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擬古文習作

作者: 鱈井 元衡

今は過ぎける日々省みて、「恥の多い生涯を送つて来ました」と始めつる人、優しき心あるに、人に虐げられにし昔ありとたのみけるまことに恥づべきさがの身につきたるをば知らざるなり。

恥なければ固く生きなんも、なまじひに恥ありて日數を送るぞうたてからき。

固き心のなければぞ、あふさきるさに思ひ乱れんは常なれど、そのいと長きこそ口惜しきなれ。さるは、我がしたきことに使ふ時は短くして、強ひられたることいぶせくなす時の長ければ、一生の大半はただただ本意ほゐならぬ内にみぬ。

されば人の世のはかなきを嘆くものの絶えぬにてなむ。


明日は今日より良からじ、幸あらじなど自ら呪ひつつるは日課なり。

自得のさかひにやすらはんととも、体の疾患の、目に見ては近きもさやかに映さぬ目を憂へ、耳にて聴きては静かなる処に、耳のおのづから金切声をかなでたるが、げに耐へられぬなり。

ひねもすかかれば、すべからくわづらひて、悩みのおこたる時もなし。

詠める、「世の中は空しきものと知る時しいよよますます悲しかりけり」といふ歌の心ばへ、感ぜざるべしや。


仕事や婚姻など、なさずは恥づべきえだちのごとく言ひなすも憎し。

世を恨むつもりに、心地悪しく過ぐししかば、「ごめん、ごめん」などいらふる軽さをば、さかしと恥ぢたれど、共にありて心地よからぬ人なれば何かはせん。かく生まれたればなぢらるる身の上なるも、我が奥底はさて良しとは認めぬものから、己の前なる者を疑ふ癖のみ積みて、人の我をそこなふならずやと。

負ふべきせめは我にあり。

無辜なるをたのまずして、罪業ざいごふの己に帰するは数しれねば、なまじひに

我一人死なばいかでかく思ひわづらはんや。されど、わびしく生きて長らふる命ならねば、うからはらからにらで生くすべもなし。かくて夢もうつつもわづらひて、

渦のごとくなりて、さまたぐること言ふかひなし。

酔生夢死の有様、笑はば笑ひたまへ。


行く末の暗澹たらんに、いにしへのことは思ひも出でず。

絶えなば絶ゆべき玉の緒の、盡きも果てぬぞ恨めしき。

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