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朝舞探偵事務所 ~自販機がない~  作者: 空と青とリボン
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依頼者訪問

「来たわ。」

今までと打って変わって真面目な声で呟いた。茜さんが「来た。」といった時はまもなく依頼者がくるということだ。俺や伯父には依頼者の足音も気配も全く読み取れないが茜さんには分かる。茜さんが来るといったら必ず来るのだ。

それから五分後。事務所の扉を叩く音がした。

「はい。」

俺が扉を開ける。するとそこにはきっちりと黒い背広を着こなした背の高い男性が二人立っていた。

「こちらが朝舞探偵事務所でよろしいんですよね。」

男が神妙な顔で尋ねてきた。相手の硬い表情、硬い声で俺はだいたい依頼の方向性が分かるようになっていた。これは妖怪か霊関係の依頼だ。俺の一年の経験値がそう言う。

「どのようなご用件で?」

伯父がこれまた神妙な顔で出迎える。しかし俺にはこの時の伯父の内心が手に取るように分かった。伯父は今こう思っている。

(これは金になりそうな依頼だな。)

現に伯父の目には円マークが浮かんでいる。霊、妖関係の調査お祓い料金は不倫調査などの料金の五倍増しだからお金が大好物の伯父ならそりゃあそうなる。

「私どもはこういう者です。」

そういって背広の男の一人が名刺を差し出した。そこには

『内閣執務室室長 戸田直哉』と書かれていた。

俺は思わず苦笑い。目の前に突然差し出された名刺の文字をまじまじと眺め

「いやいやいやいや。いくら今名刺ごっこがブームだとはいえ内閣執務室室長はやりすぎでしょ。せめてどこかのIT企業の社長とかハイパークリエイティブデザイナーとかにしておいた方がいいですよ。」

俺は親切心から忠告してあげた。確かに昨今自分が好きな肩書を名刺にいれてお遊びするのが流行っている。しかしよりによって内閣執務室室長なんて肩書使ったら本物から苦情がくるって。最悪逮捕なんてことになりかねないからそうなる前にと忠告してあげたのに戸田さんとやらは訝しげに俺を見てくる。

「あの・・・。僕になにか。」

訝しげに見られて多少気分を損ねた俺が聞くと戸田さんがゴホンっと一つ咳払いをした。

「あなたが朝舞太郎さんですね。」

戸田さんがいきなり俺の名前を言った。その瞬間伯父も茜さんも身構える。

「そうですけど・・・。なぜ僕の名前を知っているんですか。」

今度は俺が訝しげに戸田さんを見た。戸田さんは冷静な声ですらすらと答え始めた。

「ここに来る前に一通りこの事務所のことは調べさせてもらいました。あなたはここで一年前からバイトしている朝舞太郎君。所長は朝舞俊次さん、あなたの伯父さんだ。そして轟茜(とどろきあかね)さん。轟さんがこの朝舞事務所の要であることも知っています、特殊な能力、つまり霊能力をお持ちの事も。もうひとり片桐淳(かたぎりじゅん)さんという男性がいるようですが今は長期の調査に出ていてここにはいない。片桐さんは超能力を持っているようですね。実質、轟さんと片桐さんの二人で人知を超えた難解な事件を解決しているということも調査済みです。特殊な能力をお持ちではない太郎さんは主に迷子のペット探しや轟さんたちのアシスタントをしているということも知っています。」

「・・・こちらが身辺調査されるとはね。あまり気分のいいものではないですな。」

伯父が不快感をあらわにして答えた。実際俺も不快だ。調べられるということはこうも不快なものなのか。でもこれっていつも俺がやってることだけど。多少反省しつつも戸田さんを睨んだ。

「これは失礼いたしました。朝舞事務所はその道ではかなり有名なのですよ。もちろん信頼もしています。しかしことがことだけに万全を期して調べさせてもらいました。気分を悪くされたら謝ります。ただ、それだけにこれから依頼することは国家の存亡に関わると言っても過言ではないのです。」

戸田さんは申し訳なさそうに返答したがその目はたいして申し訳ないと思っていなさそうな・・・。なにか得体の知れない不気味さがある。それに国家の存亡って・・・。俺は不安になって戸田さんが言ったことを反芻した。でも今一つ解せない。いきなり国家とか言われても。

「国家の存亡ってそんな大げさな。一体どんな依頼なんですか。というかもしかして内閣執務室室長って本当に?」

戸田さんに問いているうちに自分がしでかしたことにちょっとビビりだす。まさか本物の内閣執務室室長なのか?恐る恐る戸田さんを見たが戸田さんは深く頷くだけ。

するとさっきから黙っていたもう一人の男が静かに切り出した。

「この方は本物の室長です。そして僕は部下の園山と申します。」

園山さんはそう言って名刺を差し出してきた。そこには『内閣執務室長補佐 園山隆』と書かれている。これはますます現実味を増してきた。大の男が嘘の名刺をこんな真面目な顔で差し出すはずがない。

「どういうことです?国家の存亡って、もしかして・・・。」

伯父が警戒心をむき出しにして口を開いた。しかも伯父も事の重大さに気づいたようだ。国家の存亡と言われたら実は心当たりがある。張り詰めた空気が戸田さんと園山さんから立ち上っている。重々しい雰囲気が事務所を支配した。

「自動販売機盗難事件が相次いでいるのをご存知ですか。」

戸田さんが口火を切った。

「はい、もちろん。朝からずっとワイドショーもニュースもそれ一色ですから。」

茜さんがふわりと答えた。しかしその顔には何かを確信めいたような表情が浮かんでいて。戸田さんは頷いた。

「それなら話が早い。自動販売機盗難事件を解決してもらいたいのです。」

戸田さんは大真面目な顔をして言った。俺は慌てる。

「ちょっと待って下さい。自動販売機盗難事件ってなぜそれが僕たちの事務所に依頼がくるんですか。それは警察の仕事でしょ?どこの窃盗団か知らないけど警察の管轄のはずです。」

「・・・これはあなたたちでないと解決出来ないのです。」

園山さんが苦渋の表情でそう答え俺たちを見回した。

「ということは自販機盗難事件の犯人は人間ではないということですか・・・。」

伯父の問いに戸田さんと園山さんは深く頷いた。


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