019-襲撃、恐怖、後悔
「もしかして、太った...?」
俺はふと呟いた。
体重計に乗ったところ、先月とのプラス、マイナスを計算してくれる機能が+を示したからだ。
「ちょっと食う量を減らすか...いや、運動するべきか...」
俺は少し考え、食う量を減らす方をとることにした。
最近は炭水化物ばかりだし、少し減らして肉類を多めに食べる事にした。
ブリッジに上がると、既に旅程の3分の2を消化したことがすぐにわかった。
「今回の積荷はちょっとお高いからな...」
高いといっても、貴金属ではない。
資産家の依頼を受け、ペリメーターで買い付けた卵を移送している。
卵の中身は知らないが、結構したので失うとやばい。
「ゲートまでは後五分くらいか」
オートパイロットにしてもいいのだが、旅路にロー・セキュリティ宙域に隣接する宙域があるので、海賊が怖い。
この世界には、セキュリティ宙域とそうでない宙域があり、その危険度はHigh・Low・Nullに分けられる。
ハイセキュリティ宙域は星系軍が滞在し、安全性が限りなく高く確保されている宙域だ。
ローセキュリティ宙域には星系軍が少なく、海賊がいる可能性がある。
ヌルセキュリティ宙域は、王国の支配下にない領域で、王国領土でありながら安全性の保証されない宙域でもある。
これはエッジワールド...未開拓領域も含まれるようだ。
ロー・セキュリティ宙域に隣接するハイ・セキュリティ宙域は、必ずしも安全とは言えない。
つまりは、襲われる危険性があるという事だ。
まあ、最悪ワープで逃げればいい。
「ゲート周囲に敵影なし...っと」
俺はゲートのシステムを起動し、オリオンを次の星系へとジャンプさせる。
オリオンは次元回廊を通過して、そしてまた星空の元に舞い戻る。
だが、
「なんだ、この数...?」
ゲートの周囲には、三十隻ほどの艦が浮いていた。
警察じゃ無い、艦種がバラバラだ。
まあ、ワープすればいいか。
そう思っていた俺だったが、
「ワープできない!? 何で!?」
「安全装置起動中」の文字が浮かび、ワープイン出来ない。
原因には心当たりがある。
というか、SELLの講座でも教わっていた事だ。
電子戦を仕掛けられていて、センサーを誤認させられている。
えー、この場合はどうすればいいんだったか...
「ひっ!」
直後、衝撃、轟音。
撃たれている。
砲火と光が見え、船体を表示する画面に赤い警告が見えた。
どうしよう、どうすればいい?
殺される...
「思い出せ、思い出せ!」
そうだ。
こういう時はまず、SOSを出して...
それから、それから...
「し、シールド起動!」
シールドを起動しようとするが、いつもの通りにしようとしてもたつく。
ゲーム通りの操作をすればいいのに、指がいう事を聞かない。
UIの配置が分かりにくく感じて、焦燥感で胸が冷える。
「シールド、シールド...これだ」
シールドを起動し、船が発生した力場によって守られる。
そこでようやく、俺は落ち着きを取り戻せた。
過呼吸寸前だったものの、これで星系軍が来るまで持ち堪えられる。
「...はー、はー、はー...」
気がつくと、汗に塗れていた。
目を瞑ると、目の前が潤んでいた。
怖かった。
戦うなんて、無理だ。
これが、襲われる、殺されるという事なんだ。
死は、日常の中に転がっている。
これが宇宙で生きるということなのだ。
『大丈夫ですか!?』
その時。
ゲートの付近に艦隊がワープアウトし、それに合わせて敵の船はワープで逃げていく。
「はい...大丈夫、です」
『船体に損傷はありますか? 推進・ワープに問題はありますか?』
「ありません」
『船員に怪我はありますか? 死傷者は居ませんか?』
「大丈夫です」
『近隣の警備ステーションまで曳航します、ワープの同調の許可を』
ワープの同調?
どうやればいいのか困っていると、画面にメッセージが出る。
『ワープコアを同調しますか? 〈Y/N〉』
当然、イエスだ。
それを押した瞬間、オリオンのワープシステムが起動する。
座標が入力されていないのに、ワープに入ろうとしているのだ。
「ワープ同調...」
面白い機能だと思うと同時に、俺は自分が余裕を取り戻していることに気づいた。
そんな事に興味を持てるほどに、余裕が戻ってきている。
「...次からは平静を保てるようにしないと」
俺は密かにそう決意するのだった。
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