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俺の影にはGがいる  作者: 赤の虜
第一章 小鬼スタンピード
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07 大根役者魂

思ったより、長くなりました。すみません。

 訓練場にて、俺と住田が向かい合う。

 他のクラスメイトや招聘されたSランク冒険者達もいるけれど、住田の横暴が糾弾されることはない。

 少なくとも、今は。

 

 仮に、ここで俺がボコボコにされようものなら、俺は迷わず天童君にチクって、住田の横暴でクラスメイト達に暴露し、彼を社会的に追い込むことを考えている。


 しかし、だ。

 その行動には、俺が住田にボコボコされてしまうという耐えがたい屈辱が前提となっており、それが嫌で仕方ない。

 住田にやられるなんて嫌だ。


 だから、俺はこの戦いにおいてのみ役者となるのだ。役者なら、負けたとしてもあれは役だから仕方ない。俺はまだ本気を出してないムーブを実行できるのではないかと思う。いや、きっとしてみせる。

 それに下手にミズキの助力を得て、住田に勝った場合、魔女裁判ならぬG裁判が俺に降りかかる。その最悪の未来を避けるためには仕方なく、本当に仕方なく、俺は住田に如何に華麗にやられるかに全身全霊で挑まねばなるまい。

 断じて実力で負けるとか、そういったナンセンスなものではないと主張したい。したいけれど、言えば駆除される。本当に嫌だけど、苦渋の選択ではあるけれど、住田に負けるとか一生ものの恥だけれども、負けるしか……ないのだ。


「ふむ、覚悟しろよ、桂ぁ。てめえにはここに召喚される前に天童君達の前で恥をかかされた恨みがあるからな、ただじゃすまさねえぜ」


 器の小さいやつだ。


 住田は両手から手品のごとく、ソフトボールくらいの炎の球を生み出す。


「俺の固有スキル:炎球は加減が効かねえからな、死ぬかもしれねえな」

 

 加減もできないことも自慢気に言うなよ。それってあれだぞ。俺は固有スキルを使いこなせてませんって言っているようなものだぞ。


「俺はこの固有スキルでカースト上位に昇りつめてやる」


 異世界召喚されてまでクラスのカーストに固執しなくてもいいだろうに。もうちょっと視野を広めた方がいい。


「お前は俺の踏み台になるのさ」


 いや、クラスメイトではあるけれど、別に住田とカースト争いし、する気もないから、巻き込むなよ。

 

 まったく、なんて話の長いやつなのだろう。さっさと戦闘始めればいいのに、良い気になって不意打ちでやられるタイプだな、きっと。


「訓練しないなら帰っていい?」


 わりと腹が立ってきたので、面倒そうに本音を伝えると住田が顔を赤くする。


「ふざけやがって! もう容赦しねえぞ、この野郎」


 住田が炎球を勢いよく投げつけてくる。


 容赦なんてそもそも加減ができない住田には無理だろうに、変なことを言うやつだ。


 炎球が俺をすり抜けて、後方の地面に着弾し、土煙を上げる。

 

 いくら頭に血が昇っているとはいえ、よくもあんなものを投げつけれるなあ、びっくりして身体ピクッってなっちゃった。ふう、怖かった。


「ちっ、避けやがったか。まあ、いい。いつまでもまぐれは続かねえ!」


 一人で勝手にヒートアップしている住田だが、そもそも俺は避けてない。

 むしろ、ビビッていた。

 足をピンと張った棒立ちである。


 いや、いきなり投げつけてくるからさ。一応、やられ役となると決めたからには回避するつもりだったよ? でも、不意打ちだったから咄嗟に反応できてなかったから。


 住田の勘違いは放っておいて、俺は腰を落としてすぐにでも動けるように準備する。完全にワンテンポ遅れているけれど、相手が馬鹿だから気にしない。


「そらそらそらあ」

 

 住田が両手から生み出される炎球を次々と俺へと投げてくる。


 しかし、むやみやたらと炎球を投げてくれるおかげで、一発一発は遅いに狙いも粗く、わりと楽に避けられる。むしろ、一発を野球のピッチャーみたく狙い澄まして、本気を出して投擲される方が危ないのだが。


