113-怪しい予感と探偵ごっこ
「さて」
アルもブリッジから居なくなったわけで、俺はペルソナに尋ねる。
「マクシミリアンってなんだろうね?」
「マクシミリアン・シップヤードの事かと思いますね」
「秘かに何かが行われているっていうのは?」
「あくまで噂に過ぎませんが.....」
構わない。
いつの間にか入港がすべて完了したらしい艦隊を、俺はブリッジから眺める。
全て黒塗りで、不気味だ。
ビノキュラーでズームしてみると、全て見たことのないロゴを船体にプリントしている。
視界を共有しているペルソナが口を開く。
「照会完了。あのロゴに合致する組織はありませんでした」
「だろうね」
俺も見覚えが無かった。
そもそも、退任したCEOがこんな場所で何をやっている?
「ここに、マクシミリアン・シップヤードの何かがあるの?」
「はい、本社がこのステーションのオフィスエリアに位置しています」
「さっきの噂、教えて」
俺はペルソナに頼む。
例え噂でも、ペルソナは地球でのまとめ動画のようにそのまま垂れ流すようなことはしない筈だ。
情報を取捨選択、感情論や憶測を排除し、事実に限りなく近いと思われる情報だけを。
「.....ごほん、”マクシミリアン・シップヤード内部で、大型のプロジェクトが立ち上がっており、いくつかのプロジェクトにいた研究員と作業員がそちらに移動している、また、マクシミリアン・シップヤードがデポジュリアを買い占めている、最後に――――マクシミリアン・シップヤードの生産ラインのうち四つが完全に停止し、何かの製造に使われている”などです」
「それはまた.....隠す気があるのかないのか、分からないね」
「そこまで話題にはなっていないようですが、ゴシップ好きの傭兵は何かを掴んでいるようです。コンタクトを取りますか?」
「やめておこう。ペルソナ、TRINITY.に通報を入れておいて」
「はいっ、直ちに」
とはいえ、気になるところではあるな。
それに、デポジュリア。
俺がこの間、高額の買い注文に応じて売ったものだ。
それを買い占めているのがマクシミリアン・シップヤードなら、何に使っているかもまた気になるところだ。
大型のプロジェクトが動いているのはいいが、秘密にする理由は?
「憶測だけを巡らしても、どうしようもないかな」
「ええ、こういう発言は許されるかどうかわかりませんが、私たちは無力ですから」
ここのトップとコネがあれば、また別の話かもしれないが。
俺も、ペルソナも。
出来る事は何もない。
ただ通報して、日常を送ればいいのだ。
悔しいが、仕方ない事でもある。
「(まあ、また逃げればいい)」
力がないという事は、同時に責任も背負わなくていいという事でもある。
何があったとしても、またダズ・クヴァタ星系群の時のように逃げればいい。
アルも連れているのだから、無理は出来ない。
だいいちオリオンは輸送艦だ。
輸送艦で暴れて、何になる?
「あっ、そうだ! リリー様!」
「なに?」
「ミサイルの件なんですけど....」
「あー、忘れてた」
現在オリオンには、通常弾頭しか搭載していない。
ただ、ペルソナの計らいで他の弾頭の使用資格を取れたので、新たに購入することを決めていたのだった。
「明日には出港するし、今のうちに買っておこう。回収はお願いしようかな」
「はいっ!」
ミサイルにはいろいろな弾頭があると知れてよかった。
戦術の幅も大きく変わるだろうな、そう思いつつ、俺は重くなってきた瞼を何とか開く。
「私はもう寝るよ....お風呂は明日入るね」
「はいっ、お背中お流しします!」
それはいいよ、と思いつつ。
俺はブリッジから降りるのだった。
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