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俺の影にはGがいる  作者: 赤の虜
第一章 小鬼スタンピード
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09 クラスの方針と暴露

 夜。

 王城の広間に集まったクラスメイト達。二台の長机に一定間隔で置かれた椅子に男女が別れて座る。

 呼び出した張本人である天童君はそんな中、一人だけ前に進み出て、立った状態でクラスメイトの準備が整うのを待つ。

 さながら教師と生徒のような構図が出来上がる。


 話が長くなることを想定してか、全員が先に入浴をすませ、まだ髪が乾いていない女子達に思春期の男子達の視線が高速で泳ぐ。もちろん、俺も例外ではない。その視線はチラチラ、チラチラ、チラチラと学校一美少女である白崎を捉えている。

 

 窓に雨風が打ちつける中で、天童君が早速本題を切り出す。


「今日みんなに集まってもらったのは他でもない。僕達の今後の方針について、決めておこうと思っている」

「方針って言っても、神使の俺達が魔物の王を倒すしかないんじゃねえか?」


 榊原が疑問を口にする。


「まあ、そうなんだけどね。……実は昨日の夜にカール王にこれまでの神使について色々と聞いたんだ」


 そんなことしていたのか、天童君。俺が固有スキルについて考えることで手一杯だったのに。やはり出来る男は違う。


「神使がどうやって魔物の王を倒したのか。そして、魔物の王を倒した神使は元の世界に戻れたのか、とか」


 クラス全体が息を吞む。

 

 言われてみれば、当然の疑問だ。

 しかし、急な召喚と固有スキルというゲームみたいな特典で頭がいっぱいで、正直忘れていた。異世界召喚自体は嬉しいけれど、別に両親と不仲だったわけでもないので、一生会えなくなるのは寂しい。

 異世界生活は名残り惜しいけれど、戻れるなら戻りたい。

 

 異世界に好意的な俺ですら、そう思う。ましてや興味もないクラスメイトなら考えるまでもないことだろう。


 続きを話す天童君の表情は、暗かった。


「残念だけど、カール王によると神使が元の世界に戻る方法はないらしい。これまで故郷に戻ろうとした神使もいたようだけど、帰還方法はいまだに見つかっていないらしい」


 クラスを絶望が支配する。

 一部では怒鳴り散らす者、泣き出す者、呆然とする者など様々いる。

 ちなみに、住田は「もう嫌だ、俺は帰るんだ」とぶつぶつ言っているけれど、これはたぶん望郷の思いというよりゲイルさんの扱きのせいだろう。


「みんな気持ちはわかるよ。僕にも年の離れた妹がいて、まだまだ手の焼けるヤンチャなんだ。ろくに宿題もしないし、遊んでばかりで俺が注意しないと何も手をつけない妹で…………僕も、帰れるものなら帰りたいよ」


 涙ぐながら話す天童君。

 なんと完璧超人には妹がいるのか。

 日頃見たことのない、気落ちする天童君に俺は驚く。

 何というか、彼だけはどんな状況でも冷静だと決めつけていたけれど、当たり前だが天童君も人の子だったということだろう。いきなり異世界召喚という形で拉致されて、正解など分からない中で、彼なりに奮闘していたのだ。


 そこから、クラスが落ち着くまで時間を要したが、天童君やクラスメイト達も大人しく待っていた。


「辛いけれど、僕らは魔物がいるこの世界で生き抜いていくしかない。ここは日本じゃないし、僕らはもう大人に守られる学生じゃいられない。大袈裟だと思うけれど、魔物の王から世界を救う英雄にならないといけない」


 天童君の言葉が重く、クラスに圧し掛かる。

 目を背けたい現実を突きつけられたのだ。


「僕だって叶うなら平和に暮らしたい。いくら固有スキルがあるからって魔物と戦いたくはない。……でも、そうすると召喚国であるウェストリアはどう思う? 他人事じゃない、みんな一人一人に考えて選択してほしい」


 ウェストリアの王城内で、随分とぶっちゃけた話をする。

 クラスも薄々は気づいていたのだろう。みんなが真剣に耳を傾けている。


「少なくとも僕らは神使として魔物の王を倒さないといけない。僕の固有スキルは恵まれているようだから、僕は先頭で戦おう。みんなには一緒に戦ってくれるか王城で待っているかを決めてほしい。もちろん、僕や一緒に戦ってくれる人達で待機組の安全はカール王に保障してもらうつもりだ」


