遅刻をかっこよく誤魔化すのやめなさい!
「では講義を始める。まずは魔術理論の基礎についてだ。教本の七頁を開きたまえ。」
講師が登壇する。
講師はそのまま生徒たちを眺めるとピクリと眉を動かす。
「二人、まだ来ていないな。」
そこでロベルトは手を挙げて発言する。
「来ていないのは下級市民のオリヴァー・ミルとその取り巻きの…えっと女。」
ロベルトはナジミーの名前を知らない。
「そうよそうよ!ナジミーとかいう女よ!」
取り巻きがフォローする。
「ふむ。オリヴァー・ミル、ナジミー・オスナー、その二名で間違いないな?」
「呼びましたか?」
「この声は?!」
ロベルトがドアの方を見る。
「お前がオリヴァー・ミルか?」
講師は講義室の入り口に腕を組んでもたれかかっている男に質問する。
「そうです。私です。どうかしましたか?」
「どうかしたじゃない!遅刻だぞオリヴァー・ミル。貴様初日の講義に遅刻とはやる気があるのか?」
「遅刻?名門校の講師はずいぶん狭量なのですね。遅刻などくだらないこと。この世界は実力がものを言う。遅刻が気に入らないのであれば私と決闘で勝負をつけましょう。」
彼が肩にかぶせた制服が風ではためく。風ではない。魔力だ。オリヴァーは魔力で威嚇して遅刻を無かったことにしようとしている。
講師は気圧され言葉を失う。
「反論がないと言うことは私の言い分が認められたといブッ」
オリヴァーは後ろから頭を押さえつけられそのまま床に打ち付けられた。
「オリー?何先生に失礼なこと言ってるの?謝りなさい。」
後から到着したナジミーがオリヴァーの頭を床に擦り付けながら怒る。
「遅いな名も知らぬ女。私はあらかじめ身体強化を施していてこの程度の暴力痛くも痒くもないのだが遅刻してまでセットした髪が乱れるからやめてくれないか?」
「先生に謝れって言ったよね?」
「遅刻ごときで怒る者に講師の資格などなヴッ」
オリヴァーの顔面が床に再度叩きつけられる。
「謝りなさい。」
「すまない。」
「遅刻した上に変なこと言ってすいませんでしたって言いなさい。」
「遅刻したのは君もじゃないか名も知らぬ…」
「知ってるだろ!幼馴染だろうが!だいたいあんたが髪型がどうのとか言ってなかなか家を出ないから遅刻したんでしょ?それにあんた私おいて瞬間移動するし!あとちゃんと謝りなさい!」
「遅刻してすいませんでした。」
オリヴァーは額を頭につけて謝罪する。
「よ、よし、二人とも席につきたまえ。」
講師は動揺している。
「やれやれ。朝からとんだ厄介ごとに巻き込まれてしまったな。」
オリヴァーは落ちた制服のジャケットを肩にかけると涼しい顔で席に向かう。
「オリー、ちゃんと服着なさい。」
「着こなしなどどうでもいい。指定された服は持ってきている。どう羽織ろうが僕の勝手だろ?」
「ちゃんと着なさい。」
「…」
「着なさい。」
「わかったよ。」
そう言いながらオリヴァーは席についた。
「あっ、先生遅刻しちゃってすいません。ごめんなさい。」
ナジミーはぺこぺこしながら席についた。