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俺の影にはGがいる  作者: 赤の虜
第一章 小鬼スタンピード
22/25

22 見世物じゃねえ

 魔界との境界では、熾烈な戦いが行われていた。

 エイちゃんゴーレム一号という予想外の戦力によって、ゴブリンの大群の足止めが魔力消費なしで可能になったわけだが、それだけで解決するほど容易い相手ではなかった。

 

 第一にあるのはやはり数の問題だ。中央ではエイちゃんゴーレム一号によって侵攻を阻害しているとはいえ、ゴブリンは無限ポップでもしているかのように次から次へと戦場に顔を出し、いくら倒してもきりがない。

 第二に、俺が担当することになったゴブリンアーチャー、ゴブリンメイジといった上位種である遠距離担当が厄介すぎた。この遠距離担当、上位種のくせに五十以上はいると思われる。


 俺が距離を詰めようにも、弓矢や火球で弾幕を張られてしまい、ミズキ達がその対処をするために魔法による迎撃をする。そのために俺の視界は戦闘が開始されてからミズキの闇魔法の黒一色である。一応、攻撃が前方に集中していることもあり、後ろや側面まで視界が塞がれてはいないけれど、現状俺にできることはない。何せ周囲で爆発音が連発しているので、怖くて一歩も踏み出せず、完全に的になっている。


 第三に、これは俺の事情と似ているかもしれないが、中央にはゴブリンリーダーやゴブリンファイターといった近接戦を得意とする上位種が戦場をかき乱しているのだ。

 たとえば、中央ではエイちゃんゴーレム一号による行動阻害が機能しているが、当然ながら全個体の動きを止めることはできないので、何匹かは抜けてくる。そこをアマちゃんのクレイゴーレム五体がモグラ叩きの要領で倒していき、定期的にナンちゃんのチャージ&リリースで大きく数を減らすルーチンだ。

 

 しかし、その流れに近接戦を得意とする上位種が紛れるとコンボが上手くいかない。

 まず、確実と言っていいほど、ゴブリンファイターは行動阻害を抜けてくるし、ゴブリンリーダーは手近なゴブリンに指示を出して、より多くのゴブリンを送り込んでくる。

 そして、そこからは悲惨だ。

 クレイゴーレム五体は複数のゴブリンファイターからサンドバッグのような扱いを受け、見かねたナンちゃんが助太刀。チャージ&リリースで一掃という形でなんとか戦線を維持している。

 本当に危ないときはミズキ達から適宜援護しており、継続的に戦うことも困難な状況である。


 俺達は終わりの見えない戦いに辟易していた。

 いつまで戦い続ければいいのか。

 昨日、調子に乗っていた馬鹿達へ称賛すら送りたい気分だ。

 俺達こんな相手によく舐めプしようとしていたな……負けて当然だよ、何せ物量が違いすぎる。正気の今たからこそ数の暴力の恐ろしさを強く実感してしまう。数は偉大だ。


「おおっ、やってますなあ!」


 各々がこの戦いに挑んだことを後悔し、セリーヌさんが村人を説得するのはまだかなーなんて思い始めた頃(少なくとも俺は思っていた)。緊張感のないご老人の声がした。


 うん? 幻聴かな? 何か聞き覚えのある爺さんの声がしたような……。


「おおっ、流石は神使様だ! 見ろ、山ほどいるゴブリンを次々と倒しているぞ!」

「やっぱりあの騎士様の言葉は嘘だったのね」

「お母さん、見て見て、あそこで黒い鎧を着た騎士が戦ってる」

「そうねえ、きっと神使様のお一人ね」


 戦場に似合わない呑気な声の数々。


 いや、嘘だろ……。


 ゴブリンからの集中砲火を浴びつつも、俺はつい気になって、背後を伺ってしまった。

 そこには花火でも見に来たかのような気の抜けた様子で、命懸けで戦う俺達を見るルード村の村人達の姿があり、その背後では項垂れたセリーヌさんがいた。


 こっちは命懸けで足止めしているのになんなんだ、こいつら。どれだけ危機感ないんだよ、ピクニックでもしに来たのか?


 あまりの事態に、俺は全身が凍りついたかのように固まってしまう。

 きっと、ナンちゃんとアマちゃんも同様だったのだろう。ちょうどチャージ&リリースを終え、引っ込むところだったナンちゃんがゴブリンファイターの拳に顔を殴られ、地面に転がる。


「ミズキ! ナンちゃんにゴブリンが寄りつかないように援護頼む!」

『わかった!』


 殴られた部位を抑え、痛がる様子を見せているので幸い命に別状はなさそうだ。


 一安心だ。

 ではあるけれど……。

 俺はナンちゃんが殴られたきっかけを思い、舌打ちする。


 あの村人達……戦いもせずに見物だけしに来たのか? 俺達が神使だから? ゴブリンの大群相手でも余裕だろうって?

 こっちはお前らの都合で召喚されて、嫌々戦いに巻き込まれたっていうのに?

