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俺の影にはGがいる  作者: 赤の虜
第一章 小鬼スタンピード
15/25

15 余裕があると調子に乗る人種 後編

 思っていた以上に長くなりました。すみません(; ・`д・´)

 魔界の入口は、深い緑の森林だった。

 セリーヌさん曰く、魔界は人界に近いほど緑に溢れ、遠ざかるほど荒れ果てていくのだとか。ウェストリアの歴史学では、過去の神使に日記などに、魔王の誕生する最奥には草木が全くないなんてことが記述されているのだとか。

 また、魔界では生存競争も激しく、常に魔物同士での命の奪い合いが行われているようで、人界に現れる弱体化した魔物と戦闘する気持ちで挑み、命を落とす冒険者も珍しくないそうだ。


 改めて魔物の領域なのだということを教えてくれる話だが、俺達はその話を森林部を進みながら聞いていた。

 本来ならもう少し警戒するべきだし、実際セリーヌさんは神使である俺達が奇襲されないように、細心の警戒をしていたけれど、俺達は吞気なものだった。


 いや、いてもどうせゴブリンとか弱い魔物だけだろうし、余裕だって。ナンちゃんとアマちゃんの固有スキルも強力だし、俺は百を超える魔蜚蠊に護衛されているのだ。気楽なものである。


「ここは既に魔界です。お三方も警戒を怠らないよう、お願いします」

「「「へーい」」」


 セリーヌさんが鋭い口調で言うも、俺達の返事に気持ちは籠っていなかった。まるでゲーム中にとりあえず言っている、「わかった」と同じくらい気持ちが籠っていなかった。


 魔界に入るにあたり、俺は茶色のローブに、短剣を装備していた。

 ナンちゃんは動きやすさ優先で皮の防具と両腕にガントレット、アマちゃんは俺と同様である。

 俺とアマちゃんはそれぞれの配下、ゴーレムがメインだからね。軽装なのである。

 最後にセリーヌさんは銀の鎧で顔以外を包み、一本の剣と盾を装備していた。すごく重そうだったが、本人曰く、すぐに動けなくなるような鍛え方はしていないとのこと。


 探索はセリーヌさんを先頭に、真ん中に俺、後方にナンちゃんとアマちゃんという形で行われている。

 なぜ、俺が真ん中なのか。理由は単純だ。

 俺の周囲には久しぶりに影から出れて、やる気満々のミズキ達魔蜚蠊がうじゃうじゃといて、みんなから距離を取られているのだ。

 まだ足元をカサカサ這い回る魔蜚蠊に精神がゴリゴリ削られているけれど、多少は耐えられる。

 というのも。


 +++

 かつら 栄作えいさく


 固有スキル:生むは易し▶

 スキル:精神耐性(小)

 配下:魔甲虫キング99/100、魔蜚蠊ミズキ、魔蜚蠊×140

 +++

 

 度重なるストレスからか、スキルに精神耐性(小)なるものが生えてきたのだ。

 スキルの効果で、少しは耐えられるようになったらしい。あくまで耐えているだけだけど。


「来ました! ゴブリンが三匹です!」


 素早く戦闘態勢に入るセリーヌさんの前に、俺達は踊り出る。


「ふん、ゴブリン如き俺のチャージの敵ではない」

「ゴーレム生成、タイプ:クレイゴーレムを一体生成」

「いけ、ミズキ。得意な闇魔法をぶつけてやれ!」


 三匹のゴブリンは、それぞれ俺達神使三人組によって倒された。


 ナンちゃんがガントレットにチャージを使用し、一撃でゴブリンの頭部を吹き飛ばすという目に毒なオーバーキル。アマちゃんの場合は、クレイゴーレムが虫でも潰すように両手でサンドイッチとこれまた恐ろしい方法で倒した。

 そして、俺はというと、


『ダークボール』


 ミズキの可愛らしい声で放たれたダークボールなる黒い球体が、ゴブリンの頭部を通りすぎるとゴブリンの頭部が消えていた。

 恐ろしいのは魔法も一緒だったようだ。


 かくして。

 三匹のゴブリンはそれぞれ一撃で倒され、この光景を見たセリーヌさんは目をキラキラさせて、


「流石は神使様です。まさか、ゴブリンとはいえ弱体化もしていない魔物を一撃で倒してしまわれるとは……」


 ヨイショしてくれた。


「え……まさか俺達って思っていたより強い?」

「ありうる」

「少なくとも俺の配下達は数の暴力だから最強」


 しかし、後から思えばこれが不味かった。

 いや、これが決定打となっただけで、前々から兆候はあったのだろう。

 正直、俺達は自分達の固有スキルを強力だという認識を共有していたし、ゴブリンに関しても、魔物なんて言っているけれど、固有スキルなんてチートあれば、楽勝なんじゃない、と度々話し合っていたのだ。

 その驕りがセリーヌさんという美女のヨイショで爆発したというだけの話だ。


 何が言いたいかというと。

 俺達はあまりに苦労もなくゴブリンを倒したことで、それはもう、調子に乗った。


 経験はないだろうか。ゲームで期せずして激レアを当ててしまい、ゲームの相性や戦術といった大事な要素を考えず、一方的に勝利を積み重ね、ある程度進んだところで、どうしようもないほどの大敗北を味わう、そんな過ち。

