022-精一杯伸ばした手を掴んで
俺は空港へと戻り、入港させているオリオンへ向かう。
その途中で、またあの少年を見た。
定期便が出港した後らしく、呆然としている。
......危険な事には首を突っ込みたくない、そう思いつつ、俺は足を少年の方へ向けた。
「どうしたんですか?」
「定期便が....行ってしまって.....どうしたら....」
あの少年は、銃を持った人間に追われていた。
だから、手を貸せば俺も巻き込まれる。
それでも.....日本人の性か。
「(報酬さえ支払ってくれるなら)私の輸送艦に乗りますか?」
本音を隠したまま、俺は少年に手を貸した。
そして、同時に。
「いたぞ!」
「早く!」
「....乗ります!」
見つかったので、巻き込まれ確定である。
仕方ない、選んでしまったのなら。
だが、これきりにしたいものだな......
「あの、お姉さん.....」
「質問は後。今は、逃げる」
俺は急ぎ、ブリッジへ向かう。
少年をとりあえず連れて、ブリッジへと上がる。
「こちらSELL所属、輸送艦オリオン! 管制室、出航許可を!」
『申請を受理しました、出航許可を出します』
止めていたイクシロンハイブリッドドライブを起動する。
水素燃料が注入され、ハイブリッドドライブの重低音がブリッジに響く。
舵を握り込み、まずは船体を浮かせる。
そしてそのまま、スラスターを吹かしてオリオンを発艦させる。
雲を突っ切り、空へと向かってまっすぐに飛ぶ。
「...」
衝撃は無い。
全ての船にデフォルトで搭載されている慣性制御装置が、外部からの衝撃で船が受けた影響を遮断するからだ。
俺は船が惑星軌道上に出たことを確認し、直ぐにペリメーターのトレードハブへと船をワープさせた。
「...さて、詳細を聞きましょうか」
「はい...」
少年は俯く。
そういえば俺は、この子供の名前を知らなかったと気づく。
「お...私はリリー・シノです、あなたは?」
「ぼ、僕は...僕は、アルベルト・フィオーネです」
聞いたことのない名前だ。
当然だが。
「なぜ追われていたのですか?」
「それは...その」
「話しにくいことなら構いません、ただ、あなたをトレードハブに送り届けた後、つまり、この先の協力はしません」
「...は、話します!」
アルベルトは慌てつつも、口を開く。
俺はその話しに耳を傾ける。
「僕はフィオーネ・エレクトロニカルの社長...お父さんの実子です、が...その、お父さんは殺されてしまいました」
「!」
意外と大物だった。
同時に、百倍のきな臭さが鼻を突く。
「僕はジオランド星系にある家に帰らなければいけないのですが、お父さんが...ひぐっ...う...」
アルベルトは泣き出してしまう。
仕方ないことだ、父親が殺されて平静でいられるわけがない。
緊張が和らいだことで、涙腺が崩れ落ちたのだろう。
俺は暫く、泣き続けるアルベルトを見守った。
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