003-戸惑いと現況把握
オリオンは、危険地域での活動を前提として作られた戦闘型の輸送艦だ。
しかし、本職の戦闘型と違ってそこまで強いわけではない。
「まあ、仮にも中型だからな」
足は遅いが、カーゴは広い。
そして、カーゴと艦内スペースを両立するくらいの余裕はあるのだ。
上層にはブリッジしかないが、中層には様々なものがある。
居住区に入ると、船室が六つある。
ゲーム中では使わなかったが、一つ部屋を確保しておくことにする。
「冷蔵庫の中身まで完備か」
冷蔵庫といっても、大型と小型がある。
厨房に併設されている方には何も入っていなかったが、大型の冷蔵室にはあらゆるものが揃っていた。
勿論、食材を使わない食事も可能だ。
「え、和食まであるのか」
フードジェネレーターという、分子組成をああしてこうする装置だ。
元となるバイオマス(有機物)があれば、いつでも好きなものを食べられる。
お腹は減っていないので、俺はそれを放置して外に出る。
「...水くらい飲んでおくか」
この身体だと、後が怖いんだが...
しかし、海賊に襲われたり、病気で死ぬのでも無く脱水で死ぬのはあまりにアホらしいからな。
俺は厨房に戻ると、蛇口をタップして水を出し、コップに注いで飲み干した。
ミネラル質の水では無く、精製水のような無味乾燥さだけれど、美味しかった。
「居住区はこんなものか」
トイレは浴室の側にある。
男女兼用なのが有難いのか、有り難くないのか。
「機関室に行ってみるか」
オリオンのメインドライブは『戦闘型イクシロン ヴァリアブルドライブ』という名称で、燃料の水素同位体を消費して動く。
それらは全てオート制御だが、一応見ておくくらいはいいだろう。
「暑い...」
機関室内に入ると、暑い空気が肌にじっとりと絡み付いてきた。
常に換気を行っているとはいえ、機関の排気熱が凄いのだろう。
「長居するところじゃないな....」
急いで飛び出した。
汗ばんだせいで、服が身体に張り付く。
これが腹のせいならまだ良かったのだが...
「ああ、何もしたくない....」
風呂に入るのも、排泄をするのも、この身体を受け入れるようで嫌になる。
そりゃあ、男であれば女になりたいと思う事は一度くらいはある。
だがそれは、異世界転移ってやつと両立してはいけないだろう。
ギャップの中で自己を確立していくものなのに、一人でこうやって自分の変化を確かめても嫌になるだけだ。
『ワープトンネル離脱まで、残り20分』
「......まあ、人と会うだろうしな」
お風呂くらいには入ろう。
それは最低限の「するべきこと」だ。
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