101-いつもの夜、少し違う夜
用を終えた俺たちは、オリオンに戻ってきていた。
アルの右腕のホルダーには、純白のケースに包まれた携帯端末がある。
結局、俺は『キャッシュバックキャンペーン』プラン.......契約の初期費用が戻ってくるプランで契約することとなった。
契約なしで携帯端末だけ買うのが正解なんだが、日本人はこういうバニラで契約するのは良心に反するというか、躊躇われる傾向にあると自分でも感じる。
実際は会社側はともかく、売り手はどうでもいいんだろうが....
「どう、使い心地は」
「すごくいい....! だけど、ゲームは自由にできないのかあ....」
今までの携帯端末より性能が上がったという事は、プリペイド同然だった今までのものと違ってペアレンタルコントロールをかけられるってことだ。
流石にね、俺はアルに添い寝をしてやれるわけではないので、彼が夜更かしをしていても気づけない。
船員のプライバシーを守るためか、船室には監視カメラの類はないようだしな。
「ゲームは一日五時間まで、私の裁量で八時間までやっていいよ。夜は全部の機能を制限するから、目覚ましはいつも通り部屋についてるのを使ってね」
俺は使わないが、壁に埋め込まれたディスプレイには様々な機能が搭載されている。
その内の一つが、アラーム機能だ。
「はーい」
アルは気のない返事をする。
やたらと懐かしい気持ちになるな。
俺も、子供用のケータイを持たされていた。
定型文とボイスメッセージしか送れないので、いつも困っていた。
だが、必要なことだ。
俺が大人として自由に振舞えるのは、「分別が付いているから」という万能の言い訳ではない。
「責任は自分が取る」からこそ、自由に振舞える。
まだ自分の翼で飛べないアルには、不自由と思われてでも鎖を付けないといけない。
......俺らしくない事だが。
「今晩何が食べたい?」
「えーっと.....あ、ハンバーグ! ハンバーグが食べたい!」
「ハンバーグでいいの?」
「うん、ソースが美味しいから」
誤魔化すように俺は尋ねる。
返ってきたのは純粋な返事で、俺はミンチの在庫がまだあったかどうか思い出す。
記憶を漁って、そういえば数日前に2パック程買っていたことを思い出した。
ガルムソースの材料はあったか.....?
まあいいか、考え事をしながら歩くのは良くない。
「またあとでね!」
「うん!」
アルは、オリオンの別の通路へと消えていった。
俺の記憶が正しければ、あちらは大浴場がある方だ。
晩御飯を前にして、風呂に入るようだ。
俺はどこへ向かっているかといえば、厨房である。
とにかくソースもまた作らなければいけない以上は、時間が要る。
「色々やる事が多いのはいいんだが.....やっぱ広いよな」
二人で住むには、やっぱりこの家は広すぎる。
いずれは人を増やせればいいのだが.......
俺が怖いのと、アルの素性を簡単に明かせないところがネックだ。
だからこそ、アンドロイドが居れば助かる部分も大きい。
機械に頼りきりになれば、待っているのは破滅だろうからな。
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