020-介入
こうして、マサドライトの競売が始まった。
といっても、実際に会場に集まりオークションが始まるわけではない。
会場は確かにペリメーター星系のトレードハブだが、ペール商会がSELLのリモートオークションシステムを使う事で、匿名性の高い取引が実現されているのだ。
『Judy:順調のようですね』
『Lily:はい』
システムは単純だ。
参加者たちは、複数回に分割して行われるマサドライトの販売に対し、始値から始めは大きく、その内少しずつ値が付けられ、これ以上上がらなくなった、と思われた際、最後に一番高い値を付けている人間がこれを入札、支払いの後にSELLによって発送が行われる。
マサドライトの行方を追おうとすれば、SELLとのコネクションが必要になり、自然とそれが出来る人間は限られる。
うまいシステムだと思う。
マサドライトの持ち出しは当然ながら、警備艦隊を合流させて行うだろうし、不埒者の介入が起きにくい。
「でも、今のところは普通だな」
第一、第二ブロックの競売は既に終了しており、俺の船からマサドライトのコンテナが配送されている。
最終的な儲けは、ここ数日で俺がチマチマ稼いだ額の数百倍にも上るのだろう。
「第三ブロックは....」
現在、162万MSCで止まっている。
実際は端数以下での壮絶な戦いが起こっているのだが....
「支度金には十分だな」
マサドライトの競売ブロックは残り七。
予想額は一千万MSCを超える筈だ。
この金を運用して、更に増やす。
仲間を増やしてもいいし、船団を率いるのも悪くないかもしれない。
あぶく銭だから、身を崩さないように気を付けないと。
「....ん?」
その時。
俺は、第三ブロックの競売が一千万MSCで終了していることに気づいた。
たった一瞬で....?
直ぐに第四ブロックを見ると、五百万MSCですぐに六百万MSCへと変遷する。
名だたる資産家が参加しているはずなのに、突然値を吊り上げる荒らしに誰も対処できない。
「いや.....どんな意図があってこんな事を....?」
だって、これはキャンセルできない行為だ。
合意があって参加している以上、値を吊り上げたとしても自分がそれを支払う事が確定する。
それを破れば、違法性が認められ起訴されることもある。
SELLが庇ってくれることもない。
「また、だ」
ブロックが次々と閉鎖されていく。
全て一律で一千万を示して。
「これで、全部......」
何が起きたのかさえ分からなかった。
俺は急いで、ペール・ディストアに連絡を取る。
「ペールさん、これは!?」
『オークションの件か、こちらも把握していない、何が起こっている?』
「販売者の開示まではこちらの権限ではできません、ペールさんなら何とかできないでしょうか?」
『無理だ、SELLのシステムを使っている以上、SELLに開示請求をしても情報漏洩防止の為に阻まれるだろう』
「そんな......」
俺は確かに儲けを得る事が出来た。
しかし、購入者までは分からない。
どこまでも不気味な事件だ。
当然、終了後、オークションのオーナーである俺とペール商会のもとには問い合わせが殺到した。
『オークションを楽しみたかったのに、一瞬で終わらさせられた』
『コーポレーションの介入を許すとは、信じがたい失態だ』
『ペール商会の名は覚えた』
酷い誹謗中傷に、俺は頭を抱えた。
一体誰なんだ、一体どこの石油王なんだ....と。
ヤラセすらも疑われているようで、各地に噂を流して集めたのが完全にアダになった。
名を覚えられた以上、儲けたはいいが信用が......といった状態であった。
どうしたもんか....
困った俺は、ジュディ・マークソンに連絡を取る事にした。
『Lily:こういう事がありまして....』
『Judy:ああ、でしたら全く問題はありません』
帰ってきたのは、意外な返事だった。
『Judy:既に情報が流れ始めている頃でしょう』
「....?」
その時、端末に連絡が入る。
「どうしましたか?」
『第三から第十ブロックの買い占めを行った人物が判明した』
「一体、誰なんですか?」
散々評判を落としやがってとは思ったものの、反応から大物っぽい。
『フレデリカ・カストル。王国騎士団第七騎士団の騎士団長であり、東部方面の作戦指揮官....のようだ』
「そんな人物が何故....」
『フレデリカ・カストルはカストル伯爵家の令嬢でもある。それ故に、使える金額も大きかったという事だ』
絶対に厄ネタでは?
俺はそう思ったが、黙っておくことにした。
『Judy:あなたに黙っていたことがあります』
画面に目を戻すと、ジュディからのメッセージが来ていた。
それを読み切る前に、次のメッセージが投下される。
『Judy:私の本職は王国第七騎士団所属の情報官です、職務を行ったまでですので、恨まれることの無いように願います』
『Lily:それは、分かりました。こちらからの挨拶などは必要ですか?』
『Judy:不要です。主は契約内容に満足しており、これ以上の関わりを持つ気はないそうです』
それなら良かったが....
『Lily:こんな事を聞くのは申し訳ないのですが、本当に何もないのですね?』
『Judy:はい。こちらから仕事を依頼することはあるでしょうが、主があなたに対して何かを思うことはないでしょう』
『Lily:ありがとうございます』
俺はメッセージアプリを閉じる。
そして、息を吐いた。
「面倒な事になった.....」
とりあえず、今日は寝て....
明日考えよう。
俺はそう考えて、風呂に入るために席から立ち上がった。
↓小説家になろう 勝手にランキング投票お願いします。