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第十一話 五日目 昼食

 役立たずだと思っていた私も、少しではあるが作業の要領をえて、問題に直面することなく一日を終えられるようになってきた。


 砂を指先に取り、それを注意深く観察する。作業場の片隅に、人の腰の高さほどの器があり、植物が美しい髪のようにその葉を垂らしている。その深い緑色の葉に砂粒を向ける。


 砂粒は互いに擦れ合い、長い時間をかけて小さくなる。小さくなればなるほどに、選別の難易度は高くなる。今は、そういった難易度の高い砂粒は彼が、比較的大きな砂粒は私が担当するようになっていた。


 緑の葉にかざした砂粒は、宝石のように光り輝いた。私はそれを「野に萌ゆる草」と書かれた袋に入れる。


 慣れてきたとはいえ明らかに手際の良さは彼の方が上だが、そのことを強いては意識しないように心がけている。意識してしまうとかえって彼を悲しませてしまうからだ。


 作業場は地下にあるが、太陽が天蓋の頂点にくるとその光が部屋の中に差す。その光が手元を照らすと、集中力を保つためだという休憩時間に入るのだ。


「うーん…………」


 背中を屈めて目を凝らしていたせいでひどく肩が凝っている。私は部屋の真上から差す光に呼応して真っ直ぐに上半身を伸ばした。


「ん、どうした?」


「光が差したので、休憩です」


「んん……あぁ、そうか」


 私はもう休憩する気で立ち上がって奥の部屋に向かおうとしていた。しかし、彼はなぜだか腰が重い。


「どうかされましたか? 区切りがいいところまでやっておられる間に準備をしておきますよ」


「あ……いや、違うんだ。でも、ありがとう」


 彼は作業の手を止めて立ち上がり、私とともに奥の部屋に向かう。特に問題が発生したわけではなさそうなので、私はひとまず休憩時間を楽しむことにした。


 奥の部屋には、人の背丈ほどにたくさん積み上がった食料の備蓄がある。それは柔らかく手でちぎれる口当たりのいいものであることが多く、長い月日が経っているだろうに腐ったり硬くなったりはしていない。そして、その部屋に入るたびに冷たい風が部屋の中から吹いてきて肌を撫でる。


 ……だが。


「あぁ、やっぱり。霜がついてンな」


 彼はひとつのまんじゅうを手に取ってその表面を覆うものをパッパッと払い落とした。


「これは……氷ですか?」


 他の食物にも似たようなものがついていたので触ってみると、それは少し冷たく、しかしすぐ溶けて水になってしまう。


「まぁ、本質的にはそうだな。ここは食料保管庫だから食べ物が傷まないように暗く涼しくなるよう設計された。だからこそ、季節の変化に敏感なんだ。ここで食べ物に霜がついたとなれば、冬が近い。対策をしないとな」


「冬、言葉としては聞いたことがあります。用いたことも」


 天使が支え、維持管理する世界は単調でありすぎると()()が生まれない。生命の誕生と死も流れの一部であるが、その変化を維持するために主神は季節を造られた。変わらないことが主の本質なのではなく、変わることを(とど)めないことを不断の努力で維持するのである。


 変化がないことが正義なのなら人が生まれるはずもない。


 命を生み出すその()()の源流は主が創造された季節であって、それが湧き出す泉は太陽である。ここまで思考を巡らせて、私は休憩時間に入ったときの彼の不可思議な態度に合点がいった。


「そうか! 太陽の高度が変わっていたのですね」


「よく気づいたな、その通りだ。太陽があまり高く昇らないようになったせいで、天窓からの光が弱くなった。それではさっきの俺のように、休憩に気づかずずっと作業をしてしまい、疲労が蓄積して結果的に効率が落ちる。だから、今日は午後の作業は休みだ。休憩が終わったら、天窓の調節をしよう」


 霜がついた食物は少し水っぽく、休憩を楽しみにしていた心が少しだけ沈んでしまった。それが顔に出てしまったせいか、彼がいたずらっ子のように笑いながら慰めてくれた。


「なに、安心しろ。貯蔵庫の天井を厚くして食べ物に霜が降りないようにしてやる。すぐにうまいもんが食えるようになるさ」


「天井も変えられるんですか」


「ああ、そうだ。先祖代々使っている作業場だが、俺が大規模な改築をした。それまでの奴らはみんな、霜で濡れてべちゃべちゃになったパンを食っていたらしいぞ」


 先代以前のこの地に堕とされなくてよかったです、と言うと、彼は天使なんだったら堕とされないようにしろよ、と笑った。

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