006-移動開始
オルトス王国、サタマイラ地域。
そこの一大商業ハブは、「ペリメーター」と呼ばれる星系だ。
田舎に当たるらしいこの地域で「ペリメーター」とは、中々皮肉が効いているように見える。
ただ、この世界の言語は地球とは違うから、また別の意味があるのだろうが。
「言語が通じる理由は分からないんだがな」
俺にとっては日本語に聞こえる。
だが、実際は文字は全く別のもので、字を書いたり、入力するときは苦労する。
文字を理解することはできるのに、だ。
「その辺の謎はおいおい、か」
俺は作った料理を皿に盛り付ける。
材料はたっぷりあるので、ペペロンチーノを作った。
胸が邪魔で結構難しかったり、こっちの調理器具の便利さに戸惑ったりしたが、味の方は問題ない筈だ。
「...うまい」
前世でも一人暮らしだったから、一人の食事は寂しくないが。
凝ったものを作っても味気ないだけだな。
かといってこの体じゃ、この世界で仲間を作るのも難しいだろう。
金を貯めてアンドロイドでも買おうか?
「そういえば異種族もいたな」
俺は同性からの嫉妬も嫌だし、ステーションの男性職員から向けられた視線も嫌だ。
こうなったからには認めるしかないが、仲間にまでそれをやられると耐えられない。
前世で培った筋肉も失われた今、力仕事は少し厳しいから、道具か仲間が欲しいところではあるんだが...
「ああ、トイレは嫌だ」
そう呟きつつ、グラスに水を注ぐ。
男の時よりずっと排泄は面倒だ。
だが、腹は空くし眠くはなるし、性欲だって消えたわけではない。
それが無性に、嫌になる。
「食料が安いのは助かるが」
この世界では、新鮮な食材は手に入りにくい。
しかし冷食であれば、安価に手に入る。
「惑星に降りれば食材は安いんだけどな」
マーケットデータを見る限り、新鮮な食材を手に入れるには惑星に、それも充分農業開発が進んだ惑星に限って降りる必要がある。
ペリメーター星系に農業惑星はないが、フリーズドライのような製法の野菜ならどこかで手に入るはずだ。
「少なくとも、作る手間くらいか」
フードジェネレーターで簡単に作れるが、料理は心の休憩も兼ねている。
そして、皿洗い、乾燥は自動洗浄機が勝手にやってくれる。
作って食べるだけの作業である。
『ワープ目的地まで残り30分』
「そろそろ上がるか...」
俺はブリッジに上がる。
「ん?」
上がったはいいが、コンソールが勝手に起動している。
画面端に何かの表示が出ている。
『インターディクションを受けています ワープブースターを使用しますか?』
「インターディクション?」
重力井戸を人工的に作り出し、ワープトンネルの流動を阻害する技術だ。
ゲーム中では、これに引っかからないように移動するのが常識だったのだが。
「ワープブースターか.....燃料を無駄にするのはな」
インターディクションは掛けられている段階では通知が出る。
そして、徐々にワープ速度が下がっていくのだ。
「よし、使おう」
ワープブースターを起動する。
ワープドライブが放っている駆動音が一瞬高鳴りを見せた後、インターディクション通知が消える。
「燃料がごっそり減ったぞ....」
勿論、まだ予備燃料はある。
だが、この減りようは連発すると危険だな。
『ワープ到着まで15分』
ただ、ワープブースターはワープ速度を速める効果がある。
ワープトンネルの中で更にワープを重ね、インターディクションによる重力井戸の変調を上書きする....からだ。
「何だったんだろうか」
もし海賊だったら、最悪だったな。
インターディクションを振り切る手段はあるとはいえ、フォースシールドを突破する手段を持つ相手には分が悪い。
シールド展開時間は25分だが、被弾を続ければ突破される。
あと、シールドセルと呼ばれる媒体を消費してしまう。
媒体となるシールドセルは窒素化合物だから、また作る事は出来るんだが。
「まっ、いいや」
その辺のことも後から聞けばいい。
俺は再びコンソールに向かい、航路計画を見直すことにしたのだった。
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