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7.

「……セイブン、大丈夫?」


「大丈夫、と言いてえが……」



 人類連合軍の仮設キャンプ、そこでセイブンといまだに目覚めないヘルメイトが治療を受け続けていた。治療をしているのはタヒナと回復役の魔法使いたちだ。



「大丈夫、じゃないわね」


「ああ、サルク・リバーは倒せたと思うけど、結果的にはアンゴール王国を救えなかった。誰一人助けられなかった……」



 人類連合軍の援軍、タヒナを含めた彼らがアンゴール王国に駆けつけた時には全てが終わっていた。魔王軍大元帥は討たれた後のようで、その場に生き残っていたのは『三人』だけだったのだ。そんな状況で生き残った勇者の、アンゴール王国の滅亡を止められなかった責任は重い。



「くそ……何が勇者だ。魔王軍大元帥を倒しても、誰も助けられなかったなんて……こんなに悔しいと思ったことはねえ……! 死にかけたことよりも、負けそうになったことよりも、誰一人助けられなかった、俺は……!」



 目に涙すら浮かべ、歯を食いしばり、拳を握り締めるセイブン。そんな彼にどう声を掛ければいいか分からないタヒナは言葉に悩む。彼女も援軍として駆けつけたのに間に合わなかった負い目があるだけに、せめてセイブンを支えたいとは思っているのだ。



「セイブン元気だして……なんて言えない。だけど、『誰一人救えなかった』わけじゃないのよ」


「……なんだって?」


「王都の跡地をくまなく探したんだけどね。そこに女の子の生存者を救助できたの」


「んな!? 生存者がいたのか!? あんな状況で!?」


「ええ、女の子は民家の地下室で見つたの。王都の外れの方にあった家の跡地に地下室があったのを私が偶然見つけたのよ。一人でうずくまって震えていたけどね……」



 タヒナ達が駆けつけた時に見つけた生存者は勇者二人を入れて三人だった。その二人の勇者とはもちろん、セイブンとヘルメイトのこと。残る一人はタヒナ達も驚いたものだ。


 タヒナの脳裏に一瞬浮かぶ女の子。それは4~5歳くらい、銀髪で瞳の色は黄土色の小さな女の子の姿だった。タヒナが言ったように一人でうずくまって震えていた彼女の姿は、タヒナの心に強く印象に残っていた。



「そ、そうか……生き残っていた子がいたのか……! よかった……!」



 生存者の存在を知って、セイブンは遂に涙を流した。ただ、悲しみからではなかった。誰も助けられなかったわけじゃないという事実が、セイブンにほんの少しの救いを与えたのだ。その証拠に、歯ぎしりも止め、握っていた拳も開いていた。



「セイブン、私達は魔族と戦争をしているから、守りたくても守れないもこれからあるかもしれない」


「タヒナ……?」


「でも、そんな戦争を終わらせたいし、人類滅亡なんて阻止したい。だから、今は悔しいけど立ち止まるわけにはいかないわ。そこに勇者とか勇者じゃないとか関係なんかない! そうでしょ!」


「! それは……」


「だから、今はヘルメイトと一緒に傷を癒して、時間をかけてもいいから元気になりなさい。あんたがいつまでも暗いままだと調子が狂っちゃうんだからね!」


「タヒナ……」



 勇者とか勇者じゃないとか関係なんかない、と言うタヒナ。それは『勇者』という立場ゆえに重く責任を感じたセイブンに対する不器用な激励だった。それを感じ取ったセイブンは確かにそうだと決意を新たにする。



「……そうだな。お前の言う通りだよタヒナ。確かにこれからも守ってやれないことも多くあるかもしれねえ。でも、だからって立ち止まっていいはずもねえ。そこに勇者とか関係もねえ! おし! 今は回復すんぞ! すぐに復帰して皆のために戦ってやるぜ!」


「そうよ! 調子だけは戻ったわね! まあ、無理はしないでいいけどね」


「ああ! ありがとうな、後で俺の方からヘルメイトにも言っておくぜ!」





 魔王軍大元帥サルク・リバーが二人の勇者に打ち取られた。その事実は人類連合軍の士気を大いに上げることとなった。しかし、魔王軍は一人の大元帥を喪っても、勢いをなくすことはなかった。



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