03 生むは易し 前編
ウェストリア城内。流石は王城と言うべきか、王様はクラス全員に部屋を用意してくれた。また、そのとき固有スキルで部屋をランク分けする露骨な差別などはしないようだったので安心した。
ただし、クラス全員の扱いが平等というわけでもなく、その差は各人の専属メイドの数という形で天童君とそれ以外で数に違いがあった。
天童君には何十人と専属メイドが付き、他には一人に一人、といった具合だ。
まあ、それくらいしか差をつけていないだけ、あの王様の人柄が知れるので良かったかもしれない。
王様や貴族に気を遣うパーティーという名の夕食、男子共が変な情熱を発揮し、女子の入浴を除こうとして、天童君に窘められた入浴の時間が過ぎた。
夜。残すは寝るだけとなり、俺は案内された部屋のベッドに腰を降ろす。
「エーサク様、もうお眠りになられますか? でしたら私も退室させていただきますが」
入口前で尋ねる俺の専属メイドのユーリさん。
サイドテールにした美しい白銀の髪に、長くしなやかな脚、切れ長で鋭い銀の眼光は見る度に緊張してしまう。
贔屓目なのかもしれないが、俺の専属メイドさんだけ群を抜いて美人な気がする。しかし、年頃の高校生に教育の行き届いた専属メイドを付ければ、みんな言うことなのかもしれないけれど。
「今日は色々とありましたから、すぐにでも就寝しようと考えてます。……それにしても、ユーリさんは他のメイドさんよりも綺麗だなー」
「まあ、神使様はお世辞が上手ですわね。お褒めいただきありがとうございます」
ユーリさんは「ところで」と、言って俺の目をじっと見つめる。
やっぱり綺麗だな。
「エーサク様の固有スキルはどういったものだったのですか? 宜しければ教えていただけませんか?」
「え……ああ、固有スキルね。それが俺にもまだよくわかってなくて。詳細がわかってないんです。すみません」
「いえ、お気になさらず、また機会がありましたら教えてくださいね?」
「もちろん」
妖艶に微笑み、一礼し、ユーリさんは退室してしまった。
「……なんで思ったことが口をついて出てるんだ。それになんかユーリさん相手だと俺の口が軽いような……。まあ、美人に弱いのは男の性ってことなのかな」
それにしても、恥ずかしい。ただでさえ、美人との会話では「え、あ、お」とか言葉を発することも困難な人間であったというのに。
それがなに? 綺麗だなー、だあ? なんだってそんな鈍感系主人公みたいなうっかりミスをしちゃってるんだ。あれで好意を寄せてくれるのは好感度パラメータ付きの女子だけだ。
本当にやってしまったな。
しかし、いつまでも落ち込んではいられない。
今後はこの魔物が跋扈している異世界で生活していかなければならない。
ならば、自分の武器である固有スキルへの理解を深めておく必要がある。
今までは腰を落ち着けるタイミングがなかったからな。
スキルウィンドウを表示する。
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桂 栄作
固有スキル:生むは易し▶
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まず、気になったのはそのスキル名だ。
生むは易し。
その名をそのまま解釈するならば、似たような言葉である、案ずるより産むがやすし、といったものとは別の意味合いがあるのだろう。
そして、もう一つ。気になっていたことがある。
固有スキルの隣にある三角である。
天童君のスキルウィンドウになかったものだ。気になって、入浴時にナンちゃんとアマちゃんに確認してみたけれど、二人のスキルウィンドウにもなかったらしい。
なので、タップしてみることにした。
幸い正解だったのか、スキルウィンドウに変化が起きた。
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桂 栄作
固有スキル:生むは易し←初日ボーナスガチャ×1、生成ルーレット、起源還元
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「なんだ、これ?」
