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着飾る先代魔王さま

「感情もまた力ですから、効率的に集められれば、あなたが帰る道をつなげられるかもしれません」

「え! まじで!」


 ロータスの言葉が素直にうれしくって、声がはずんだ。


「でも、どうやって感情を集めるんだ? っていうか、感情が力ってどういうこと?」

「集めるのは我に任せよ。この石と同じように、集めて形を成せば良い」


 マグノリアが日の丸石を手のひらで転がして請け負ってくれる。どうやるのかはわからないけど、説明されたところでわからないからいいや。彼女に任せておけば安心だし。

 もうひとつの質問に対しては、ロータスが解説してくれるらしい。さすがロータス先生。こんなイケメン先生がいたらクラスの女子たちはみんな成績が良くなるだろう。いや、授業に集中できなくてむしろ成績下がるのかな。


「感情と力の関係について、わかりやすいのは怒りですね」

「はあ、怒り」

「怒りを覚えたとき、いつも以上の力が発揮される、という経験はありませんか?」


 はい矢島くん、なんて続きそうなくらい、ロータスの声は先生っぽい。


「ああー、あるある。友だちの茂部が俺の教科書に頭の悪い落書きしたのが隣の席の女子に発見されたことがあってさ。逃げ足の速い茂部を追いかけて追い詰められたのは、あのときだけだったなあ」


 語りながらしみじみと思い出す。あのときは、俺が小学生にも劣る下品な下ネタを好む男だと思われる人生最大のピンチだったのだ。俺の名誉がかかっていたからなあ。そんな危機をもたらした茂部への怒りは、相当なものだったはずだ。


「思わぬ力が発揮される、それが感情の持つ力です。魔力とはまた別のものですから、これをうまく集められれば各方面に配慮することなくあなたが元の世界に帰ることも可能かと」


 なんか俺の怒りの一幕は流された気がするけど、でもまあ、ロータスの言いたいことはわかった。


「でも、みんなを怒らすのって良くないよな?」

「感情は怒りだけではありませんよ。先ほど、あなたが言ったのでしょう。アイドルですよ。アイドルを仕立て上げて、歓喜の感情を集めるのです」

「アイドル? ロータスがやるの?」


 俺の頭に思い浮かんだのは、白っぽい王子さまチックな衣装を身に着けてキラキラの笑顔を振りまくロータスだ。

 今は黒い服で執事っぽいけど、これだけのイケメンっぷりだから王子系アイドルいけると思う。白地に金の飾りがついた服着て、赤いバラを持ってウインクするロータス。


「アリだなぁ……」

 目を閉じて想像して、目を開けて目の前のロータスをしげしげ眺めても、アリだった。

 似合わなくて笑っちゃうとか、絵面がやばくて鳥肌が立つなんてこともなく、普通にいける。美青年アイドルのロータスなら、たぶん汗までキラキラ光っちゃうんだろう、なんて思えるくらいだ。


「いいえ、私は魔王ですから親しみよりも威厳を感じてもらわなければなりませんからね」


 そう言ってくすっと笑う顔なんて、めちゃめちゃアイドルなんですけど。こんな爽やかイケメンが威厳ある魔王ってできるの?

 そう思ったのが伝わったわけもないだろうに、ロータスが口元だけは笑顔のまま目を開けて俺を見た。


「っ!!?」


 前言撤回! めっちゃ魔王です、このひとほんとの魔王です!

 笑ってない目で見据えられたら、身体の真ん中がキュッと冷えた。背中がぞわっと総毛立って、逆らっちゃいけないって本能が叫ぶんだ。


「ま、魔王さま……!」


 思わずうめけば、ロータスはにこりと目を細める。途端に俺を取り巻く恐怖が霧散して、俺はひとりドキドキする胸を抱えてこっそり息を整えた。


「私ではなく、マグノリアさまがなされば良いのです」


にっこり笑ったロータスに話をふられて、マグノリアは「うん?」と首をかしげてイソトマは「まあああ!」と歓喜の声をあげる。


「そうですわね! マグノリアさま以上におかわいらしい方などいませんもの。アイドルとして皆を骨抜きにするに相応しゅうございますわ!」


 うれしそうに言ったイソトマの顔は、満面の笑みを浮かべている。これまでの気だるげな色気はどこへいったのやら、踊りだしそうな様子で彼女はいそいそと立ち上がった。


「ということは、つまりマグノリアさまを着飾らなければならないわけですわよね! マグノリアさまのおかわいらしさを引き立てつつ衆目を集めるのにふさわしいお衣装を用意しなくてはならないということですわよね。こうしてはいられません!」


 失礼いたしますっ、と言うが早いか、イソトマの姿が掻き消えた。

 瞬きの合間に見えたのは、裂けた空間のすき間にひらりと踊る彼女の尻尾の先だけ。

 もう一度、瞬きをした後には、彼女の姿も空間の裂け目もきれいさっぱり消えていた。


「お、おう……転移? したの? 魔術ってこんなこともできるのね……」

「魔術というより、彼女の種族特性ですね。サキュバスは夢魔の一種ですから、常人の暮らす界とは異なる空間に干渉する術を持っているのです。転移という魔術は聞いたことがありませんね」


