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069-蛮勇か英断か

『前線が崩壊! これよりスターゲートを解放する、民間人の全艦艇はスターゲートに向けて最高速度で前進せよ』


艦列が凄まじい速度で動き始める。

それを背景に、オリオンが戦闘を行っていた。

凄まじい精度の砲撃が、小型怪獣を焼き払い、同じく雷撃が怪獣に直撃、吹き飛ばしていた。


「やはりか、一度脅威となった者の姿を記憶し、全体で共有するとはな」


ハイレンスキー子爵は、ダズ伯爵に命じられこの場の指揮を執っていた。

それ故に、敵の特性にいち早く気付き、艦隊を素早く再編成したのだ。


「ゲート側に展開するのだ! 誤射が怖ければ外側向きに撃て!」

『子爵殿! 味方から輸送艦を撃つのかと通信が来ております!』


指揮を行う子爵に、通信士官が叫ぶ。

それを聞いた子爵は、思い切りひじ掛けを殴った。


「馬鹿者が! あの怪獣に絡まれて一分以上持ちこたえている艦に、捕捉もしとらん誤射如きが効くと思うか! 撃て、撃って撃って、撃ちまくるのだ!!!」


巡洋艦隊の集中射撃が、オリオンの周辺に密集する宇宙怪獣に襲い掛かる。

オリオンの重粒子レーザー砲と異なり、星系軍の使うものは6.3センチ収束粒子ヘビーパルスレーザー砲であるため、連射力に特化している。

小型宇宙怪獣の外皮は、この短期間での死骸回収により機密指定だが、レーザーを吸収し発散するという特徴を持っている。

それ故に、1秒間に2回射撃できる星系軍のレーザー砲ならば、物理的に「焼き切る」オリオンの主砲よりも有効に作用する。


「わわわわ、めっちゃ撃って来てる!」

「落ち着いて、リリーさん!」


そして、当然ながら高密度の射撃は若干ではあるがオリオンにも当たっていた。

ブリッジでは大慌てのリリーを、必死にアルが抑えている。

というもの、子爵から『これより貴艦ごと撃つ、異論があれば申し立てよ。損害があれば後で請求してくれたまえ』とメッセージが飛んできた直後に射撃が開始されたからである。


「良かったのですか、子爵?」

「人として、軍人としては無能だろうが、しかしこの場はこれが最適だ! 躊躇はするな、今はこれが最善だと思って撃て! 責任は私が全てとる!」


ハイレンスキー子爵も、悪いとは感じていた。

だが、真横に民間人が列をなしており、そこに脅威が集っていれば――――


「私は英雄などにはなりたくない。しかし、民間人の中にあれらが群れ、それを撃つことも出来ぬ無能には成り下がらぬ! いかな罪も受け入れよう、なんなら録音すればいい、言質を取るがいい! 貴族として、私は引き下がるわけには行かんのだ」


このダズ・クヴァタという土地。

栄達は望めず、そして石ころ以外には何もない土地。

そこにいるという事は、利権や貴族の柵から離れているという事であり、多くの人間を背負う覚悟が出来ている者が多くは無かろうが、少なくとも存在するのだ。


「前面に突出した艦隊が後退を求めてきています!」

「うむ。後衛と位置を入れ替えよ! 砲身を急速冷却!」


積極的に射撃を行う前衛と、冷却を行いながら副砲の高圧粒子砲による援護射撃で支援する後衛。

これらを三列に分け、射撃の密度をなくす。

『ヴァフニンダルの蛮族撃ち』とされる戦術の一種である。

有能な人間の指揮する艦隊相手には本来用いられない戦術だが――――知能のない怪物相手には、優秀であった。


「しかし、キリがないな.....」

「オリオンより通信が入っておりますが」

「繋げ」


その時、通信士官がオリオンからの通信を報告した。

ハイレンスキー子爵は応じ、上部モニターにリリーの姿が映る。

それに一瞬、何人かが吃驚して画面の方を見る。

キッと子爵が睨んだのを見て、業務に戻った。


「リリー・シノ殿、何か?」

『小型だけを撃ってもキリがないかと』

「では、どれを撃てと?」

『あれです』


リリーは、ある一点を指す。

それは、画面から見て右。

子爵から見て左――――宇宙空間に数匹の小型怪獣を伴って浮かぶ、一匹の中型。


「しかし、あれにはビーム攻撃は.....」

『予測ですが、多角度からのランダム射撃であれば、屈折限界を超えると思われます』


本当は戦闘コンピューターの提案なのだが、リリーは堂々とそれを語る。

だが、ハイレンスキー子爵はその是非を問うよりも先に、行動へと移す。


「ウハハハハ! 駄目で元々! 全艦に通達! 中型を狙い撃て!」

「了解!」


笑い飛ばすことで、冗談を言うように。

また馬鹿を言い出したと呆れさせるために、そう言った。

直後、艦隊のうち数隻が中型に射撃を開始。

足並みをそろえるように、遅れていた数隻が回頭、射撃を開始する。

すぐに砲塔を旋回させながら艦の向きを修正し、撃つ。

中型は最初はビームを曲げていたが、ハイレンスキー子爵の指示により中型を包囲した艦隊が、多彩な角度から射撃を加えたことで曲げきれなくなり、射撃を喰らって内部に貫徹、爆死した。


「小型怪獣、散開を開始.....いや、違います! 射撃を停止して分散!」

「ほう、有効であったか。これより掃討戦に移行する! 輸送艦オリオンに打電せよ、”戦域を離れてスターゲートを通過したまえ、経過や罰則、褒章などについては追って通達する”とな!」


かくしてオリオンは戦域を離れ、艦列に合流した。

子爵率いる艦隊は、分散した小型怪獣を殲滅するべく動き出した。


『どうして?』

『どうして?』

『どうして?』

『何故撃つの?』


耳鳴りが、宇宙へと響いていく――――

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