まさかのガチャ。見たところ一回限定なようだが、何かしらのガチャが引けるらしい。
そして、生成ルーレット。固有スキルから判断するに何を生み出すのかをルーレットで決めるということなのかな。これって何回もできるのか。一回限りなら同じものしかつくれないとかもありそうだ。
そして、最後の起源還元。これに関しては、さっぱりわからない。何が起源で、何を還元するというのだろうか。
考えられることを列挙してみたが、結局のところ、押してみることでしか事態は進展しそうになかった。
そうと決まれば、早い。
とりあえず、順番に初日ボーナスガチャなる部分に触れてみる。
「うおっ!」
すると、次の瞬間。
部屋が白い光で満たされて、床には一匹のカブトムシがいた。
【初日ボーナスガチャにより、魔甲虫が配下に加わりました。以降初日ボーナスガチャを引くことはできません】
謎のアナウンスが頭に響き渡る。
「ええっと、よく分からないけど、仲間が増えたという認識でいいのかな」
体長は手の平サイズと通常のカブトムシよりも大きいが、サイズ以外は大きな変化はないらしい。
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桂 栄作
固有スキル:生むは易し←魔甲虫(名無し)、生成ルーレット、起源還元
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スキルウィンドウに変化があった。
どうもこのカブトムシは魔甲虫という魔物らしい。
名無しとあるから、名前をつければいいのか。
うーむ、カブトムシと言えば、甲虫の王ってイメージが強いんだよなあ。
よし、決めた。
「お前の名前はキングだ。よろしくな」
そうして、キングに触れる。
『御意。拙者は戦いに生きる。ゆえに、主が戦場を用意してくれる限り、付き従おう』
初めての配下は癖のある戦闘狂なようだ。
とはいえ、だ。
俺のこれからを考えると、正直すぐに魔物退治に出るより先にこの世界についてもう少し学びたいんだよなあ。
「キング……さん、一応さ、まだ俺はこの世界に来て日が浅いというか今日来たばかりだからさ。悪いけど、当分の間は戦場に出ることはないと思う」
『なんと……。いくら主のためとはいえ、納得はできん。拙者にもう少し戦力があれば待つのもやぶさかではない。しかし、現在の拙者は弱い。弱すぎる。我慢ならん』
どうやらキングは弱い自分が我慢ならない向上心溢れる配下らしい。
そうは言われても、じゃあ一緒に魔物退治行こうぜ、という気にはならないしなあ。
でも、部下がやる気を出しているときに上司の都合で妨害するというのもなんか嫌だし。うん、仕方ないか。
「じゃあ、キングさん。そんなに我慢できないなら、先に魔物退治行ってくれば?」
俺は彼の自由意志に委ねることにした。
『しかし、それでは主を守るものがいなくなるではないか』
「大丈夫大丈夫。当分は王城でこの世界について調べたりすると思うし、危ないことはしないよ。俺ビビりだし」
『……………………わかった』
渋々といった様子で承知してくれたキング。
「あ、キングさん。ちなみになんだけど、魔物は人界の外側にある四界っていう危険地帯の方が凶暴らしいよ」
『なんと、その四界やらにはどうすれば辿り着ける?』
「あー、確かユーリさんが言ってたんだが、この部屋の窓の直線上に危険地帯である魔の森があるらしい」
『それは良きことを聞いた』
満足気なキングは、俺の目の前に滞空し、こちらをじっと見つめてくる。
『主よ、しばしの別れだ。拙者はこれより魔の森とやらに赴き、己を鍛えてくる。戻ったときには主の一騎当千の矛となる。ゆえに、それまでは死ぬなよ』
「ああ、怪我のないようにね」
俺はそっと、部屋の窓を開ける。
真っ暗な夜空に、キングが雄々しく飛び立つ。
「ああ、初日で配下を得て、その日に別れる主人公なんて見たことないなあ。やっぱり俺はモブだなあ」
頑張れ、キング。負けるな、キング。
俺はお前の脛をかじってニート生活できる日を待っているぞ!




