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美少女のおうちにお邪魔します

 ──空が赤いってなに? 明らかに夕焼けじゃない、赤いシート越しに見上げるような……。


 驚きのあまり、思わずいじけるのも忘れて身体を起こした俺の横に、イケメンが立った。


「おや、魔力も見えているのですね。さすがはマグノリアさま」


 俺の目をのぞきこんだイケメンは、うれしそうに美少女を振り向く。


「そなたはまったく……現魔王が気軽に他者に敬称を付けるでない」


 黒髪の美少女、マグノリアがわずかに眉をひそめてイケメンにじとっとした目を向けた。

 それでもイケメンはにっこり笑っている。どМのひとなのかな? ひとじゃないけど。魔王らしいけど。それも現魔王。


「……魔王?」


 ぽかん、とくちを開けてイケメンを見上げた俺は悪くないと思う。あほっぽかったかもしれないけど、だって、元魔王を名乗る美少女(角付き)に魔王と呼ばれるイケメン(角付き)がそろってたら、誰だって理解が追い付かないだろ。

 そんな俺に、イケメンはきれいに微笑んだ。ぴっちりした黒い服と相まって、めっちゃ執事っぽい。


「はい。若輩ながら、マグノリアさまの跡を継がせていただきました、今代魔王のロータスと申します」

「あ、矢島ネイです。学生です。よろしくお願いします……?」


 日本人のあるある。

 相手に丁寧に名乗られると、とりあえず名乗っちゃう。そんで流れるようによろしくって言っちゃう。

 名前とよろしくはなんかセットで出ちゃうよね。だって第一印象大事だって聞くし。言えないより言えたほうが良いと思うし。


「これはご丁寧に。こちらこそよろしくお願いします。それでは、いつまでも外で立ち話というのもなんですし、中へどうぞ」


 そう言って微笑むロータスはやっぱりめっちゃ執事っぽいけど、これで魔王なのか。

 なんて思いながらぼんやり彼を見上げていると、違うところから声があがった。


「待て。我が住まいのほうが近い。それに、ちょうど茶の時間にするところであったからな。イソトマ、茶菓子の用意はあるな?」

「はい、もちろんですわ」


 マグノリアのひと言で、俺たちは彼女の家に向かうことになった。

 ちなみにこの間、ケルベロスはずっとマグノリアの後ろで伏せをして待っていた。あれはもう犬だ。めちゃめちゃでかいけど、とてもよく躾された大型犬だと思うことにする。

 ちなみに、問題の答えは②だったと、ここに記す。うん。


 ※※※


 マグノリア。黒髪の超美少女(元魔王)の家だって言うから、どんな豪邸かなあってドキドキするじゃん?

 全身黒でまとめた彼女に似合う、いかつい洋館なのかな、とかさ。

 それともヨーロッパの旅番組とかで見る白亜の城とかかも、なんて思いながら彼女たちに着いて行った俺は、予想外の建物を前に息をのんだ。


「め、メルヘェン……!」


 元魔王と現魔王を含む一行の前に佇むのは、ひとことで言えば小人さんのお家。

 こじんまりとした家は一階建てで、赤い屋根にクリーム色のレンガの壁がとってもキュートだ。窓は外開きで、窓辺にはかわいいお花の咲くプランターが並んでいる。

 飛び出た煙突からはもこもこの煙が出ていて、え、それ演出なの? お家をかわいく見せるための演出だよね? といった風情をびしばし醸している。


 そんなかわいいをぎゅっと集めたような建物を前に叫んでしまったおれに、マグノリアがわずかにくちを尖らせた。


「仕方なかろう。我のためにとイソトマが用意してくれたものを受け取らんわけにはいかんからな」


 ──ツンデレですか? ツンデレなんですか?


