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俺の影にはGがいる  作者: 赤の虜
第一章 小鬼スタンピード
16/25

16 反省と覚悟の逃走

 ウェストリアと魔界との境界付近に分布する森林。

 そこにあるゴブリンの集落にて、セリーヌは視界を埋め尽くすゴブリンに眉をひそめていた。


「やはりゴブリンキングがいるにしても、多すぎる」


 殿を務めるに至るまで、まったく聞く耳を持たず、暴れに暴れた三人の神使。

 彼らの独断専行によって、命の危機に陥ったセリーヌだったが、現状に対し、彼女は栄作達を非難する気は起きなかった。

 

 確かにセリーヌが護衛していた神使達は自分勝手かつ固有スキルという神使だけに許された力に酔い、ゴブリンの大群に挑むという無謀を犯した。

 セリーヌが彼らに怒りを感じなかったのは、正にこのゴブリン達に理由があった。

 

 騎士として、これまでセリーヌは先輩騎士からゴブリンキングが誕生した場合の数や規模、その脅威度などを教えてもらっていたけれど、今回はそれと比較しても明らかに数が多すぎた。

 仮に先輩騎士の話通りなら、ゴブリンの大群はいても千くらいの総数らしいのだが、今回のゴブリン達は明らかに桁違いに多い。

 セリーヌが殿を務めることに対して、顔を青くしていた、まだまだ戦闘に不慣れな甘い神使達だったが、その力量は騎士団期待の新人であるセリーヌをして、恐ろしいものだった。


 彼らが気づいているかは知らないが、力に溺れていたとはいえ、彼らは傍から見れば獅子奮迅、一騎当千の勢いで魔物を屠っていたし、その数は千は確実に超えていた。

 だからこそ、いくら道中で魔力を消費していたとはいえ、あの神使三人で挑んで、先に魔力が切れる事態になっていることの方がイレギュラーなのだと、セリーヌは冷静に判断を下していた。


「しかし、よりによって命を懸ける相手がゴブリンとはな……」


 セリーヌの顔が苦々しく歪む。

 敵を侮っているわけではなく、ゴブリンの習性こそが問題だった。


 異種族のメスを苗床に子どもを産ませる。

 そんな習性を持つゴブリンに捕まればどうなるか、セリーヌは想像もしたくなかった。


「お三方には悪いが、身動きができる内に自決させてもらうしかなさそうだな」


 セリーヌの脳裏に、幼なじみの姿がよぎる。

 今頃、王都で文官として、身を粉にして働く幼なじみを思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいになり、涙を抑えられない。


「すまないな、マリウス。人界を救う神使様のため、この命を使う」


 涙を拭い、ゴブリンへと飛びかかる。

 


 戦闘は熾烈を極めた。

 セリーヌが近接メインの剣士であることが災いしたのだ。

 数の暴力を仕掛けてくるゴブリン達に、ちまちまと剣士が一匹ずつ、切り伏せていては押し潰されて終わる。

 だからこそ、彼女の戦いは常に後方に下がりながら、行われることになる。


 ゴブリンを切り伏せ、死体という名の障害物で、その列のゴブリンの侵攻を遅れさせる。そして、後方に移動し、飛びかかる。できるだけ多くのゴブリンを巻き込むように横向きに一閃し、また後方へ。

 攻められながらもひたすらに、ヒット&アウェイを何度も何度も繰り返していく。


 終わりの見えない作業と、常に迫るゴブリンの大群という脅威にセリーヌの息も上がっていく。

 剣の技量だけでは太刀打ちできない状況。一手でも間違えば、すぐに命を失いかねない。


 そんな状況であるというのに、セリーヌは笑っていた。


 あのはしゃぎ回っていた神使達は、いくら固有スキルがあるとはいえ、こんな恐ろしい大群に一歩も退かず、どころか魔力が枯渇するまで戦い続けたのだと思うとセリーヌは笑ってしまった。


「本当、滅茶苦茶な神使様だ」


 セリーヌは迫る大群を見据え、立ち尽くす。

 そして、剣の切っ先をそっと自分の首に据える。


 栄作達を逃がしてから、多少の時間が稼げたと判断したセリーヌは、自決の準備に入った。


「ごめんね、マリウス。私は先に向こうで待ってるから、私の分まで長く生きなさいよ。……神使様、こっちは命をかけたんです。絶対に生き残ってくださいね」


 剣を伸ばしきり、一気に引こうとしたそのとき。


「わかった、生き残ってやるよ! セリーヌさんも一緒にな!」


 切っ先が止まる。


「どうして……」


 背後にはさっき場を離れたはずの栄作達の姿があり、セリーヌの目が見開かれる。


「どうして? 決まってるだろう? 俺達は神様の使いなんだ。バッドエンドなんて認めません。サンダーボルト」


 口調は力に酔っていたときと分からなかったが、その目には今までにないほどの強い意志があった。

 栄作の台詞と同時、セリーヌに迫っていたゴブリンの大群、その前方に空から一筋の落雷が落ちる。

 

 そして、一瞬雷撃で動きを止めたゴブリンに、口を抑え、必死に吐き気に耐える南郷西也ことナンちゃんが立ち塞がる。


「うぇ……おまけだ、この野郎!」


 チャージ&リリースによって、迫っていたゴブリンの大群が大きく後方へと吹き飛ばされる。

 栄作は自分の出した雷撃を呆然と見てから、


「もう俺、キングさんには足を向けて寝れないな。アマちゃん、足止めは俺がするからゴーレムでセリーヌさん運んで!」


 と言った。


「うっぷ……任せとけ~……やばい、吐き気が……うっ」


 返事をした甘粕天星ことアマちゃんはクレイゴーレムの片手に捕まれた状態だった。そして、空いていた片手に、剣を落とし、座り込んでいたセリーヌが捕まれ、クレイゴーレムがナンちゃんと栄作に先んじて逃げ出す。

 そして、その後ろに魔力を限界まで使用し、片手で口を押さえ、ふらふらなナンちゃんが追随する。

 そして、栄作が殿を務めながら最後尾、という配置で逃げていく。


 徐々に理解が追いついてきたセリーヌが神使三人を睨みつける。


「どうして……あなた方はそう、言うことを聞いてくれないのですか! どんな思いで、私が命を懸け、殿になったと思ってるんですか!」


 涙を滲ませるセリーヌに、随時雷撃で反撃する栄作が答える。後の二人は魔力の使いすぎによる吐き気と逃走に意識を割いていて、それどころではなかった。


「だからだよ! この良い子ちゃんがっ!」

「はい!?」


 まさか、キレられるとは思わなかったセリーヌ。

 そんな彼女に対して、栄作が勢いのままに畳み掛ける。


「幼なじみとの婚約なんて、幸せな将来があるお前の命で助けられたら、こっちが自分を許せねえって言ってるんだよ!」


 栄作は再び雷撃をゴブリンに打ち込み、


「いいから黙って守られてろ!」


 セリーヌに怒鳴った。


 


 結果。

 栄作はなんとかゴブリンを撒き、無事ルード村に帰還することができた。

 途中、ナンちゃんが吐き気を我慢できず、ゴブリンに追いつかれたり、アマちゃんが意識を失ってクレイゴーレムが動きを止め、慌ててアマちゃんを叩き起こしたりと多くのトラブルにも見舞われた逃走であった。

 それでも、逃げ切れたのは偏に栄作の殿があったからと言えよう。


 それまで配下に魔法を使わせ、まったく魔力が減っていなかった栄作の雷撃は絶えず、ゴブリンの大群の足を止め続けた。

 栄作の使用した魔法については、次の次の話で説明する予定です。

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