 あんまりにもびっくりして一周回って冷静に驚けば、ロータスからの解説が入る。


「はぁー、特殊スキルみたいなもんね。なるほどなるほど。じゃあ、ロータスとかマグノリアも特別な技があるの?」

「魔術の話は今はよかろう。それより、なぜ我がアイドルなどと」


 ワクワクして聞いたのに、マグノリアに話題を変えられてしまった。

 無表情な美少女顔は相変わらずだけれど、どことなく声の響きが不機嫌そうだ。ちいさな唇のはしがほんの少し下向きになってるから、たぶん間違ってない。

 元魔王さまの不機嫌にさらされてるっていうのに、にっこり笑顔を崩さないロータスはさすが現魔王。

 あれ、これって元魔王さまvs現魔王のにらみ合い?

 もしかして世界レベルでやばいやつでは?


 このふたりを止められそうなイソトマさんは、こんなときに限ってここにいない。ここにいるのは神隠しでうっかり異世界に落ちこぼれちゃったしがないモブ男子高校生だけ。つまり俺。

 俺にこのふたりが止められるかって? ははっ、無理無理。

 即☆死デス!


「た、助けてケルベロス―! 世界の危機よー!」


 思わず窓に駆け寄り、開け放った先に叫んだ俺は悪くない。

 だって元魔王と現魔王が俺と同じ部屋のなかで睨み合ってるんだよ? 片方は超笑顔だけど、目が笑ってないからあれは睨み合いだ。


「なぜ我がそのような、見世物めいたことをせねばならん」

「彼の願いを叶えるとおっしゃったのはマグノリアさまです。そしてそのための方法を彼が提示した。でしたら、その方法を実行できるあなたさまがアイドルをすべきでは?」


 なんて、無表情と超笑顔で言い合ってるのは、つまり、やっぱり世界の危機だ。


「きゅふん?」

「わふぅ」

「くーん」

「おおお! 来てくれたか、ケルベロス! 助けて! 俺をここから連れ出して!」


 俺の叫びに応じてやってきてくれたケルベロスの頭が、三頭それぞれにかわいい鳴き声をあげる。

 ほんとお前、いいモフモフだな! 初対面のとき殺されると思ってごめん。いやでもことばが通じない状態だったから誤解は許してほしい。

 ケルベロスは超いいモフモフだ。賢いし優しいしでっかいし強そうだし。俺、はじめて会った異世界人……異世界犬? がケルベロスで本当に良かった!


 心の底から感謝を込めて、ケルベロスの首に抱き着く。モフモフ最高! でっかいモフモフってすごいや。あったかくてやわらかくてモフモフしてて、とっても幸せな気持ちになる。おかげで背後から漂ってくる冷気めいた怖い気配も気にならな……いや、気になるわ! 超怖い!


「た、助けて、イソトマ~!」


 モフモフの首にしがみついて美女を呼ぶ俺を情けないと言いたければ、言うが良い。

 だって俺まだ死にたくないから。恥を捨てて生き延びられるなら、俺は恥などぽぽいのぽーいだ!


「あらぁ、ネイさまったら。さみしんぼさん、なんですね?」

「わーん! 本当に来てくれたぁ!」


 俺の叫びに応えてすぐそばの空間が裂けて、するりと顔を出したイソトマが俺の胸をつんとつつく。

 あまりにも頼り甲斐のある美女に思わず飛びつこうと広げた俺の両手に、どさりと何かが乗っかった。


「えっと……これは……?」


 裂けた空間の向こうから落とされたのは、山盛りの布。色とりどりでふわふわだったりひらひらだったり、つやつやしてるのもあればキラキラ光ってるのもある。

 色合いといい、デザインといい女物だと思うんだけど。

 突然渡された物体のことが理解できずに見上げる俺の視線の先で、イソトマが空間の裂け目からぬるん、とこちらにおりてきた。彼女の尻尾が泳ぐようにひらりと揺れると、裂けていた空間は瞬く間にふさがる。


「マグノリアさまのお衣装ですわ」


 うふん、と笑ったイソトマに言われるまま、俺は山盛りの衣装をテーブルに置いた。置きっ放しだったはずの皿やカップはいつのまにか片付けられている。魔術かな。万能じゃないって言ってたけど、けっこう何でもできるじゃんね。


「こ、これは……?」


 山と積まれた衣装を前にマグノリアが声を震わせる。

 表情こそほぼ変わらないけれど、これは驚いてるんだろうな。だって量がやばいもん。

 イソトマはそんな主の様子に気づかないのか、蕩けるような笑顔を見せる。


「マグノリアさまに着ていただきたいものを作っては、保管しておりましたの。日の目を見る機会を頂けてわたくし、うれしいですわ」

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