030-血まみれの中で
戦闘開始から三十分が経った。
全部戦闘コンピューター任せにしていたら、艦隊はあっという間に四隻まで減っていた。
やっぱり、恐ろしい。
今沈んだフリゲート艦に、何人乗っていた?
『敵戦艦との相対距離、18kmに減少。全火力を戦艦に集中』
『パワー低下。イクシロンドライブの出力を30%に上昇』
『敵戦艦のシールドを突破、火器を優先して破壊します』
戦闘コンピューターの判断が、今もモニターに文字として表示されている。
上から読み上げれば、それがどんなに恐ろしい事なのかよくわかる。
『フリゲート艦を撃墜』
『フリゲート艦を撃墜』
『駆逐艦を撃墜』
『シールドの展開残り5分、シールドセルを再装填』
『フリゲート艦を撃墜』
『駆逐艦を撃墜』
『巡洋艦の自沈を確認』
『フリゲート艦を撃墜......』
まるで、ゲームのように人が死んでいく。
恐ろしくてしょうがない。
だけど、アルベルトを守るために戦うしかないのだ。
『な、なあ! 取引をしないか!? 見逃してくれたら金を払う、な、いいだろ?』
「........」
今もなお、沈みゆく戦艦から命乞いの通信が届いている。
繋がったままだからだ。
よく、アニメとかだと通信で悲鳴の後に爆散することが多いが、静かなのだ。
断続的に響いていた悲鳴が、船が沈むと同時にばったりと止む。
怖い。
これが戦争なんだと、俺は震えた。
『おい、やめろ! いくらでも金を払う! そ、そうだ....あんた商人なんだろう、ヤクとか....ブラックマーケットに便宜を図る! だから、た、助け....撃つのをやめひぇくれ!』
もう耐えられない。
ここで物語の主人公なら、さっきまでの威勢はどうしたと一笑に伏せる。
「もう嫌だ!!」
なんでこんなに、甚振るように殺さなきゃいけないんだ。
俺は震える手をゆっくりと動かし、戦闘コンピューターの自動制御を切ろうとした。
慎重に握り締めた手を開いて、指をパネルに伸ばす。
その手を、別の小さな手が掴んだ。
何をするんだと、責めるようにアルベルトを見た俺は、アルベルトの真っすぐな視線に射止められた。
「あなたは僕を守るために戦ってるんです.....だから、悪いのは僕なんです」
「.....ありがとう」
気付けば、通信は静かになっていた。
モニターに目をやると、
『戦艦を撃沈しました』
という表示が浮かんでいる。
俺は目を閉じて一瞬祈ってから、戦闘コンピューターを切った。
ワープが出来るようになっており、モニターには「警告:ドローン未帰還」と警告が出ていた。
ドローンを収容して、オリオンをワープさせる。
本当は作業用ドローンを出して、残骸を回収するべきなのだけど..........そんな余裕、この状況でサイコパス以外の誰が出来るんだ?
冷たい墓場から逃げ出すように、俺はオリオンをワープさせる。
ここはアステロイドベルトだが、ゲートからは近い。
流石にハイ・セキュリティ宙域にまで追手をかけては来ない筈だ。
それに.....戦う覚悟は出来ている。
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