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翌日。
起きるとリョークのベッドに使った形跡がないことから少し心配してたが、リョークは御者のおじさんとの待ち合わせの時間に間に合うように帰ってきた。
5人はすでに朝食を済ませて、ぼーっとしたりじゃれついたりブンツクしたり朝の自分の時間を過ごしているときだった。
一晩経ったリョークは寝不足らしく目の下に隈を作ってはいたが、とても明るい顔をしていた。そして、5人の顔を見るとみてください!と言って竪琴をつま弾いた。
「お、調律が直ってる」
「そうなんです!イチカナさんが調律の仕方を教えてくれて、さらには弾き方まで教えてくれたんです。まだ、ちゃんとは弾けないんですけど、嬉しくて!それにお師匠様の歌も何曲か教えてもらえました!」
もちろん、竜殺しの英雄譚もきちんとした旋律を教えてもらいました。と、とてもうれしそうだ。
5人の目には、リョークがあるはずのないしっぽをぶんぶんと回しているように見える。
「良かったね。誤解も解けたんだね」
はい、とリョークは明るい笑顔で笑った。
宿屋を出る段階で、宿の人が少し困った顔でリョークに伝言を伝えていた。
曰く、領主様が異世界の方に会いたいから領館へ来い、という。
「えー・・面倒くさい。それって行かなきゃダメなの?領主って偉いんだっけ?命令なら従わなきゃダメか?」
透が不満たらたらだ。
「いや、前にヨリコノさんが言ってた。異世界人は領主の言葉も貴族の言葉も無視していいって。だから行かなくても問題ないんじゃない?」
「だよな、もう3日目だし。あまり悠長なことしてて戻れなくなったら困る」
と、いうわけで領主の伝言は聞かなかったことにした。
広場に着くと御者のおじさんがすでに待っていた。朝の挨拶をして出発し、関所を出ようとすると止められた。
「すまんが、領主様が異世界の方と一度目通りしたといっててな。異世界の方を通過させるなと言われたんだ。わりーが、領館へ行ってもらえないか」
「何言ってんだ。異世界の方はすぐに王城へ連れて行くのが決まりだろう。領主といえどもその決まりに背いてはいかんと王から触れも出てるだろうが」
御者のおじさんが毅然として言い返してくれるが、門番は情けなく眉を下げるだけだ。
「おれらもそういったし、領館でも散々領主様を諫めたらしいんだが全然聞く耳を持たん。おれらは領主様に雇われている身だからな。命令には従わなければならない。だから、すまんが・・いうこと聞いてくれないか?おれらにはもう関所を開ける権限がなくなった」
やり取りを聞いていた街の人たちも、領主の理不尽な願いに文句を言い始める。通してやれ、と番人に石をぶつけるものまで出てきた。
「ちょっと、これ、ヤバくない?門番の人、街の人にぼこぼこにされるぞ」
隼人が少し焦ったようにいう。石礫は次第に多くなっている。
「てか、おれたちにも当たるっつーの。どうする?いうこと聞いて領館に行く?」
尚文の言葉に透が首を振る。
「言ったら多分、出してもらえなくなるような気がする」
だよなー、と5人の意見が一致した。しかし、何の解決にもならない。
すると、リョークがすっくと立った。
「僕がなんとかします」
石礫が飛ぶ中、リョークは門番の前に歩み出ると竪琴をポロンと鳴らした。
その音に石礫が止む。石があたり、頬を赤く腫らした番人が身構える。
リョークはポロンポロンと確かめるように竪琴を鳴らすと、旋律を口づさみ始めた。
それは歌になる。穏やかな、優しい歌になる。
殺気だっていた町の人たちの、石を持つ手が下りる。口汚く領主や門番を罵っていた声が止む。
竪琴の伴奏をはさんで、曲が二巡目に入るころ、門番が持っていた槍を納めた。
「すまん」
門番が頭を下げ、門を開けた。
わっと歓声が響く。リョークがホッとしたように竪琴を弾く手を止めた。
「ありがとうございます。あの、街の皆さん、この方が領主様に咎められるようなことがあれば」
「大丈夫。みんなで庇うよ。っていうか、あんたらが王城に行って王に事情を話せば全部大丈夫さ。罰するべきは領主様だ」
「領主様も悪い人じゃないんだけどな、欲張りでわがままなんだよな」
それは良い人とは言わないんじゃないだろうか、という5人の心の声はしまっておく。
「異世界の方々と吟遊詩人の兄ちゃんにオリーイ様のご加護を!」
街の人に見送られてAzumashiとリョークは中津賀歌をでた。
見送る人々の間にびっくりするほど鮮やかな青い髪の女の子が見えた。その女の子は、リョークに向かってサムズアップすると、大きく手を振った。