3月1日(金)
寝坊した。昨日は結局、寝付けたのが午前三時ごろだったから、アラームの音が聞こえないぐらい起きれなかった。
「詩ぁ、遅れるぞー」
お兄ちゃんの声がした。時間がやばいのはわかるけど、お兄ちゃんからそう言われるのはなんか気分が悪い。
「わかってるよ、今行く」
とりあえず着替えて、バッグを持って一階に向かう。
「詩、時間ないけど朝ご飯どうするの?」
お母さんが洗い物をしながら尋ねた。
「いらない。お菓子持ってくから、お腹空いたらそれ食べる」
健康的では全くないけど、時間がないんだから仕方がない。
お茶だけ飲んで我慢する。
「早くしないと置いてくぞー」
「別に先に行っていいから、お兄ちゃんは黙ってて」
髪の毛をとかす。幸い目立つ寝癖はついていなかったから、軽くとかすだけで済んだ。
「じゃあ、行ってきます」
お兄ちゃんと一緒に家を出た。
空は青く晴れていて、昨日より少し温かかった。二月から三月に切り替わったんだって実感した。
「何そのブローチ、買ったの?」
カバンに輝いているアメジストのブローチを見ながら、お兄ちゃんが聞いた。高いものだと見抜いているのか、怪訝そうな表情だ。それとも、私はこういうのをあまりつけないから、不思議がっているんだろうか。
「大切な人からもらった」
「ふうん」
自分から聞いておいて、その興味なさそうな反応は、何とかならないものか。
如月がいない日々が戻ってきていた。でも、不思議と寂しさは感じなかった。来年会えたら、どんな話をしようか。どんなことをしようか。今から楽しみで仕方がなかった。
「詩、急がないと遅刻するよ」
「わかってるよ。今行く」
きっと、如月に話したい、今度如月と一緒に来ようって、彼のことを考えながら今日から過ごしていくんだろう。
桜が咲いたらお花見に行こう。
夏には花火大会に行きたい。
紅葉を見たりお月見をしたり。
クリスマスとお正月をめいっぱい楽しんで。
――そうして私は、如月を待つ。