 そんなことを考えていると、いつまでも炎球が当たらないことに業を煮やした住田が苛立ちから最適解を導き出し、バスケットボールくらいある大き目の炎球を振りかぶって投げてきた。


「これは避けられんなー、ミズキお願い」

『はーい、ダークホール』


 それなりの速度で接近する炎球。


 ボンっと、爆発が起きる一瞬。俺は確かに見た。

 俺の影から、小さな火の玉が炎球に接触し、爆発。炎球を相殺し、爆風が俺のいる付近に吹きつける中、俺の眼前だけ黒い円が爆風を吸収するところを。


 周囲には明らかに危ない爆風。しかし、俺の身体には傷一つない。

 これは不味い。もし、爆風が晴れたときに、俺が無傷でいてみろ。そこから固有スキルの話題になり、生むは易しの話に、そして、止めにGの話で駆除される。


 つまり、俺は苦境に陥っている。

 ここからは大根役者、桂 栄作の出番というわけだ。

 目標は如何に住田の炎球によって、俺がダメージを受けているかを演出することだ。


 すぐさま行動に移る。

 まずは、後ろに弾かれるように地面に身体を叩きつけ、転げ回る。自宅でやったなら、だらけているようにしか見えないだろうが、今は爆風のおかげで土煙が上がっているからセーフ。

 続いて、地面の土を集め、手にする。

 そして、その土を持った手で思いっきり自分の頬を叩く。こんな爆風だ。顔にそれっぽい擦り傷がほしい。これで傷がつかないにしても、顔に砂利がついていれば演出としては及第点と言えよう。

 

 そうこうしているうちに、土煙が晴れていく。

 まだ、万全とは言えないけれど、致し方無い。あとは成り行きに身を任せるしかない。


 ***


 土煙が晴れ、俺は映画で見たことがある死体のイメージで、横向きで訓練場に横たえる。そして、状況を確認できるように、片目だけうっすらと目を開けておく。

 そんな俺を見て、住田は勝利を確信したらしい。


「はははっ、調子に乗るからそんなことになるんだよ、クソメガネ」


 一身上の都合により、クラスメイトの前で固有スキルが使えない俺に勝ったことがよほど嬉しかったのか、住田は愉快そうに笑う。


 おいおい、住田。そんなに笑っていていいのか? そりゃあ、俺がすぐにでも立ち上がったなら、少しやりすぎてしまったとか言い訳ができるのだろうが、俺は起き上がらずに倒れたままなんだぞ。

 もちろん、演技ではあるけれど、ふふふっ、傍目にはどう見えるかな?


 ここは訓練場だし、周囲には大勢のクラスメイトがいる。何より住田が憧れている天童君にしても、俺やナンちゃん、アマちゃんに苦手意識があるとはいえクラスメイト程度には思ってくれるいるのだ。

 慣れない異世界。

 これから、少しでも繋がりがあるクラスで団結していきたいと考えているであろう天童君がこの光景を見ると、どうなるか。見ものである。

 これで、あっさりスルーとかされても大丈夫。俺にはまだナンちゃんとアマちゃんがいるからな。助っ人の二段構えなのだ。


「おい、エイちゃんっ、大丈夫か!」

「しゅっ、出血はないから、後は骨折とか内臓に異常がないかすぐに調べてもらわないと!」


 案の定、ナンちゃんとアマちゃんが心配して、俺の様子を見に来てくれた。さっきまで固有スキルで寸劇をしていた二人とは思えないほどに真剣な様子だ。

 本気で心配してくれるのが嬉しく、同時に騙してしまっていることが気まずい。

 

