106-有能なお手伝いと、不穏な影
「あ」
「どうしたんですか?」
「ちょっとね」
俺はブリッジで、つい声を上げた。
メールが来ていたのだが、要するに採掘艦隊の皆からのメールだった。
プラドが送り主で、添付された集合写真には、新天地でスクラムを組む皆の姿があった。
しばらくは貯金で採掘コルベットをレンタルして使うらしい。
「リリー様は、交友関係が広いのですね」
「輸送艦乗りだとね。傭兵だったら人と関わらなくていいんだろうけど、戦うのは怖いから」
「そうでしょうね...交戦ログを見ていますが、リリー様からの指示はとても少ないですから」
昨日、アルが寝静まった後。
俺はペルソナをこの艦のサブフレームに指定した。
すなわち、ペルソナはこの船の外付けインターフェースとなったのだ。
自由にコンピューターのログを閲覧できるし、指示を出すこともできる。
もちろん権限は俺の方が上だが、緊急時に船に残していればペルソナの判断で行動できる。
「とりあえず指示通りに改造したわけだけど...どう、座り心地は」
「はい、大丈夫です。これで任務を完遂できるはずです」
アンドロイドと船をリンクする装置を、ペルソナから設計図をもらって艦内工場で製造して組み立て、二人でブリッジに運び込んで設置した。
もともと電探係の席だった場所の床板を外して、色んなケーブルを機械に接続した。
この席に座っている時は、ペルソナはコンマ秒程度のラグで船に指示を出せるそうだ。
また、本来SPECIALではプレイヤーをサポートするAI...「ネクサス」がいたんだが、その代わりを務めてくれるので、様々な使われていない領域の機能を開放できる。
「アルはどうしてる?」
「まだ寝ているようです」
朝早いものな。
俺は早くに起きて、マーケットの流れを見ている。
流石に電子部品は物凄く安いが、反対に飲み物...酒やエナドリの類は需要が高いようだ。
ブラックなのかね...?
「今日は何をしようかなあ」
「艦内をジョギングするのはどうですか? お付き合い致します!」
「それもいいかも?」
ペルソナは元気が有り余っている。
アルは俺に余計な気を遣わせたくないと思っているのか積極的ではないから、この感覚にはあまり慣れないな。
気を紛らわせようとニュースを見るが、
『アルブ・クラータCEO解任』
『アルブ・クラータCEO、ハゾーダ氏の訴え:クラリウムが抱える危機』
など、一面よく知らない話で埋め尽くされている。
俺は溜息をつく。
だが、横にマグカップが置かれたことで、いつの間にかペルソナが退出し、戻ってきていたことに気付く。
「戻ってくるの、速いね」
「はい、自動給湯器を使わせていただきましたので!」
「なるほどね」
遠隔で出来る作業を全てやってから、あの一瞬で茶を淹れて持って来たらしい。
つくづく理解できないほどの高性能で、やりすぎたかなと思うほどだ。
「そういえば、リリー様」
「ん?」
「鉱石用のカーゴスペースに残存している荷物についてお聞きしたいのですが...」
「あー、アレね。貰ったんだけど、温存中」
「現在インナーリウムのマーケットで、それらのものの売り注文が無く買い注文が高騰しています、売られる予定はございませんか?」
驚いた。
マーケットは俺もチェックしていたが、そんな細かな所まで目に入らなかった。
へー売り注文ないのかくらいにしか。
「売りたいのはやまやまだけど....今のkg単価は?」
「約3万MSCですね」
「売る。今から売り注文作るから、荷下ろしお願い」
「はい! 了解です!」
これがもし全部売れるなら、300万MSCの儲けになる。
俺にこれを託してくれたプラドたちにも、30万MSC程還元すれば、義理は果たしたとなるだろうか?
だがなぜ高騰しているんだ?
それを聞こうと思ったが、もうペルソナの姿はブリッジには無かった。
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