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俺の影にはGがいる  作者: 赤の虜
第一章 小鬼スタンピード
21/25

21 強すぎる信頼

 セリーヌはルード村を全速力で疾走していた。

 神使一行と騎士団の精鋭二十名近くという大半の戦力がゴブリンの集落へと向かい、入れ違いでゴブリンの大群がルード村に押し寄せているという状況。

 セリーヌは現状に違和感を覚えていた。


 どうして神使様方とゴブリンの大群は遭遇せず、ルード村に来ることができた?


 息を切られながら、村人が集まるだろう村長宅を目指す。


 今回のゴブリンのスタンピードは異常だ。

 昨日もそうだが、ゴブリンの数が多すぎる。普通なら千規模であるはずなのに、はるかに上回る数がいる。


 そして、今回の一件。

 それこそゴブリンが神使を避けて移動してきたとしか思えないが、知能が低いとして知られるゴブリンにそんな真似ができるはずがない。

 

 セリーヌには確信に近い予想があった。

 神使召喚と時を同じくして起こること。そんなことは魔王誕生以外にない。


 魔王が関わっているのか?


 村長宅に到着する。


「あっ、騎士様だ」

「ゴブリンはもう倒したのか」


 村長宅の前には多くの村人がいる。誰もが普段通りの様子で、奥では落ち着いた様子の村長。

 村人の様子に違和感を覚えたセリーヌだったが、構わなかった。今も栄作達が決死の覚悟でゴブリンの大群相手に戦闘中なのだ。のんびりなどしていられなかった。


「村長っ、ゴブリンの大群が村に侵攻している! 村に残っている神使様は三人しかいない。万一を考えて、すぐにでも村人達には避難の準備をしてもらいたい」

「ほほっ、そうですか、そうですか……神使様が儂らのために……」


 好々爺然とした村長は深々と頷き、安堵した。


「何を安心している。今はまだ神使様が時間稼ぎをしてくれているから猶予があるが、それもいつまで続くかわからない。すぐに避難の準備を進めてくれ!」


 セリーヌは危機を共有できていないと考え急かすが、村長は一向に慌てない。


「騎士様は心配性ですなあ。息も切らしておるようじゃし、儂の家で休んでいきますかな?」

「何を言っている。そんな状況ではないと何度言えば……」


 村長は穏やかな笑顔で言った。

 危機感がまったくない村長にセリーヌは困惑する。いくら危機感がないと言っても、度が過ぎている。


「多いと言っても、所詮はゴブリン。三人だけとはいえ、神の使いである神使様が負けるはずがない」


 笑顔だった村長は眉間に皺を寄せ、鋭い眼光でセリーヌを見た。


「それに……村に立ち寄るファレスという行商人から聞いた話なんじゃが……どうもウェストリア王国は神使様の召喚を機にルード村の村人を追い出し、前線拠点として接収つもりなんじゃろう? 儂らはこの村で生まれ育った身ゆえ、他に身寄りがない者が多い。都合よく追い出されるつもりはない」

「はあ?」


 セリーヌは予想もしなかった返答に言葉を失った。

 ウェストリア王国がルード村を接収して前線拠点にする?

 どうしてそんなことをしなければならないのか。そもそもウェストリア王国が国門以外に前線拠点を設置しないのは財政的に困難だからで、それは神使召喚で解決する問題ではない。そんなことは騎士の身分でしかないセリーヌですら知っている常識だった。

 

 仮に前線拠点を用意する案があるにしても、ルード村が選ばれることはないだろう。選ばれるのは、常備兵や城壁といった防衛設備が充実した高位貴族の領地といった開発資金を必要としない場所だろうから。


 だが、どういうわけか、ルード村ではまことしやかに信じられている。

 となると、怪しいのは村人にありもしないことを吹き込んだファレスという行商人だが……。


「騎士様……儂らのような世間知らずなら、簡単に騙せると思ったかもしれませんが、儂らにも最低限の情報源があるのじゃ。舐めないでもらおうか」

「しかし……本当に今回のゴブリンは普通じゃないんだ! スタンピードにしても、数が多すぎる。君達の命がかかっているんだ! 信じてくれ!」


 言葉を尽くすセリーヌだったが、一度思い込んでしまった村人達には言い訳をしているようにしか見えず、不審そうに見つめるだけだった。

 その様子に気をよくした村長が鼻で笑い、何かを思いついたように意地汚く顔を歪める。


「そうじゃ……騎士様がこれほど言っておるのじゃ。事の真相を確かめるため、村人全員で確認に行くとするか。そうすれば、ウェストリア王国の思惑も白日の下に晒されよう」


 村長の問い掛けに、「おう!」村人達は声を合わせて答える。子どもなどは訳も分からず、右往左往していたが親に手を引かれて、ぞろぞろと村人達はゴブリンの大群が押し寄せる魔界の境界へと歩みを進める。


「なっ……どうしてそんな結論になる! お前達は何がしたいんだ!」


 セリーヌが焦る様子に確信を得たのか、歩みが速まる。


「いったい何が起こっている?」


 膝をつくセリーヌに、一人残った村長が言う。


「神使様は神の使い、多いだけのゴブリンに負けるような軟弱者ではない。儂らがそんなことにも気づけないと考えたことが誤りだったんじゃよ」

「村長……自分が何をしているのか、本当にわかっているのか?」


 セリーヌの言葉は、村長の行動がルード村の村人全てを危険にしているという意味だが、ウェストリア王国の横暴を信じて疑わない村長の耳には届かない。


「わかっておりますとも。神使様は四界の王を倒すために呼ばれた存在。そんな彼らが負けるはずがない、ないのじゃよ。……儂は国に背こうとも村を守りますぞ」


 確固とした決意を持つ村長に、セリーヌは消沈しつつも、ゆっくりと立ち上がる。


「はあ……私の言葉は届きませんか。では、お三方の所へ向かいましょうか?」

「よろしいので?」

「良いも悪いもありません。私は騎士ですから、民を守るだけです」


 こうして。

 本来ならば、時間稼ぎを目的とした栄作達の戦闘は、彼らのあずかり知らないところで逃げ道のない戦場へと姿を変えた。

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