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ある雨の日
――僕は誰だ。
何者だ。
何モノだ。
固い寝台に仰向けに身体を預けたまま、石造りの灰色の天井を虚ろな瞳に映す。
――僕は人だ。
身体もある。意識もある。
――では、今これを考えている「意識」は何モノだ?
木の板で蓋をしただけの石窓の外から雨音が聞こえる。
――雨が降ると心がざわつく。
思い出せない記憶が心を酷くざわつかせる。そして無性に不快感に苛まれる。理由も分からず、ただ不快とだけ、心をざわつかせる。
雨、雨、豪雨、洪水、嵐――。
――なんでもいいから全部押し流してくれたなら、このざわつきから解放されるのだろうか。
そんな仕様のない妄想を余所に、雨はポツポツ、ボツボツと、ただ降り続ける。
――僕は、何処から来て、何処に居るのだろう。
目を瞑り、僅かな記憶のその先を辿ろうとしたがすぐに途切れ、断念する。
雨音に混じり、微かに馬の嘶きが聞こえた気がした。
――彼が運命の乙女と出逢うまで、あと僅か。