくる。

慎重にソートし、鉱石類や雑貨類を見ていく。


「...ん?」


マサドライト。

うちの艦にも積んでいるが、その名前に見覚えのない鉱石の一つだけ、高額の買い注文があるが売り注文が一つもなかった。


「これは...売りだな」


SCLの世界であれば、まず詐欺を疑うが。

しかし、この額は詐欺ではないだろう。

適当に相場を調べたところ、ジュースの原価が2.2MSC(MajestySecureCredits)。

マサドライトのkg単価は202.1万MSC。

こちらには50t分の積載分がある。


「まあ、先ずは登録からだが」


マーケットに流すためには、SELLへの登録が必須だ。

もう身分証の本登録は済んでおり、メールでその旨が送られてきた。

ネットワークにアクセスすると、更新された身分証が反映される。


「よしっ」


これで登録が出来るが、ペリメーター第二ステーションにあるSELLの支部は有人だ。

それどころか、輸送依頼の交渉場所でもあるために人も多い。

この身体で出るのは緊張する。

あとは...


「女っぽい喋り方ってなんだ...?」


声はなるべく高くするべきだろうか。

怪しまれないようにしないと、俺はただでさえ身元不明の外国商人だからな。


『2331番の方、誘導ビーコンに従って77番ガントリーに入港してください』


その時、俺の番がやってきた。

オリオンを駆り、ドックの中へと入る。

そこはガントリー(船の着陸台)の並ぶラックのような場所だった。

俺は慎重に船を操作し、七十七番と書かれたガントリーに船を下ろす。

直後、固定される金属音が響く。


『荷下ろし及び、積み込みをご希望の場合は、ステーション管理局までお願いします』

「はい、ありがとうございます」


荷下ろしと言われても、売るものもないのだからまだ必要がない。

俺は身一つで船を出る。

船をロックし、貨物エレベーターで最下層へ。

そこでは、ステーション内専用のトラックが往来し、その左右端を歩道として利用している場所であった。


「...」


道を行く異種族たちは何も思わないようだが、

同じ人間は、俺を二度見する。

その視線に耐えつつ、ステーションの中へ入る。

喧騒は過ぎ去り、空調の機械音と足音だけが響く。

まるで、テーマパークのSFエリアのようだが...


「...!」


長い通路を抜け、広いロビーに出る。

そこから、右に曲がって外へと出ると...

広大な空間が広がっていた。

ビルが立ち並び、それは傾斜して左右に広がっていく。

円筒の内側に、ビルが張り付いているのだ。


「(広いな....)」


呆れつつ、街を歩く。

たまに男が話しかけてくるが、無視して通り過ぎる。

それを繰り返していくと、SELLの支部にたどり着いた。


「ここか」


見た目は普通のオフィスだ。

しかし中に入れば、多くの人間が交渉を行っている光景が目に見える。

全て遮音性のガラスもどきに阻まれていて、音は聞こえないが。


「人に見られても困らないような内容の話をしているというポーズか」


エレベーターに乗り込み、上へ。

最上階にある受付に向かうと、一斉に視線が集中した。


「おい、何だあいつ?」

「身体でも売りに来たのかよ?」


聞こえないとでも思っているのだろうか。

しかし、今の俺は貧弱な身体であり、彼らに挑戦することなど出来ない。


「.......登録を行いたいのですが」

「SELLへのご登録ですね、身分証と個人データの提示をお願いします」

「はい」


身分証と個人データを提示して、受付の男が作業をするのを見守る。

2分ほどで作業は終わり、俺の携帯端末が勝手にホログラムのポップアップを表示した。


「登録が完了しました、ようこそSELLへ」

「はい、ありがとうございます」


とりあえず一旦帰るか。

そう思って、エレベーターの側に立った時、手を掴まれた。

振り返ると、軽薄そうな男が立っていた。


「...何ですか?」

「おい、姉ちゃん。俺と付き合わねえか?」

「...?」


いきなりの事で、何を言われたか理解するのに暫くかかった。

沈黙を否定と受け取ったのか、男は続ける。


「俺はさるコーポレーションのお手付き運び屋なんだ、家を飛び出してきたクチだろ? 自分でチマチマ稼ぐより、俺と一緒になった方が楽に生きていけるぜ」


話にならない。

文字通り、「お手付き」ならそれは実績にはなり得ないし、何より。


「ふーん。じゃあ...いくら稼いでるか、教えてよ」

「大きな声じゃあ言えないが、マサドライトって知ってるか?」

「ええ、知ってるわよ」

「あれがでかいコンテナに丸々入るくらいは、一年ありゃあ稼げるぜ」


じゃあ、話は終わりだな。

今からそれを稼ぐ予定なのだから。

俺は男の手を振り払う。


「じゃあ、話は終わりね。お...私はそんなに安くないから」


これで不自然ではないだろうか。

一度言ってみたい台詞ランキングにありそうな言葉だ。

しかし...効きはしたようだ。


「...そうかよ」


男は引き下がる。

俺は背後に気をつけつつエレベーターに乗り込み、そのまま船まで急いで帰るのだった。


↓小説家になろう 勝手にランキング投票お願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