「ははっ、良かったな、クソメガネ。お仲間のデブとガリが助けに来てくれたぞ」


 住田は状況を理解していないのか、ノリノリである。悪役ムーブが板についてきたようだが、タイミングが悪い。


 だが、それが不味かった。

 ナンちゃんとアマちゃんは普段は温厚、というよりは楽しいことが一番な生き方をしているので無害だが、今回のように仲間が傷つけられたりするときは本気でキレる。


「おい、住田。それ以上喋ったら、この一撃ぶち込むぞ」


 低い声で、固有スキル:チャージが充填された拳を掲げるナンちゃん。

 しかし、勝利の余韻に浸っている住田は余裕そうな態度を崩さない。


「ああ、そんなもん俺の炎球でいくらでも……ぐっ」

「今はお前に構っている状況がないって何で分かんないかな。鬱陶しい、それ以上動いたら潰すから」


 続いて、住田の背後からアマちゃんの生み出したクレイゴーレムが住田を鷲掴みにする。

 哀れ、住田。

 いきなりクレイゴーレムに鷲掴みされた恐怖からか、身体が小鹿のようにプルプルと震えている。


「聖剣召喚、聖剣技『雷光一閃』」


 そこで真打ち登場。

 天童君が今にも住田を押し潰さんとするクレイゴーレムの腕を切断し、駆けつける。


「で、これは一体何の騒ぎなのかな?」


 いつもより、鋭い視線を住田とナンちゃんとアマちゃん達に向け、説明を求める天童君。流石は完璧超人と言えよう。まずは、説明を求めて、状況を把握しようとする冷静な判断である。

 そして、その説明は仲間をやられて(やられてない)怒り心頭のナンちゃんとアマちゃんが請け負った。


「エイちゃんがそこのクソ野郎に固有スキルを使われて、一方的に攻撃されて気を失ってる。幸い息はしてるようだが、すぐに医者とかに見せないといけない」

「なのに、それの馬鹿が吞気に突っかかってくるから黙らせただけ。文句ある?」


 怒りながらも俺の心配するナンちゃんとアマちゃんに、天童君が住田に非難するように目を向ける。

 そう、こういった状況において、如何に住田が言い訳しようと被害者(実は無傷)がいる方の証言が有利に働く。

 つまり、天童君も味方としてカウントできるのだ。


 何か言われたわけではないが、そこは常日頃からカースト上位に媚びるという習性を持つ男、住田である。

 言われる前に弁明を始めた。


「違うんだ、天童君。ちょっと桂と遊んでてさ、ちょっと手が滑ったていうかさ、悪気があったわけじゃないって」


 必死に弁明する住田に、ナンちゃんが舌打ち。


「な? 黙らせた方が早そうだろう?」


 と天童君に言った。

 それに天童君が苦笑いしつつ、


「住田君、今は君の行動の良い悪い以前に桂の人命が優先だからさ、黙ってて」


 優しい口調だが、辛辣な一言が放たれた。

 

 まあ、無傷ですけどね、俺。こうなってくると、バレると今度は俺が住田の立場になりそうだから、大根役者魂を見せなくては!


(がんばって演技するぞー!)

『よく分かんないけど、おー!』


 ミズキの美少女ボイスで勇気が出た。声はかわいいからな、うちのミズキは。


 ***


 訓練は中断され、仰向けにされた大根役者の側には俺を心配するナンちゃんとアマちゃん、そして、俺の治療のために俺の状態を見てくれているウェストリアのSランク冒険者パーティー、銀翼の調のサリアさんがいる。

 そして、そこから少し距離を空けて、ひそひそと声がするので、野次馬根性が染みついたクラスメイトがいるのかもしれない。


「一通り、見てみましたが、出血及び内臓や骨には異常はなさそうです。ただ、万が一ということも神使様には私ができる最も効果のある回復魔法をかけます。グレーターヒール」


 回復魔法がかけられ、身体にエネルギーが満ちるような感覚がして、心地よい。


 よし、ここら辺で目覚めるとしよう。せっかく回復魔法をかけてもらったのだ。ボロを出す前に大根役者から卒業しなくては!


「う……ここは」

「「エイちゃん!」」

「えっ! どうしたんだ二人とも!」


 抱きついてくる友人達に、今、目が覚めましたと言わんばかりに反応しておく。


 こうして。

 俺は無事、住田との戦闘を無傷で乗り切ることに成功した。

 

 ちなみに、俺を大根役者にした住田はどうしているかというと、


「おら、炎球出せるからって調子に乗るな。アホ面晒してると俺の大剣に当たっちまうぞ」

「嫌だ、そんな大剣に当たったら絶対死ぬ! 誰かっ、誰か助けてくれ!」

「死にたくないなら、避ければいいだろう!」

「だから、無理!」


 俺に酷い目を遭わせた罰として、ノーザニアから招聘したSランク冒険者である大剣使いのゲイルさんに思いっきり扱かれていた。

 いい気味である。

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