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朝舞探偵事務所 ~自販機がない~  作者: 空と青とリボン
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地球にようこそ

地球、その中の日本、日本のとある町で一人の女が心の中で呟いていた。

(まったくこの男、ウザイわ。地球で言うところのストーカーという奴?まさか地球まで追いかけてくるとは思わなかった。あぁもうこの男消えてくれないかしら)

女は自分に顔を寄せてくる男を睨んだ。だが睨まれた男は全く意に介さず鼻の下をのばしてデレデレしている。

「あぁ、アン。そんな情熱的な目で僕を見つめないでくれ。僕は君のまなざしでやけどしてしまいそうだよ。」

自分に酔っているのか熱を帯びた目で男が言った。しかし肝心の女の方はというと

(うえっ!キモッ!なにが情熱的な目だよ。軽蔑しているんだよ!いっそ本当に全身やけどしてこのままこの星に骨を埋めろ!)

「アン、この風景を見てごらん。地球はこんなにもど田舎ではないか。だがそこが素晴らしい。実際ここに立ってみて初めて地球の良さが分かったよ。それまでは全く地球の良さは分からなかったけれど。美しいこの星の語らいに僕たちも身を委ねようではないか。」

「・・・そうね・・・。出来れば私一人でこの星の語らいを聞きたかったわ。そうするつもりで‘おひとり様’で地球に来たのになぜサトラはここにいるのかしら。」

嫌味満開でアンは言うが

「君一人でこんな辺鄙な場所にあるど田舎の星に行かせるわけにはいかないよ。心配で僕の身がもたない。」

「ご心配なく。私はそんなやわではないわ。ほら、この通り地球語翻訳機もあるし。」

アンはそう言うと右耳から小さなイヤホンを取り出した。一見普通の黒いイヤホンのように見える。

「確かにそれがあるなら安心だ。それには地球上のあらゆる言語がインプットされているからね。どこの国に行っても会話には不自由しない。でも君は地球に来るのは初めてだろう?なにか困ったことが起こるといけないと思ってさ。僕は海賊王となって君を守るよ。」

(あんたも地球に来るの初めてだろうっつーの。何が海賊王よ。馬鹿の王かストーカーの王の間違いでしょ。だいたいあんたは地球のマンガ読み過ぎなのよ)

アンは心の中で悪態をつく。この自分に酔いしれている男はサトラという名前の宇宙人だ。アンというのはサトラが勝手に思いを寄せている女性、もちろん宇宙人。サトラはアンの心の内など知る由もなく全身からラブラブ光線を惜しげもなく出していた。

「ねぇ、サトラ。私はおひとり様の旅がしたいわ。ここから私たち別々に行動しない?」

アンは突如思いついたようにサトラに提案した。もちろん突如ではない、地球に来るまで、来てからもずっと切望していたことだ。それなのにサトラは

「おひとり様って君は地球の情報誌を読み過ぎだよ。あははは。君は俗物的だけどそういうところもかわいいね。」

「あなたに言われたくないわ。」

「ん?なにか言ったかい?」

すっとぼけるサトラ。ため息をつくアン。アンは必死で考えた。

(なんとかサトラから逃れる方法はないかしら。でも私がどこへ行こうとこのストーカー男はついてきそうよね。なにかうまい方法は・・・。)

アンは一人考えこむ。深刻な顔で思案しているアンを見てサトラはいきなり感激の声を上げた。

「アン!!」

「な・・・なに!?」

アンは突然名前を呼ばれて驚いた。サトラは瞳をキラキラさせている。

「やっと僕との結婚を決心してくれたんだね!!」

「・・・はい?」

あまりに突飛なサトラの発想にアンの意識は一瞬で天王星の彼方へ飛んだ。

「君がそんなに考え込むのは結婚しかない。僕のプロポーズを受け入れてくれるなんて嬉しいよ!!ここまでくるのにどれくらいの日々を費やしただろう・・・長かった!」

サトラは心底感激しているようだ。思い込みという、本人だけが幸せな世界で有頂天だ。アンとの結婚生活を妄想している。よく見ると涙ぐんでいるようだ。

「キモッ・・・。」

アンは思わず呟いた。全く呆れを隠そうとせずに、むしろこの呆れをサトラに感じ取って欲しいと切に願った。まぁ、無駄だけど。頭もくらくらしてくる。

(なんで私、遠い地球まで来てこんな男とこんなあほなやりとりしているの?)

するとサトラは、呆れているアンをいきなり抱き寄せた。

「なにするの!?」

アンは慌てた。だがサトラは構わずアンの顔に自分の顔を近づけていく、しかも唇を尖らせて。これは明らかにキスをしようとしている。

(げっ!!)

アンは気持ち悪くなり顔をそむけた。

(なんとかサトラから上手いこと逃げないと!!)

そむけた視線の先に自動販売機があった。

「!!」

アンはとっさに思いついた。それはあまりに奇想天外で突拍子もないことだ。

そして叫んだ。

「私!自動販売機になるわ!!」

「へっ?」

「自動販売機になって地球人の役に立ちたい!だからもう私を探さないで!!私のことは忘れて!!」

「なっ・・・何を言ってるんだ?」

「さようなら!」

アンはそう言い残して走り去ってしまった。

「ちょっと待ってくれアン!」

「アーーーン!!」



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