未来の新しい生活
おもむろに目を開ける。
青空が広がっている。
「ここは……どこ?」
1人、静かに呟く。
「ここはね、自殺した人達が集まる世界だよ。」
誰かが答える。
私は驚いて立ち上がり、声がした方に顔を向ける。
そこには、可愛らしい女の子がいた。
髪は短めで、銀髪。瞳は綺麗な水色。
身長はさほど高くないようで、私よりも低い感じだ。
見た目に似合わず、白いスーツを着ている。
「誰?」
慌てて聞く。
「私はクレアボイアンス。みんなからはクレアって呼ばれてるよ。」
「ク、クレア?」
変な名前だ。日本人ではないのかな?
「うん、クレア。実のところ、ほんとの名前は知らないんだ。」
私の能力と職業的に、そう呼ばれるようになったんだ〜。とクレアは続ける。
「能力?職業って……。」
急にいろんなことを言われると、混乱してしまう。
「とりあえず!こっちにきて!」
手を掴まれながら引っ張られる。
意外と力強いな、この子。
引かれるがまま、建物の中に入る。
そこは異質な空間で、空を飛んでいる人もいれば、素早く走り回っている人もいる。椅子に座っている多くの人は、顔が潰れていたり、胸元にナイフが刺さっている人がいたり、首にロープが巻きついている人がいる。
「何……?ここ……。」
思わず呟いてしまう。
「ここは自殺した人が最初に来るところで、ここで職業を決めるんだよ。」
相変わらず、私を引っ張りながらクレアは答える。
「ここにいる人は全員自殺者なの?普通の人はいないの?」
見ているだけで痛々しいひとが目に入ってしまう。
「最初にも言ったけど、この世界は自殺した人達が集まる場所だよ。」
淡々と答える。
確かに、私も自殺をした。でも、こんな世界があるなんてことは信じられない。
そうだ、夢だ。私は死に損ねて夢を見ているんだ。そう思いたい。
試しに頬をつねってみる。
「いたたた!」
思いっきりつねったので、痛い。どうやら夢ではないようだ。
そうこうしているうちについたみたいで、クレアは急に止まった。
「ここで決めるの。」
クレアが指を指した場所は、普通の会社のような、机の上にパソコンが乗っている場所だった。
えっ、パソコンで決めるの?
ここに座って。と、いつのまにか座っているクレアに椅子を指しながら言われる。
言われるがままに椅子に座るが、不安が少しある。
「いくつか質問するから答えてね。え〜と、名前は未来ちゃんだよね?」
クレアが資料を書きながら言う。私は頷く。
「やっぱり女の子か……。」
クレアが呟く。
「?、どういうこと?」
私はそんなに男に見える方ではないはず。
髪もセミロングぐらいまで伸ばしてるし……。
「私が未来ちゃんって言った時頷いたでしょ?男の子だと、微妙な反応するからさ。こういうのも、一応確認しないといけないんだ。」
「な、なるほど?」
今の少しの会話だけでも情報が結構出てるのか。
「ねぇ、クレアの職業って、人の職業を決める役割があるの?」
ここは気になる。なんなのだろうか。
「私の職業は情報屋。能力は一眼見ただけで、大体の情報は私の頭の中に入るんだよ。」
例えば……。っと、クレアは私の鞄を見る。
「その鞄の中には、スマホとモバイルバッテリー、財布、あとナイフが入ってるよね?」
驚いた。全部あってる。
確かに、スマホとかは当てずっぽうでも当たる。なのに、ナイフまで当てるなんて……。
「すごい……。」
思わず声に出る。これはすごい。
「まあ、この能力があるから職業を決める時に最適なんだよ。」
クレアが得意げに笑いながら言う。確かに納得できる。この能力はすごい。
「質問続けるね?」
クレアが資料を見つめ直す。
とりあえず気になることは聞いたので満足だ。素直に頷く。
「それじゃあ、年齢は?」
16歳。高一だ。
「得意なことと好きなことは?」
続けて聞かれる。
「えーと……。得意なことは、こんなこと言うのもなんだけど……人に優しくすることで、好きなことは……。」
ない。そう答えるのは少し嫌で頑張って考える。
「人の笑顔……?」
呟くように言う。すると、クレアはこちらを見上げる。
「へぇ!素敵だね!」
屈託のない笑顔でそう言ってくれる。
少し嬉しくなる。
そのまま質問が何個か続き、紙に書き記される。
それじゃあ!と、クレアが紙をトントンッと揃えながら言う。
「ちょっと考えるから待ってね〜?」
考えてることが一目でわかるようなポーズで考えてる。面白い。
急にパンッ!と手を鳴らす。
「うん!ピッタリな職業だ!」
少し不安だ。どんな職業になるのだろう……。大変なやつじゃなかったらいいけれど……。
「未来ちゃんは"天使"がいいと思うよ!」
クレアがそう言った。瞬間、私の体が光る。
「な、なにこれ!どうなってるの!?」
慌ててクレアに問う。
「うーんとね、羽が生えたり、天使専用の服に変わっていってるんだよ。」
笑いながら答える。いつのまにかクレアのそばに私の服がある。
私は怖くなり、目を瞑る。
少しして。
「もう目を開けてもいいよ。未来ちゃん。」
クレアの声が聞こえる。
恐る恐る目を開けてみる。
光が消え、服が白いTシャツに茶色いロングスカートになっていた。
首には黄色のような金色のような、そんな感じに光を受けて輝いている十字架がネックレスとしてかかっている。
靴もスニーカーから、天使の履いているようなサンダルになっている。
「鏡も見てみる?ちゃんと変わったところは服だけじゃないよ。」
そう言いながらクレアは鏡を差し出す。
鏡を見てみると、私の頭のところに天使の輪らしきものがある。
後ろも見てみると、白い羽も見える。
驚きすぎて声が出ない。
「未来ちゃんの能力は……。そうだった!天使は能力がなかったんだ。」
資料を見ている。
えっ?私、能力ないの?ちょっと楽しみにしてたのに……。
「まあまあ、落ち込まないで?人間ではできなかった空を飛ぶっていうことはできるから……。」
ちょっと同情してくれる。優しい……。
「未来ちゃんの仕事は、困っている人とかを救うことだよ。この世界の人でも、困っている事とかが必ずあるから。」
親切に教えてくれる。
こうして、私のこの世界での生活が始まった……。ような気がする。
えっ?ほんとに夢じゃないよね……?