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「未来ちゃん、おーい」

遠くから私を呼ぶ声が聞こえる。

私は仕方なく目を開く。

いつもの朝だな。

「早く出てきて〜!」

ドンドンッ!とドアを何回も叩く音が聞こえてくる。

「ちょっと待って!すぐ出る!」

身体を起こし、大声で待ってくれるように伝える。

ベットから名残惜しいと思いながらも出て、顔を洗う。

うん、いつも通りの顔だ。もっと可愛くなってもいいのに。

そんな自分でもよく分からないことを呟きながら歯を磨く。

この世界ってご飯食べなくても生きてられるけど、虫歯になることあるのかな?

まあ、いいや。と思いつつ、うがいをする。

急いでTシャツとスカートを着て、靴を履き、外に出る。

「もー、何時まで寝てるの!」

クレアは頬を膨らませながら軽く怒る。

「あ、鍵忘れた」

ズコーッ

「……未来ちゃん」

綺麗にこけたクレアは呆れた顔をして私を見る。

「早く取ってきて……」

……ごめんなさい。


鍵を取り、歩きながらクレアの話を聞く。

「今日はどうしたの?また仕事?」

「もちろん、今の時期はどうしても混み合うんだよねぇ。有給休暇つかう人多いから」

え、有給休暇あるんだ。お金の概念もあるのか?

「それで新人の君に仕事がいっちゃうんだよねぇ。もっと休ませてあげたいんだけどさ」

少し眉を下げ、申し訳なさそうにするクレアを見て、逆に気を遣わせてる事に申し訳なく感じた。

「確かここら辺かなぁ?」

そう言いながらクレアは辺りを見回す。

私もつられて見回してみる。

「あ、いたいた!おーい、(しずく)ちゃん!」

クレアの向いている方向を見ると、雫ちゃんと呼ばれた女の子がビクッとしながらこっちを振り向くのが見えた。

「あ、えっと、クレアボイアンス?さんでしたっけ?」

おどおどとしながら此方に近づいてき、そう尋ねる。

「おー、名前を覚えてもらえてて光栄だよぉ〜!」

何気に覚えづらい名前だもんね。

名前があっていてホッとしたのか、雫ちゃんは少し笑顔を漏らした。

近くで見るととても可愛らしい顔立ちをしていることがわかる。

紫色の目はジト目な感じで感情を出したりなどが不器用そうに見えるが、笑った顔が愛らしい。

服装は魔法使いを彷彿とさせるような、短いマントのようなものを羽織っている。

「まずは自己紹介…ですよね。私は雫といいます。」

そう言いながらペコっと頭を下げる。

「歳は15歳で、元の世界では魔法使いをしていました。……勇者様のお供として」

最後の一文を言う時に、雫ちゃんの顔が曇ったのが少し気になった。

「えっと、死因って言わないといけないんですか?」

その問いかけにクレアは明るく答える。

「もちろん、言わなくてもいいよ!」

誰にでも黙秘権はあるからねぇ〜、とクレアが言う。意味が違うような……?

「でも、一応言っておこうかな……?これからを決める事だし……。」

ぶつぶつと言うか言わないかを声に出す。

「死因は、自分で火炙りを……。」

自分で火炙り?そんなことができるのか?

「あ、えっと、どうやってやったのかと言うと……自分の家に火をつけてそのまま閉じこもって皮膚から……。」

「ストープッ!もういいよ?これ以上はお腹いっぱいよ?」

急いで制す。これ以上続けさしたら絶対グロくなる……。

「あ、ごめんなさい……。」

雫ちゃんがとても暗い顔をする。

「まあまあ。雫ちゃん、とりあえず他の情報も聞きたいかな。」

クレアが話を進めてくれた。

「他、何話せばいいですか?」

「ほらっ、未来ちゃん」

いや、クレアがやってくれた方が絶対早い。と言う言葉を飲み込み、知りたい過去を聞く。

「ねぇ、何で雫ちゃんは自殺しようと思ったの?」

この子はストレートに聞いた方がいい、そう思った。

「……。」

雫ちゃんは一層暗い顔をする。

まずかったか?

「そうですね、えーと、んと。」

とても言いづらいのか言い淀む。

「どう言ったらいいか分からないんですけど……、いじめられてたというか、蔑まれてたと言うか。」

ゆっくりと話し始める。

「私、魔法使いと言っても、とても弱い魔法しか使えないんです。いくら頑張って勇者様達に肩を並べようとしても、いつも下級魔法止まりで、回復魔法も使えないし……。それで……。魔王なんかとても倒せないから」

なるほど、それでパーティの仲間達にいじめられ、自殺をしようとなったわけか。

「ごめんね、ありがとう。辛いことを話してくれて」

「いえ、大事な事ですので……。」

少し涙目になっている。辛かった日々を思い出すのだろうか。

「本当は私がパーティを抜ければ良かったんです。でも、どうしてもできなくって」

仲間に褒めてもらいたかったから……。そう呟く彼女をみて、精一杯褒めてあげたいと思った。

「なるほどねぇ、それじゃあ雫ちゃんはあれかなぁ?」

さっきからウンウンと悩んでいたクレアも決めたらしい。

「よし、決めた!雫ちゃんの職業は、"猫の亜人"だよ!」

途端に雫ちゃんの周りに光が集まってくる。

「わ!なになにっ!」

雫ちゃんは目を見開き驚いている。私もそうだったから今の気持ちがすごくわかるよ。

しばらくして、光が薄れて元にもどっていった。

「おー、かわいい……。」

猫耳と尻尾がとても似合ってる。

「あ、ありがとうございます……。」

まだ少し驚いているようで何度もパチパチと瞬きをし、尻尾を眺めている。

「ふふ、何で猫なの?って思ったでしょう?」

クレアがドヤっと言わんばかりの表情でこっちを見る。

思ってないけど。

「雫ちゃん、猫好きでしょう?」

「え、はい。大好きです」

やはりな!とクレア顔が言っている。

「猫好きにはたまらんでしょう!わかりますとも、わかりますとも!しかも、雫ちゃんは褒められたいらしいじゃない。そのパーティの仲間さんじゃないけれどたくさん褒めるとしたら、甘えたがりの猫が1番でしょう!」

ドヤ顔が輝いてくる。そっちの方がすごい。

「ふふふ、ふふふふ。」

前回でクレアの事がわかったと思っていたが、前言撤回しよう。謎だ。

「クレアボイアンスさん、ありがとうございます。色々と」

「あー、クレアでいいよ。呼びにくいだろうし」

「……!はい!これから、皆さんの役に立てるように頑張りたいです」

よろしくお願いします。と雫ちゃんはさっきよりも声を大きくしながら言う。

「これからよろしくね、雫ちゃん」


ここの世界では、楽しく生きてもらいたい。そう初めて他人に思えた。

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