237-うつけ者の皇子様
応接間で待っていた俺たちの元に、立派な装備の男が現れた。
装備の胸には紋章がプリントされている。
「本日はようこそお越しくださいました、シノ様」
「ええ」
男は自分をジャミアンと名乗り、身分を近衛騎士団に置いていること、その長の一人であることを明かした上で、深く頭を下げた。
礼儀作法はあまり地球と変わらないのか。
「して、謁見の前に一つ尋ねたいことがございます」
何だろうか。
俺が緊張していると、予想外の質問が彼の口から飛び出した。
「ナスカ・テドラ...どちらで、このお方を?」
「...っ、機密に当たりますので話せません」
精一杯搾り出した声だった。
流石に王国軍とビージアイナ帝国軍の衝突は、非公式のものだ。
俺が話す権限はない。
「意図的に奴隷とされたわけではないのですね」
「ええ、あくまでも王国内での身分を担保する上で必要でしたので」
「そうですか...」
皇室の騎士団長がここまで。
余程の重要人物なのか...いや、まさか。
「ナスカは...何者なんですか?」
「ナスカ様、よろしいのですか?」
ジャミアンが、俺ではなくナスカに目配せする。
この反応、やはりナスカが上位に位置しているように見えたのは気のせいではない。
本当に上位者なのだ。
「ああ、ここには三人とメイドしか居ないだろう」
「わかりました、シラルド様」
シラルド?
誰のことだ?
そう思った俺だったが、その結論はすぐに導き出される。
この場にいる面々の中で、そう呼ばれるのに相応しい人物は一人しかいない。
「リリー・シノ様。こちらに居られる方は、帝国の第二の太陽...即ち皇位継承権第二位の、シラルド・アルターク・ヴィ・カナバスタ・エストジール様でございます」
俺は混乱した。
だが、同時に納得もしていた。
こんなやつが皇帝な訳ないよな、と。
「...追放刑じゃなかったんですね」
「いいえ、我々が皇帝を追放することはありません、それに、皇帝陛下がそう命じた記録もございません」
ナスカは突然いなくなり、シラルドではなくナスカ・テドラとなった。
そこに何があったかは知らないが、急にナスカが遠くなったように感じる。
こいつは俺たちを騙していた。
許せる事じゃない。
「ナスカ」
「悪いな、俺も事情があるんだ」
「そう」
まあいい。
とっとと借金を返して貰い、解放しよう。
そういう契約だからな。
「運賃分は支払って貰うよ、それだけ。...信じてたんだけどね、失望した」
「ああ」
きっとどうでもいいんだろうな。
帝国に帰れたんだ。
何も悩む事はない。
「それで、なのですが」
「何でしょうか」
「謁見には、シラルド様は先に入る形にして頂けませんか」
「構いません」
ナスカが俺と一緒に入ると、俺と同じ身分になるとか、後入りすると俺より下になるとか、そういう文化があるんだろう。
逆のような気もするが、ここではそうなんだろう。
「悪いな」
「謝らないで」
不快だ。
元から嫌いだったが、仲良くなったと思っていた。
だからか――――苛々する。
微妙な空気のまま、時間が来た。
俺たちは席を立ち、ある場所へと向かうのだった。
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