 何より……。


「なんでこんな奴らのためにナンちゃんが傷つかないといけない」


 俺がナンちゃんの安否を心配している間も集中砲火は続いたが、気にしない。どうせミズキ達が守ってくれている。今、俺が考えるべきは如何に早く遠距離担当のゴブリンを殲滅するかだろう。


ゴブリンの遠距離攻撃を潰さないと、日和見している奴らのところに行けないからな。


(ミズキ、守ってくれているところに悪いが、後方で俺を狙うゴブリン達の大体の方角を教えてくれ)

『わかったー』


 俺はミズキのナビを受けながら、後方で一方的に攻撃を続けてきたゴブリンに手を翳す。


「悪いけど、急いでるんだ。邪魔するな。……雷撃」


 瞬間。空から後方のゴブリン目掛けて一筋の雷撃が落ちた。

 その後、すぐに視界が晴れ、残りのゴブリンの姿が見える。どの個体も唐突な雷に驚き、周囲を見渡している。


「村人もお前らも呑気だな。そんなことしている暇があったら逃げろよ」

(ミズキ、さっきから弓矢と魔法を打ち込んできていたゴブリン達、魔法で一掃して)

『うん、わかったー。総員ーーーかかれーーー!』


 ミズキの可愛いらしい号令の下、無数の球体の魔法が後方のゴブリンに襲いかかる。

 火で燃やし、氷で凍らせ、風で切り裂き、土で吹き込ばし、闇で削り取られて呆気なく、遠距離担当のゴブリンは掃討することができた。


「さてと……次は」


 俺は迷いのない足取りで、観客気分を味わっている村人達のところに行く。


(ミズキ、念のためナンちゃんが襲われないか注意しておいて)

『了解! ミズキに任せて!』


 俺が近くに行くと、村長の爺さんが嬉しそうに寄ってきた。

 こっちは最悪の気分だ。


「流石は神使様。あれほどの数のゴブリンを一瞬で倒してしまわれるとは!」

「どうしてここに来たの? ここ戦場だよね?」


 村長の称賛は無視して、尋ねる。

 いや、腹の立つ相手からの称賛とか怒りが増すだけだから。


「これには深いわけがありましてな……、そもそもはウェストリア王国がルード村を接収するため、儂らを追い出そうとしたことが発端なのです」

「あっそう、それって村人達が避難しなかったことと関係あるの?」

「もちろんですとも! そもそもゴブリンの大群程度、神使様にかかれば赤子の手をひねるようなもの。それをそこにいる騎士の小娘は危険だから逃げろなどと世迷い言を儂らに言うので、こうして神使様の力を村人に証明し、ウェストリア王国の横暴を阻止しに来たのです!」


 いきなりどうしたんだ、村長。

 彼が何を以てウェストリア王国の横暴と言いたいのかさっぱりだが、まだ戦闘中なのでそこまで聞いている時間はない。


 要するに、だ。

 村人達はセリーヌさんの忠告を無視して神使なら勝てるから避難する必要なしと考えた。そこからぶっ飛んだ思考の飛躍があって、確めに行こうという奇想天外な結論になり、現在に至ると。


「セリーヌさん、一応聞くけどウェストリア王国は村長の話通りのことをしようとしてるの?」

「あり得ませんね。する理由がないだけでなく、しても何の利益もない」

「なっ、神使様! こんな小娘の言うことを信じてはいけません! 彼女は騎士、言うなればウェストリア王国の尖兵なのですぞ!」


 うるさい爺さんだ。こんな小娘って、そんな言い方するなら俺はこんな騒がしい爺さんより、こんな綺麗な小娘であるセリーヌさんの言葉を信じてしまうけどいいのか? それに尖兵って、仮にそうでもルード村と共闘はしないからね、味方として頼りなさすぎる。

 それにしても良い子のセリーヌさんがここまで言うとなると、ウェストリア王国の横暴とやらの信憑性は低そうだな。まあ、セリーヌさんも騎士という立場だし、万が一ということあるかもしれない。

 とはいえ、だ。

 こいつらが呑気に逃げないでいるのは、完全に村人達の意思とううわけだ。


 つまり、こいつらのせいでナンちゃんが怪我をしたということだ。

 うん、それがわかればいいんだよ。それがわかれば……。


「なあ、村長」

「はい、どうしました?」


 愛想笑いで返答する村長。


「俺らさ、命懸けでゴブリンの大群を足止めしてるんだ」

「命懸けとはご冗談を! あれほど容易くゴブリンを倒していたではありませんか! 神使様方のお力ごあれば……」

「うんうん……ちょっと黙ろうか、クソ爺」


 俺は笑顔で頷き、村長の胸元を掴んで持ち上げる。


「まずさ、勘違いしないでほしいんだけど、倒していた……じゃなくて、今も戦ってるんだよ。年で目が見えないのかな? 向こうでまだまだ溢れ出てくるゴブリンが見えない?」

「あとね、そりゃあ俺達は神使としてこの国に召喚されたからさ、命懸けでゴブリンとも戦うし、お前らが死にそうになっていたら助けようとはするよ」

「でもさ、だからってそれを呑気にピクニック気分で観賞されるのは我慢ならないわけ、わかる? こっちは死にそうな目に遭ってるのに避難もせずに後ろではしゃがれるとね……すっごいムカつくんだ」

「長くなったけど、言いたいことはシンプルなんだ」


 俺は思いっきり息を吸い込み、


「俺らの戦いはお前らの見世物じゃねえんだよ! クソ爺!」


 思いの丈を吐き出した。ついでにその場の勢いで村長を殴り飛ばした。吹き飛んだ村長はピクリとも動かないが大丈夫……だと信じたい。


「セリーヌさん、悪いけど残りのゴブリン退治を手伝ってもらえないかな? 俺達じゃ正直きつい」

「ええ、喜んで」


 情けなく頼ることになったがプライドより命優先。

 しかし、返事をしたセリーヌさんは清々しい笑顔だった。彼女も村長の態度を快く思ってはいなかったに違いない。

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