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2-2 女の子デート

 週末、千秋は駅前の広場にいた。セーラー服姿の彼(彼女?)は手持ちぶさたに携帯をいじっていた。あと5分で午前10時というところで千秋に声をかけたのは生徒会長の東雲だった。


「お待たせしてしまったかしら」


「それほど。まだ約束の時間より前じゃないですか」


 女子制服を着た千秋とは対照的に、東雲は水色のワンピース姿だった。生徒会長然としていない彼女の私服姿は千秋にとって新鮮なものだった。


「あら。休日も制服なんて、もしかして女の子の私服を持っていないのかしら」


 千秋の視線に気づいた東雲は目を細めて言った。


「そ、そりゃ当然でしょう……」


 男なんだし、と続けると男嫌いを刺激してしまいそうで怖いので千秋は口をつぐんでしまった。


「なら最初に行く場所は決まりですわね!」


 東雲は千秋の手を取って走り出した。


「行くってどこに!?」


「買い物に決まっているでしょう」


 千秋は予想外の力強さを発揮したお嬢様に手を引かれ繁華街へと消えていった。




 夕方になり、千秋たちは大量の荷物を抱えてカフェの席に落ち着いていた。千秋の服装は白のゆったりしたブラウスと黒のスカートに変わっていた。千秋は東雲の導くままに洋服屋で服を変え、そのまま公園を歩いたりカラオケに行ったりして今に至るのだった。


「あちこち出かけて流石に疲れました」


「あらそう。でも楽しかったでしょう、女の子として遊ぶのは」


「は、はい。カラオケでかわいい曲を歌うの、なんだか新鮮な気持ちだったな」


 友人の少ない千秋はいやいや付き合うはずだった女子同士のつきあいを思いのほか満喫しているのだった。その時カフェの店員が二人のテーブルにやってきた。


「ご注文はいかがなさいましょう……本日レディースデーですのでこちらのケーキセットが割引となっております。」


「じゃあそれをお願いね」


「僕も同じで」


 注文を取り終わった店員が下がっていくと、東雲はニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて言った。


「レディース割引をためらいなく使うとは、女の子としての自覚が出てきたようですわね」


「なっ!あれはつい、流れで……注文変えてもらってきます!」


「待ちなさいな」


 席を立とうとした千秋を東雲は引き止めた。


「でも、騙しているみたいで悪いですよ」


「どうして騙していることになるのかしら。あなたの肉体は今正真正銘の女の子よ。罪悪感を感じるならそれこそ泉に願って本当の女の子になるくらいしたらどう?」


「僕にはできませんよ。それじゃあ自分が自分でなくなってしまうみたいじゃないですか」


「なんで男なんかのままでいたいのだか。理解に苦しみますわね」


「東雲さんはどうして男を嫌うのですか……いえ、すいません。言いにくいことかもしれないですよね」


「別に珍しい話でもありませんわ。わたくしはただ、男にいい思い出がないのです。横暴な父親。親の都合で決められただけというのにわたくしを思い通りにできると勘違いした婚約者。男を嫌いになるには十分ですわ」


「……」


 お嬢様らしく、東雲はドロドロとした話を続ける気はないようだった。しかし、千秋は東雲がどういう目にあってきたのか、なんとなく想像することができた。


「あら、同情なんてなさらないでくださいな。それに勘違いされては困りますが、可愛らしい女の子を愛でるというわたくしの趣味は男嫌いが原因というわけではありません。醜いものを避け美しいものを得るのは当然のことでしょう」


 辛い身の上話しをした後だというのに、東雲は表情ひとつ崩していなかった。千秋はそこに彼女のプライドを見た。


「僕、東雲さんのこと誤解していたかもしれません」


「かまいませんわ。それにわたくしもあなたについては誤算がありましたの」


「なんです?」


「わたくしは最初あなたの外見にあんまり惹かれるものでしたから、男の心を持っているということには目をつむるつもりでしたの。でも、我慢する必要なんてありませんでした。元男の女の子というのは初々しくて思いのほかかわいらしいですわ」


「なっ!?」


 この時千秋を襲った羞恥心は、初めて女装させられた時の比ではなかった。美少女としての外見を褒められることはある意味当然であった。それに比べ、いまだに男としての自覚を保った内面を褒められることは完全に予想外の一撃だった。千秋の顔は店員の運んできたショートケーキに載っているイチゴよりも赤くなっていた。


「あはは。かわいいですわぁ。やっぱり女の子の方が向いているのではないかしら……あら、もうこんな時間ね。わたくしはこれから生徒会の集まりがありますから、お先に失礼させてもらいますわ。今日はありがとう」


「ハイ……」


 恥ずかしさで縮こまった千秋は小さな声で返事をするのだった。

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