025-共同生活
こうして、アルベルトと俺の奇妙な生活が始まった。
といっても、普段とあまり変わりない。
パーソナルスペースを保ちながら、食う寝るブリッジで過ごす――――を繰り返すだけ。
ジュディからも返答を貰っていて、
『Judy:私の権限ではどうにもなりませんので、主人に相談しておきます。ただ、一介の輸送業者と企業同士の抗争に対して打てる手段は限られますので、ご了承ください』
とだけだった。
彼等も宮仕えだろうし、何か手を打ってくれるだけ有情だろう。
「(今日もブリッジにいる)」
アルベルトはブリッジに座って、ワープ中の外をずっと見ていることが多い。
あまりにも多いので、誤作動防止のセーフティをかける事になった。
「楽しい?」
「いえ....ただ、きれいだなって」
アルベルトの感性は俺には理解できないが、強い子だなとだけ思った。
父親が殺されて、死に目にも会えずに逃げ出したのに、塞ぎ込みもせずに、ただ前を見ている。
その眼には少しずつ光が戻ってきているようにも見えた。
「今日は何を食べる?」
「.....一昨日作ってくれた、カレーがいいです」
「カレーね」
製法はちょっと違うが、大体かつ代替カレーだ。
色も日本で見たやつと比べると緑ががっている。
時間がかかるメニューだから、俺は時間つぶしに出してみる事にした。
お金持ちの息子の彼の舌に合ったようでよかった。
「~♪」
俺は厨房で鍋をかき回す。
やはり食べてくれる人間がいるというのは素晴らしい。
一人で作って一人で食うのは虚無だからな....
「美味しい?」
「美味しいです!」
アルベルトは二杯おかわりした。
俺は再び評価を引き上げた。
やっぱり心が強い子だ。
「........」
シャワーを浴びながら、今後について考える。
男女別なので、風呂では唯一俺がアルベルトに出会わない場所だ。
張り詰めた糸が切れないように生活するのは辛いが、それでも僅かな楽しみを糧に頑張っていくほかない。
「フハ~.....」
風呂上がりで、お酒でも飲みたい良い気分だが......
残念ながらパイロットは俺しかいないので、酔っぱらうと緊急事態に対処できない。
それどころか、ほのぼのした雰囲気で日常が進んでいるが、こちらも割と余裕がない。
ゲートに張られている事はまだないが、ステーションに入港できない。
補給を受けられず、かつ傭兵を雇ったりも出来ないので、孤軍奮闘もいい所だ。
その代わり積荷は高い訳だから、贅沢は言うまい。
「スキャンには反応なし...か。よし、再ワープ開始」
SCLでは、目的地から目的地に直接ワープするのは避けた方が良いものとされている。
ワープ中に妨害してくる装置はこの世界では一般的では無いようだし.....ん?
ワープが終了したタイミングで通信が行われたようで、ジュディから連絡が入っていた。
『Judy:現在どこにいらっしゃいますか? デラー星系に到着次第ご連絡ください』
次の星系の名前だ。
まさか直接助けてくれるわけでもないだろうし、何か支援物資をくれるのだろうか?
「燃料はまだあるけど.....食糧が顕著だな....」
カレーもどきは数日中に作れなくなる。
香辛料なんて最も減りが速いものだしな。
肉類は冷凍はまだいいとして、魚介類はそろそろギリギリ。
俺だけならともかく、アルベルトが居るからな.....
「まあ、俺だけなら非常食で....」
アルベルトにだけ食わせることは一応できる。
全ては次の星系次第ではあるが.....
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