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閉門には余裕で間に合った。予定よりもずいぶんと早い。歌いながら来たのが良かったらしく、疲れらしい疲れもない。
国境の関所とは少し趣が違う木造の簡易な関所だ。
この関所を守るのは「ザ☆番人」とでも顔に書いてあるような筋骨隆々ないかついお兄さん。
ここの関所は檜の山国、豊の川だとリョークが教えてくれた。
リョークは自分の身分証明書のようなものを門番に見せるとすぐに通ることができた。リョークはAzumashiを振り返って、門番に困った顔をみせると、門番は笑って首を振った。
「どう見ても異世界の方々だろ?いい拾い物をしたな」
「この街までの案内をと考えていたのです。この街の顔役様か領主様に引き継ぎたいのですが」
リョークがそういうと、門番はだめだと首を振った。
「異世界の方と初めにあったものが聖女様のもとに連れて行くのがルールだ」
「でも、僕は外国人で」
「関係がない。この国に入ったらこの国のルールに従う。吟遊詩人ならそれは承知の上だろうが。
もし、路銀とかでこまっているなら、この街のオイワケドリという酒場を訪ねてみろ。
街の顔役ってわけではないが、あそのこの女将に相談すればたいがいうまくいく」
リョークが戸惑いつつ、5人を振り返った。
「話はわかりました」
尚文が、がっとリョークの肩に手を回した。
「これからもお願いしますね、リョークさん」
「ごめんね、リョークさんだって目的があってこの国に来たのに」
優陽の言葉にリョークはいいえと首を振った。
「僕もあなたたちとご一緒できるのがうれしいです。ただ、手元不如意で・・。教えていただいた酒場へ行ってみましょう」
「ごめんな、おれら着の身着のまま無一文だから」
隼人が、ごめんと頭を下げる。透もポケットを叩いて首を振る。5人は汗だくのステージ衣装とタオルのほかは何も持たないままこの世界に踏み出した。金は愚かスマートフォンもなにももっていないかった。むしろ汗臭いだけマイナスだ。
「なんか、すいません」
透の謝罪をリョークは笑いながら首を振る。
「お金やものよりももっと素晴らしいものをいただいておりますので」
「・・リョークくん、敬語とか取っ払っていいからね。てかおれら恩人に対して最初からタメ語だし」
隼人の言葉にリョークは、はい、といい笑顔を向けた。
オイワケドリは街の中心の広場近くにあった。まだ開店には早い時間だったが、店は開いていて、女将が出迎えてくれた。
「あなたたちが異世界からの客人ですね。そしてあなたが案内人なのね。カイヨウマルから聞いているわ。案内人の方は隣の国の方だとか。詳しいことをご説明しますね」
オイワケドリの女将はヨリコノ・セイジョウジと名乗った。オレンジの明るい髪を耳の下で切りそろえたボブスタイル、そして、豊満な体を持っている。おむねとおなかの境目がわからない。
その豊満な体の印象のとおり、ヨリコノは明るく、話をしていると自分たちまでも楽しくなるような魅力にあふれる女性だった。
ヨリコノはこの国の異世界人に関するルールを教えてくれた。
異世界人を初めに見つけた人が責任をもって聖女のもとに連れていくこと。
必ず5日以内に聖女のもとにたどり着くこと。
異世界人を足止めしたり、閉じ込めたりは決してしないこと。
案内人は異世界人を連れているあいだは、貴族の言葉にも領主の言葉にも従わなくてもよいこと。
「異世界人を王城に連れて行けば、案内人にはそれまでにかかった路銀のほかに報酬も出るわ」
それをきいて、リョークはひどく安心した顔をした。
「しかし、ヨリコノさん。僕は本当にお金がなくて・・今日の宿代も」
「それに着替えも、食事代も、馬車代もいるわね。歩きだと王城まで5日で移動するのは厳しいもの。馬車に乗れれば時間を短縮できて、余裕をもって動けるからね。でも、大丈夫。あなた 吟遊詩人でしょ?今日、その分稼げばいいじゃない。このところいつも来てくれる吟遊詩人が来てくれなくて、みんな娯楽に飢えているから儲かるわよ」
「あの・・僕、歌は・・」
「マジですか!じゃあ。おれら歌ってもいいですか?!」
リョークの言葉を透が遮った。
「ええ。もちろん・・異世界の方が歌うの?」
「おれたち歌歌いなんです」
浩平がにこりと微笑む。
「そう。なら、存分に歌ってちょうだい。こんな子供におんぶにだっこより、自分たちで稼いだ方がいいものね」
「よっしゃ、ライブだ!曲、練り直そう」
「まってその前に少し調整しないと」
「スターップ」
ステージの準備に前のめりになった5人にヨリコノがストップをかけた。
「まずはこの先の宿屋に行って今晩の宿を求めてきて、体を清めて着替えして。それから戻ってきてちょうだい。晩御飯はおねえさんが奢ってあげるわ」
「っしゃーす!じゃあ、リョークくん、いこっか!」
隼人がリョークの背をバン、と叩く。リョークが目を白黒させつつ、ヨリコノに頭を下げる。
「宿には連絡してあるから」
「何から何までありがとうございます」
リョークと優陽と尚文がきっちりとヨリコノに頭を下げた。
「いいえ。お客様にサービスするのは私の仕事だからね」
とヨリコノはバチンと片目を閉じて答えた。