 天童君の提案に、クラスメイト達は隣近所の仲良しグループで話し合う。


 この選択、天童君も情報が少ない中で、必死に選択肢を提示してくれたのであろうが、あまりにも待機組になるリスクが大きいと俺は思う。

 なぜなら、片や命を懸ける魔物退治組、片や魔物退治組に一方的に重責を背負わして平和に暮らす待機組である。一度でも魔物退治組から不満が爆発すれば、正論であるだけに火消しは難航することが容易に想像できる。


 俺は両隣に座るナンちゃんとアマちゃんと小声で話し合う。


「俺は魔物退治に参加する予定だけど、二人はどうする?」


 聞くと、二人は驚いた様子で、


「いや、俺とアマちゃんは別に固有スキルの戦闘向きだし、自衛できる方が異世界生活も楽しめるだろうから大丈夫だけど……」

「むしろ、エイちゃんが大丈夫か? 昼の戦闘訓練だって……ほら、住田のやつに酷い目に遭わされてたじゃん。てっきり俺は戦闘向きの固有スキルじゃないから待機組になるのかなと思ってた」

「そうそう。別に戦闘に関しては俺とアマちゃんがいるわけだしさ、エイちゃんが無理することないんだぜ」


 と、言ってくれた。

 俺の心配してくれる二人に、罪悪感が募る。

 

 やっぱり、早いこと固有スキルのこと伝えた方がいいな。

 まあ、流石にここでは言えないけれど。


「大丈夫、俺の固有スキルについてはさ、後で話したいことがあるから、ナンちゃんの部屋に集合でいい?」

「なんで俺の部屋?」


 不思議そうな顔をするナンちゃんだが、アマちゃんは何かを察したようだった。


「だって、好みじゃないからって専属メイド断ってたから、部屋にいるのナンちゃんじゃん。内緒話には最適だし」

「ああ、そういうこと。まあ、あの部屋には秘蔵の書もないし、断る理由はないな」


 ナンちゃんの秘蔵の書、それ即ち思春期の少年が親に内緒で隠し持つ薄い本である。


「まあ、俺の話は後でするとして、基本は天童君の言うように、魔物退治には参加した方がいいよね?」

「うーん、まあ別に魔物退治にしても、天童君と一緒に戦わなくても俺達三人でも行動できるだろうし、それでいいじゃない」


 俺の問いかけに、アマちゃんが答え、ナンちゃんは「俺のチャージが火を噴くぜ」と賛成という感じだった。


 かくして。俺達は魔物退治をするグループに入ることになった。

 意外だったのは、一部の文系の女子や気の弱い男子を除き、ほとんどのクラスメイトが魔物退治に参加することになったことだ。

 なんと白崎さんも魔物退治組らしい。

 なんでも、


「私の固有スキルは回復系だから、傷ついたみんなを癒せるようにしたい」


 と決意表明をしていた。

 聖人君子のような模範的な回答だが、その視線が偏に天童君に向かっていることは追求することは野暮というもの。彼女だって恋する乙女なのだから仕方ない。

 そして、セットで白崎さんの親友である近藤さんが仕方ないなあと参加。

 あっという間に、天童君率いるカースト上位勢が魔物退治の筆頭みたいな雰囲気が醸成され、クラスの方針が決定した。


 まあ、ウェストリア王城内での方針決定だったので、反対多数でウェストリアと仲違いするような最悪のシナリオを回避できた点は大きい。


 ***


 場所は変わって、ナンちゃんの部屋。

 専属メイドを首にした弊害か、ベッドにはパジャマの上下が落ちており、備えつけの椅子と机のうち、椅子がなぜか部屋の中央にある。


「部屋って個性が出ると思わない? アマちゃん」

「だねー、ナンちゃんの部屋って感じがする」

「そうか?」


 部屋に入り、俺とアマちゃんはベッドに腰掛け、ナンちゃんは椅子に座る。


「さて、もう夜だし手短に話すね」


 俺は世間話はせず、すぐに本題に移る。


「確か固有スキルについて話すんだよな」

「あの生むは易しって固有スキル、何か秘密でもあるの?」

「まあ、その……ね。普通に有利な固有スキルではあるんだよ。あるんだけど……」


 言い淀む俺。何せ口頭で説明するとなると、影の中で息を潜めているミズキに聞かれてしまうのだ。純粋なミズキはあの美少女ボイスからして女の子……だと思う、たぶんだけど。

