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012-疑念を晴らすために

驚くべきことに、商会長からの直接的なコンタクト申請が飛んできた

いつもヒマなので、その時は二日後の昼とした。

そして、今日がその日なのだが.....


「なんで、よりによって外出なんだ...」


昨日、ダイレクト・メッセージが飛んできて、ビデオ通話ではなく現地での直接交渉となった。

連れ人を許可するとの文面があったが、俺は一人だ。

場所は第二ステーションの商業区画にあるレストラン「リステリア」だ。

名前からして不安だが、実際その在り様も水や食物に潜む菌のようである。


「商業区画にある数少ない飲食店...か」


確実に接待用である。

メニューもそこそこ高価だが、今回は向こうの全額持ちだ。

それでも請求されたときのために備えはしておく。

だが、問題はそれではない。


「ドレスコードがある事なんだ....」


俺は胸囲がありすぎてスーツを着られない。

着ると目立つうえ、最悪ボタンが飛ぶ(n敗)。

なので、ディナードレスを仕立てる必要があった。

この世界、服飾品はデザインの複雑さを求めなければ直ぐに作れるので、後は「どう見られるか」だ。

複雑なデザインは避け、喪服の文化がない事を確認してから黒にした。

髪は調べながらツインテールに変え、化粧品も購入してなるべくフォーマルになるように心がけた。

マナーも調べたが、驚くべきことにその辺は寛容なようだ。

星間国家である以上、星一つ一つに無数のマナーがある。

「マナー」であると自分で定義できるマナーがあるのであれば、それを守ってさえいればいいのだそうだ。


『まもなく、B-F0221駅に到着します』


このステーションには、高速ライナーがあちこちを結んでいる。

移動は楽だが、不埒な視線に晒されるのが耐えられない程につらい。

自分の車を買おうかと思うほどだ。

この国でも、まず免許が必要だが。


「リリー・シノ様ですか?」


俺は駅から出る。

その途端、一人がこちらに寄ってきた。

この国特有の、襟に柄があるスーツ姿の男だ。


「はい、あなたは....?」

「ペール商会の社長秘書であるハリマー・ストークでございます。以後お見知りおきを」

「私はリリー・シノです、名刺の交換などは....?」

「そちらの文化のようですね、すみません。王国では一般的ではないのです」


どうやら必要ないようだ。

俺は彼に先導され、駅前のビルに入る。

エレベーターに乗り込み、十六階まで上がった。

そこはフロア丸々を借り上げたレストランであり、秘書の顔を見たウェイトレスは、一礼して俺たちを案内してくれた。


「こちらです」

「ありがとうございます。」


俺は個室の前に案内された。

息を吸い込み、扉の開閉パネルに手を触れた。


「...こんにちは」

「こんにちは」


扉の向こうには、強面の男と、もう一人色白の男が座っていた。

まだ料理は来ておらず、俺の分の席らしい椅子が一つ空いていた。


「リリー・シノです」

「私はペール・ディストア。こちらの男は...マークソンと言う」


あえてフルネームを言わないということは、何か隠したい身分の人間なのだろう。

警戒はしないといけないかもしれないだろうな。


「座ってください」

「ええ...はい、ありがとうございます」


椅子を勧められた俺は、椅子に座る。

女性用の作法があるので、王国風に合わせる。


「我々の作法に合わせてくれるとは、感謝いたします」

「ええ、練習させて頂きました」


一拍置いて、ペール・ディストアが手を叩く。

その途端、入ってきたウェイトレスが、カトラリーとグラスを机上に並べた。

グラスは地球のものと似ていて、三個ずつ用意されていた。

ウェイトレスが水をグラスに注ぎ、俺たちはそれを手に取って口に含む。


「...美味しいですね」

「やはり、宇宙暮らしの方には新鮮でしたか?」

「ええ、とても」


味気ない浄化水ではなく、ミネラルを多分に含んだ鉱泉水だ。

硬水なのが難点ではあるが...しかし美味しい。

やっぱり、ここが高級な理由は、惑星上でしか飲み食いできないものを提供しているからだろう。


「故郷を思い出しました、お気遣いありがとうございます」

「こちらの歓待を気に入っていただいて、こちらも嬉しい限りですよ」


目が笑っていないペール。

恐らく、俺の故郷を推察でもしているのだろう。

こちらを冷静に値踏みする眼はまるでスキャナーのようだ。


「本日はお連れの方はいらっしゃらないのですね」

「ああ、独り身の旅ですから」


俺は卒なく答える。

そして同時に、この会食の意義もなんとなく把握した。

俺の見た目から、本当に信頼できる人間か疑って掛かったのだろう。

俺はあくまでメッセンジャーか、ドッグ。

ハンドラーが裏にいる可能性を疑っているのだろう。


「女性の独り旅は、危険では無いのですか?」

「いいえ、大丈夫です。それに...これがありますからね」


俺は腰に固定した銃を指差す。

こういった屋内では、火器制限システムによって使用できないようにされているので、安心して持ち込める。


「商人であれば、傭兵を雇うのも一つの手段ではあると思いますが?」

「傭兵は信用ならないので...それに、この遠距離の旅では、定期的に更新しなければいけませんから」


俺はジスティカ王国から旅してきた事になっている。

だから、十分な理由づけにはなるだろう。


「お待たせしました」

「入っても構わないですよ」


その時、コンコンとノックの音が響き、ペールの追求をキャンセルした。

やっと前菜が到着したみたいだ。

この苦しい薄氷のような身の上を弁護するためのエビデンスを、俺は脳内でシミュレーションした上で構築していた。


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