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第十五話 つながる

 六日目の朝は遠く過ぎて、昼の食物を彼が持ってきた香りで私は目覚めた。


 あれほどまでに寝られず、いっそ朝まで起きてやろうかとも思っていたのに、こんなにも寝過ごしていたことに少しばかり恥じらいを感じてしまう。


「おはよう」


「……早くはないですけどね」


「まったくだ」


 彼はそう言って歯を見せて笑った。私は体を起こし、彼から視線を逸らすようにして寝床から立ち上がった。


「ちょうどいい頃合いに起きてくれた。飯が終わったらお前が見たことのない作業を見せてやろう」


「楽しみです」


 彼は奥の部屋に戻り、私の分の食べ物を手にして戻ってきた。


 渡されたものを口に含むと、いつものよりも柔らかく、人肌によるぬくもり()()()()温かさがあって、鼻の奥に食欲をそそる香りが立ち込めた。考えるよりも先に二口目を頬張って、勢いよく咽せてしまう。


「ハハハ……そりゃあうまいだろうよ。このパンは()()()()だ。今日から十日分の食べ物を午前中に焼いて保管しておいた。涼しくなってきて結露でいくつかダメになったのがあったからな」


「なんだかご褒美のようです」


「言い得て妙だな。食事は労働に対する良い報いだ。生きていてよかった、とこのときばかりは考える」


 香ばしい香りが空間に長く持つように、と祈りを込めて食べ終わると、彼は分別した天使の残骸たる砂を手で掬い、目の粗い布の上に指先からサラサラと落としてみせた。


 大小様々なカケラだった砂の粒が揃う。


 彼はまた砂を両手で掬い、サラサラと落とす。それを繰り返す様に私は思わず見とれてしまう。古戦場に雑多に取り残されただけの砂たちが、分別され、揃えられ、同じ性質を持つものだけが抽出されていく。


「お前もやってみろ」


「はい」


 言われるがままに彼と位置を交換し、彼のように砂の山から砂を掬って布の上に落としていった。布からはみ出してはいけないと視線は手先から離せなかったが、私に作業をさせている間に次の作業の段取りをしているのだろうことは想像できた。


 彼が取り出した分の砂は全て掬った。視線を上げて彼の方を見ると、彼はこの砂たちの属性である「土」を、不思議な形をした容器に盛って私を待っていた。


「終わったか」


「はい。布の上の大粒の砂は元に戻しておきますね」


「あぁ。そうしてくれ」


 それも終わると、粒がそろった砂たちを、彼は自分の方に引き寄せて、盛った土にそのままサラサラとかけた。


 すると次の瞬間、あまりにも不思議なことが起こった。


 サラサラと土の上に落ちていくだけだった砂たちが、元からそれぞれが見えない糸で結ばれていたように、決まった位置へ落下の法則を無視して収まっていく。壊されたものを壊した未来から壊されていない過去に遡って見ているような、現実的ではない不思議な現象で、思わずその美しさに息を呑む。


 砂粒たちが、割れた破片が元に戻るようにあるべき場所に戻っていく。そうして、あるべき場所に辿り着いた砂粒はより一層輝きを増した。


 一方、土の上にさえ落ちず避けるように散らばって地面の上に落ちてしまう砂粒もあった。


「これは分別が間違っていたものですか」


「いいや、間違っちゃいない。ただ、今回の天使のモノではなかっただけだ」


 時間とともに、砂粒たちは羽根を大きく広げて天に手を伸ばす天使の姿そのものになった。


「わかっているとは思うが、これが()使()()()()だ。死んだ天使の最後の願いが反映された姿となる。この天使はーーそうだな。戦争になど駆り出されずにただ天界に帰りたかったのかもしれない」


 その切なる想いには心当たりがある。胸を焦がす、自らの故郷への狂わしいほどの帰巣本能。


 私は頬になにかが伝って落ちていくのを感じた。


「中には「もっと戦いたかった。悪魔を殺し足りない」っていう物騒な願望が窺えるやつもいる。好き勝手ここを荒らしておいて腹は立つが、だからといってその墓標を壊しはしない」


 彼は私が泣くのに気づかないフリをして、独り言のように言葉を紡いだ。


 天使が死んだ地に、堕とされた天使の役割は、天使を弔うことなのだろうか。わからないが、少なくとも自分には、「そうであってもいい」と思えるようになった。

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