 真っ白い頬をほんのり染めるその感情は、かわいいもの好きがバレて恥ずかしいのか、自分に似合わないと思って恥じらっているのか。どちらにしてもありがとうございます。


 頬を染めるクール系美少女が見られたのなら、それはもう正解だ。何がとか聞くな、正解だ。

 思わず親指をぐっと立ててイソトマに向ければ、妖艶な美女はきゅうっと口角を吊り上げて微笑んでくれた。ドキッと高鳴る胸は俺が健全で健康なあかしだ。

 決して「その笑顔エロいっす!」とか思っていない。


「マグノリアさまは退位にあたって、小さな家が欲しいと望まれましたからね。イソトマはその願いを叶えたまでです」

「魔王さまのおっしゃる通りですわ。わたくしはいつでも、マグノリアさまを想っております」

「う、うむ」


 ロータス、イソトマと続けて言うと、マグノリアは気をとりなおすように軽く咳ばらいをした。


「いつまでも外におらずとも、中で話せば良かろう」


 言って、ビスケットみたいな扉の取っ手(丸っこくてかわいらしい)をつかんだマグノリアがずんずんと家の奥に進んで行く。


「では、失礼します」


 ロータスが続き、イソトマが続く……のかと思ったら、彼女は扉の横で立ち止まって俺を見ている。


「どうぞ、中へ」

「あ、えと、はい。ありがとうございます」


 にっこりと勧められてしまえば、俺に二の句は告げない。だってしがない男子高校生がえっちでキレイなお姉さまの笑顔に逆らえるか? いいや、逆らえない。

 ちなみに、ケルベロスは中には入れない。だってデカすぎるし。

 メルヘンな小人ハウスに巨大な魔獣はどう考えたって無理だろう。まあ、小人ハウスに住んでるのは元魔王だし、客のひとりは現魔王だけど。

 ちょっぴり寂しそうに家の外でお座りをするケルベロスを気にしながらも、俺は家の中に入る。


「わぁお、ファンシー……」


 小人さんのお家のなかは、やっぱり小人さんのお家でした。

 何を言っているかわからないって? 俺もわからない。

 いやでも、部屋のなかが全部かわいいんだよ。部屋の真ん中に置かれたテーブルは小さめで丸いし、家具もどれも小ぶりで角がみんな丸くなってて、引き出しの取っ手なんか真ん丸だぜ。


 あと、色がどれもやわらかい木の色っていうのもかわいいポイントかもしれない。白い壁も真っ白じゃなくてちょっとやさしいクリーム色だし、天井の梁には乾燥した花の束がつるしてあったりするし。


「マグノリアさまのおかわいらしさをより一層引き立てられるよう、かわいいものを取り揃えておりますから。本当は、お衣装も華やかなものにしたいのですけれど……」


 これまた丸っこいポットでお茶を淹れてくれているイソトマが、残念そうに眉を下げる。


「我は元魔王ぞ。威厳ある恰好をせねば、示しがつかん。衣服以外はそなたの好きにさせておるのだから、良かろう」


 椅子に腰かけてそう言うマグノリアは、呆れているのか照れているのか。平坦な声の調子や、変化の少ない表情からではわからない。

 マグノリアの横の椅子に深く腰かけて、長い脚を優雅に組みながらロータスが微笑む。


「マグノリアさまの功績を知る者はどのようなお姿でもあなたを敬いますよ。五百年もの長きに渡り、魔力を平定されてきたことは誰もが知るところですから」

「ごっ、五百年?」


 どこに座ったらいいのかな、美少女の向かい? イケメンの向かい? それともお姉さまをお手伝いしてお近づきになるべきか、なんて考えていた俺は、聞こえてきた数字にうっかり声が裏返る。小物感満載で申し訳ない。


「ええ、マグノリアさまの在位期間は五百年でしたわ」


 湯気の立つカップを手にしたイソトマが、うっとりと言いながら給仕をする。


「それ以前は荒れるに任せていた魔力を巧みに操り、魔力を糧に生きる者たちの居場所を定めて場所を作り、誰もが安心して暮らせる国へと発展させていった……マグノリアさまは奇跡の存在なのですわ」

「ほあぁぁ……なんか、すげえ……」


 五百年とか想像もできないけど。魔力を操るとかイメージするのも難しいけど、でもなんかすげえんだな、ってことがわかった。

 あと、俺の席はロータスの前なんだっていうのもわかった。イソトマがそこにもお茶を置いてくれたから。


 彼女の目くばせを受けて、俺はいそいそと椅子に座る。もちろん脚は組まない。

 いいか? 組まないんだ。組めないんじゃない。椅子の座面が意外と高くて、浅めに腰かけてるのに足の裏全体が床に着かないなんてそんなことはない。そんなことは無いと俺は信じている。


 ちなみにこっそり見てみたら、マグノリアは足がちょっぴり宙に浮いていた。浮いてるせいで、ちょっとだけ足先が動いている。

 クール系美少女の足ぶらぶらに感謝を。

 心のなかで祈りをささげた俺に、イソトマがにこっと微笑んだ。彼女、わかってらっしゃる。


「して、そなた。矢島ネイと言ったか」

「はいっ」


 ほっこりしていた俺は名前を呼ばれてピシっと背筋を伸ばした。

 さすが元魔王さま。美少女だし声もめっちゃきれいなのに、ことばに力があるっていうのかな。ついつい返事に力が入る。学年主任に呼び出されたときだってこんなに良い返事をしたことはない。


「矢島ネイ、十六歳! 家族は父、母、妹の四人です! 異世界ではモブになるタイプです!」


 つい勢いで自己紹介してしまった。どうも、モブです。


「ふむ、ネイ。我はマグノリア。そなた、異界から落ちこぼれてきた者だと自覚しておるのか?」

「へっ、異界からの、落ちこぼれ?」



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