05 影にいて
『ご主人様~、朝だよ~、おーきーてー』
美少女のモーニングコールが聞こえる。
きっと、幻聴だろう。俺にはそんなことをしてくれる彼女も幼なじみもいない。
『ご主人様~、おーきーてー』
やはり、声がする。美少女が俺を呼ぶ声がする。
期待を胸に目覚めると、胸元に二匹の黒光りする魔蜚蠊。
俺は目を限界まで開いて、硬直。そして、徐々に頭が冴えていくと、昨晩の出来事を思い出した。
ああ、そうだった。Gだった。俺の配下はGだったんだ。
諦観のアルカイックスマイルをして、どちらか区別のつかないミズキに向けて、話しかける。
「おはよう、ミズキ。ところで、なんで二匹いるのかな? ミズキって分身もできるの?」
とにかく疑問は口に出す。でないと頭の処理が追いつかない。
『もうっ、ミズキはミズキなんだから! 隣にいるのはご主人様からさっき生まれたんだよ』
「まじかよ……生んじゃったの、俺」
衝撃の事実。事実は小説より奇なりってこういうことだったのか。
まさか、異世界に来てGを生む日がこようとは……。まあ、昨日のルーレットを思うと予想できることではあった。
けれど、思ったよりも早い。スパンが早い。もう少し何日か間隔空けてくれていいんだよ。
「ということは、ミズキの仲間が毎日増えていくわけか。良かったな、ミズキ」
『うん!』
元気でよろしい。
「でも、いくら増えるにしても、ミズキの仲間を戦わせるのは悪い気がするな」
本当は視界にすら入れたくないけれど、一応配下だからね。部下を奴隷のように酷使するのはどうかと思うんだ。ああ、キングさんは別枠ね。あの魔甲虫は戦闘志願者だったから。
『うーん、大丈夫だよ。ミズキ達はご主人様の方が大事だから気にしないで!』
『それにね、ミズキ達はご主人様に生んでもらわなくても卵産んで増やせるから!』
「まじかよ……いや、ははは、そうなのか。うん、なら安心だな」
詳細を聞くと、卵は産めるが成体になるまでは一週間ほどかかってしまうらしい。
十分早いよ。よく知らないけど、故郷のGもそんな早く成体にはならないと思うよ。
+++
桂 栄作
固有スキル:生むは易し▶
配下:魔甲虫、魔蜚蠊、魔蜚蠊
+++
スキルウィンドウを確認すると、しっかりと一匹魔蜚蠊が増えていた。ミズキによると、名付けしないと会話というか念話? はできないし、自我もないらしい。
今後もずっと魔蜚蠊が毎日増えていくとなると問題がある。
まず、魔蜚蠊の見た目だ。俺については配下だが心を強く持てば、耐えられなくはない。
だが、それをクラスメイトに、特にGが大の苦手な女子陣などに見られてたら神使なんて関係なく、俺が駆除対象に躍り出てしまう。神使同士の諍いだとあの親切な王様達に仲裁を求めるのは酷だし。
そんな未来は嫌なので、対策が必要だ。
その旨をミズキに伝えると、幸い解決策はすぐに見つかった。
『なら、ミズキ達はご主人様の影の中でいるー。そうすれば、いつでもご主人様と一緒にいれるしー、影からだって魔法は使えるもん』
「影に入れるんだ。というか、魔法使えるの?」
『使えるよ。えーとねー、ミズキは光と闇で、もう一匹の子は火だよー』
なんと異世界産のGは魔法使いらしい。仮に今後は生まれる魔蜚蠊がすべて魔法を使えるとすれば、普通に優秀な戦力なのではなかろうか。
驚きの事実に戸惑いつつも、俺はミズキ達二匹をベッドに並べる。
「君達にお願いがある。今後は人目につく場所では俺の影で、文字通り影ながら俺を守ってほしい」
『えー、ご主人様離れるの嫌だー』
「ごめんね。でも、人目がないところでなら影から出て来ていいから」
『うーーん、わかった。ミズキ、我慢する』
こうして、俺の影に魔蜚蠊が二匹潜むことになった。影にはこれといった変化がないので、バレる心配はなさそうだ。
朝からなんだか疲れたなあ。今日はこれから訓練場で、王城に招待した高ランク冒険者や騎士団長、宮廷魔術師団長から戦闘訓練を受けることになっているのに。
一応、戦闘訓練とは言っても、実際は固有スキルの使い方とか使用感とかを試す場だと王様は笑っていたけれど。
一通り、魔蜚蠊への対応が固まり、一息ついた頃。
コンコン、と部屋の扉をノックする音がして、
「エーサク様、ユーリです。そろそろ朝食の時間ですので、起きてください」
とユーリさんのモーニングコールが来た。
はあ、これで目覚めることができたなら、きっとは今日の目覚めは良かったろうに。




