3-2 ピンチと和解
池田に腕を強く引かれ、千秋はベンチに背中から叩きつけられた。
「いたっ!何するの……」
千秋は恐怖に絶句した。ベンチに横たわった千秋の上に池田が覆い被さってきたのである。すげなく振られプライドを傷つけられた男の顔は恥ずかしさと怒りでいろどられていた。
「お前が悪いんだ……優しくしてやったのにオレをコケにしやがって!」
「ひっ——」
ただただ怖かった。押さえつけられるなんてことは初めてだったし、抵抗しようにも体はスイッチを切られたように動かなかった。男の姿に戻ろうとしても、意識を集中できず上手くいかない。
池田はセーラー服を一気に破り去った。バストで押し上げられたキャミソールが外気に触れると、彼の目に欲望の光がともった。千秋は知らずのうちに涙をこぼしていた。そして男の手が形の良いバストへと近づいていき——
「セイッ!!」
横から伸びてきた正拳突きに叩き落とされた。涙で歪んだ視界が晴れると、そこに立っていたのは頼りになる幼馴染の空手少女だった。
「あやかぁ!」
千秋は震える声でその名を呼んだ。綾香は池田に回し蹴りを喰らわせ、千秋の上からその体を引きはがした。当たりどころが悪かったのか、池田はぐえっと汚い悲鳴をあげて地面に崩れ落ちた。
放心した様子の千秋を綾香は立ち上がらせた。
「ごめんね、もっと早く気づけなくて。私、たまたまこの公園に居ただけで、ちー君がいるとは思わなかったの」
「その……ありがとう」
「ちー君は本当にバカだよ。女の子だっていいことづくめなわけじゃないってこと、わかったでしょう」
「うん。それに約束も思い出したよ。僕はもう綾香から逃げない」
「それって……」
「こんな格好だから男の姿に戻れないけど、今言わせてほしいんだ。綾香、こんな僕だけど付き合ってもらえないかな」
綾香は満面の笑みで頷いた。二人は抱きしめ合い、忌まわしい記憶を思い出で上書きした。
数日後、千秋は再び泉に願って男に、時折美少女に変身することもない男に戻った。しかしこれで一件落着と安心していた千秋は、別の問題のことをすっかり忘れていたのである。千秋はその日生徒会室に呼び出されていた。
「まったくもったいないことをしてくれましたわね」
「ええ。会長に色々してもらったのに悪いですね」
「いいえ、わたくしもあなたに謝らなければならないわ。池田君をけしかけたのはわたくしですの」
「ええっ!」
「男子のいやらしさを知れば、男に戻るなんて気を起こさなくなると思いましたのよ……もちろんわたくしは本当に襲うのではなくておどかすだけにするよう指示しましたわ。でも池田君、あなたに接するうちに本気になってしまったようなの」
東雲は椅子から立ち上がり頭を下げた。
「やめてください、会長が男に謝るとか、後が怖いです」
「そう、ならもういいわね」
千秋の言葉を聞いた途端、東雲は頭を上げ、言葉を続けた。
「男のあなたに興味はないですわ」
「そうですよね……」
平常運転に戻った東雲を見て、千秋は安心したようながっかりしたような気分になった。
「あ、そうそう。女のあなたに渡すはずだったお洋服、あなたに差し上げますわね。わたくしが持っていてもしょうがないですから」
金持ちは気前がいいなあと思いつつ、千秋は退出した。
数日後、東雲から大量の女性ものの服やメイク道具が送られてきた。それらは生活スペースを奪って大変邪魔であったが、千秋はなんとなく処分することができなかった。千秋は美少女として過ごした輝かしい日々を思い出し、女装という一線を越えるかどうか悩み続けるのだがそれはまた別の話である。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。今後もTSものを中心に変な小説をあげると思いますのでよかったら読んでやってください。