 そんな彼女に容姿が問題で駆除されそうと伝えるのも忍びない。

 とはいえ、そんな事情を親友達に察しろと言うのも無理難題だ。


 だから、俺は口で説明することを諦めることにする。


「まあ、口で説明するよりは見てもらう方が早いと思う。……二人とも心を強く持ってくれよ」

「えっ、何が出るの? ヤバイ奴?」

「心の準備が必要なものが出てくるわけね」


 ナンちゃんはともかくアマちゃん、そういう言い方はミズキにニュアンスが伝わるかもしれないから止めてくれ。言えないけど。

 これ以上、何を口にしても悪い方向に行く気がしたので、ミズキに出て来てもらうとしよう。


(ミズキ、一匹で影から出て二人に自己紹介してくれ)

『はーい。あれ? ミズキだけでいいの?』

(うん、どっちがミズキは分からなくなっちゃうからね)


 本当は二人のキャパシティーを慮った結界だが、黙っておく。


『わかった! すぐに出るね!』


 ミズキの念話を受け、俺は足元の影を指差す。


「影に注目」


 俺の影からポーンと飛び出る魔蜚蠊。

 黒光りする体躯、長い触覚、そして元気一杯に空中で前後運動をする三対の肢。

 影から飛び出るGという光景が親友達に襲い掛かった。


「「うわあああああ!」」


 そして、驚き、その場で跳ね飛ぶ親友二人。


 わかる、わかるよ、その気持ち。

 でも……。


「な、な、なんで……」

「俺の配下のミズキちゃんです」

「いや、でも……」

「ミズキちゃんです!」


 断固として何も言わせない。

 これまでの俺の努力を無駄にはさせない。他人に嫌われることで傷ついたミズキが反抗期にでもなってみろ、もう俺の精神は耐えられない。反抗期のGなんて手に負えない。


「でも……エイちゃん」「それって……」


 依然として、現実を受け入れられない二人に俺は畳みかける。


(ミズキ! 自己紹介してあげて!)

『えっと、ご主人様の配下のミズキです。南郷さん、甘粕さん、よろしくおねがいします!』


 ミズキが教えておいた挨拶をする。相変わらずの美少女ボイスである。

 そして、美少女ボイスが効果的なのは何も俺だけではない。


「なんだ今! 頭の中に美少女の声が聞こえたような……」

「ナンちゃんも! 俺も聞こえた!」


 俺やナンちゃんとアマちゃんのような人種には無類の効力を発揮する。


「二人とも、まずは目を瞑るんだ」

「いや、でも美少女が……」

「いいから!」

 

 語気を強くすると、二人は渋々目を瞑る。


「ミズキ、丁寧な挨拶だったよ。でも、影から飛び出して二人を驚かしたら駄目だよ」

『ごめんなさい、ご主人様。楽しみにしてて、はしゃぎちゃったの』

「反省してるなら、二人に謝ろうか」

『うん、南郷さんと甘粕さん、いきなり飛び出たりして、ごめんなさい』


 沈黙。

 おそらく、今。二人の脳裏ではミズキの美少女ボイスと先ほど飛び出たGとの照合作業が行われているのだろう。

 そして、何度照合しても信じ難い結果となることでフリーズしているのだろう。


 それでも、アマちゃんがなんとも言葉を絞り出す。


「エイちゃん、冗談とかじゃないよね?」

「うん。俺の固有スキル:生むは易しは生物を……いや、もうこう言った方が正確か。毎日Gを生成するスキルなんだ」


 二人が再びフリーズする。

 少しして、復活するとこれまでの俺が固有スキルを秘匿していた理由を察してくれたようだった。


「なるほど、そりゃあエイちゃんもそうするしかないか」

「納得した」


 事情を察してくれた二人に、俺は肩の荷が下りた。


『二人とも、まだ怒っているの?』


 しかし、理解が遅れたせいでミズキが置き去りになっていたことに今更ながら気づく。

 困惑する二人に、俺はアイコンタクトで「頼む」と伝える。

 おそらく、正確に意味は伝わっていないが、雰囲気で察したくれたのだろう。二人はすぐにミズキに返事をした。


「いや、怒ってないよ。ごめんね、ミズキちゃん」

「俺も怒ってないから。これからよろしくね」

『うん! ありがとう、ナンちゃん! アマちゃん!』


 ミズキのお礼に、何かを嚙み締めるように何度も頷く二人。


「目を瞑れば、いける」

「むしろ、最高では?」


 流石は俺の親友、適応が早い。まあ、俺もミズキの声は好きだけどね。


 俺はそこから固有スキル:生むは易しについて二人に情報を開示、初日に旅立ったキングさんについても話した。

 その後は互いに固有スキルについての発見やスキルの使い方の工夫など、ミズキも含めて一緒に盛り上がった。

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