 全能感に酔いしれて、疾走しているときには気づかない。中身が伴わない強さの脆さというものに。

 正にその状態に、俺達はなっていた。

 魔物を容易に圧倒する固有スキル、何者にも負けないくらい数がいる配下達。


 イケイケだった。

 高揚するテンションだけで突き進む探索は最高。……そう、最高だった。あのときまでは。


 ***


 ゴブリン五匹とのエンカウント。


「まとめて吹っ飛べ!」


 ―――結果。

 ナンちゃんのチャージ&リリースによって、まとめて爆散。


 ゴブリン十匹とのエンカウント。


「ゴーレム生成、追加、タイプ:クレイゴーレムを四体生成。……ふははははは! 蹂躙せよ!」


 ―――結果。

 五体によるクレイゴーレムによって、モグラ叩き状態で圧勝。


 ゴブリン十五匹とのエンカウント。


「行けっ、魔蜚蠊達! 各属性魔法、ボール系を乱れ打ちじゃー!」


 ―――結果。

 ミズキを筆頭に火、水、風、土、光、闇、氷、雷という様々な魔法の球体がゴブリンに襲い掛かり、爆散。


「あの、お三方……魔力にも限界があるでしょうし、そろそろルード村に引き返しませ……」

「進めー、ゴーゴーゴー! 前進だー!」

「「おー!」」


 もはや勢いだけで突き進む俺達にセリーヌさんの言葉は届かない。


「ええっ、待ってください! お三方ー!」


 そこからはもう、無人の野を行くがごとき快進撃だった。

 五十を超えるゴブリンを見かけても、チャージ&リリースからの、魔蜚蠊の魔法の弾幕、残りを五体のクレイゴーレムにより掃討する黄金コンボで、難なく乗り越える。

 ウルフの群れと遭遇しても、魔蜚蠊の弾幕で瞬殺。

 バーサクベアーにはクレイゴーレムを盾にし、チャージ&リリースで一撃。

 コボルドは弾幕、オークはゴーレムを足止めにチャージ&リリース。

 もはやゲームのレベリング作業並みの効率で魔物を倒していく俺達に、セリーヌさんはついて来るので精一杯な様子だった。


 そして、俺達は勢いそのままに行き着くところに行き着いた。

 



 そこにあったのは森を円形に切り開いた集落。周りには木製のつくりの雑な柵、中にはどこもかしこもゴブリンだらけ。

 その規模は俺達がいたルード村よりも大きく、ゴブリンの数は多すぎて分からなかったが、百は確実に超えてそうである。


「これは……ゴブリンの集落? それも中には鎧に身を包むジェネラルもいるとなると、ゴブリンキングがいる可能性も高いですね。いくらゴブリンとはいえ、キングがいるとなると最低でもBランクの難易度はあります。お三方、すぐに戻って騎士団長や他の神使様と合流するべきです」


 騎士としてのしっかいとした経験を元にプロとして提言するセリーヌさんに対して、俺達はそっと首を横に振る。

 残念ながら、まだまだ気分はイケイケだった。


「なぜです! いくらゴブリンとはいえあの数です! 叶うわけがありません!」


 ゴブリンに見つからないように小声で言うセリーヌさん。

 彼女に対して、俺達はうんうんと頷いて見せる。


「セリーヌさん、君が言いたいことはわかるが、俺達の答えはノーだ」

「だから、なぜ!」

「それはね……俺達が神使だからさ」


 俺はドヤ顔でそう言う。

 神使の使命感に……いや、自分達の力に完全に酔っている俺達は、未だに酔いから覚めていなかった。


「君はそこで見ているといい。後は俺達で片づける」

「ふん、俺のチャージが火を噴くぜ」

「クレイゴーレムで握り潰してやりますよ」

『行くぞー!』


 各々が調子に乗って、奇襲すらせずゴブリンの集落に堂々と向かっていく。

 無論、集落には見張り番のゴブリンもいたが、そこはナンちゃんの固有スキルで豪快にゴブリンごと柵を吹き飛ばし、侵入。


 侵入者に気づいたゴブリン達が次々と現れていき、視界いっぱいにゴブリンが溢れ、中にはセリーヌさんの言っていたゴブリンジェネラルやゴブリンメイジといった上位種の姿も見受けられる。


 相対するは、俺とナンちゃん、アマちゃんの三人。正確にはそこに俺の配下の魔蜚蠊百四十匹とアマちゃんのクレイゴーレム五体が追加される。

 俺達は数への怯えはない。

 というか、完全に調子に乗っていて、舐めきっていた。


 そうして。

 調子に乗ってしまった結果、無謀な戦いが始まった。

 戦闘の高揚とはすごいもので、普段はできないこともその場の勢いでやってしまう、なんてことがある。

 ちょうど、今日も俺がそれである。


「俺の元に集え、魔蜚蠊達よ」

『わかったー! みんなご主人様に張りついてー。守りながら魔法を撃ちまくれー!』


 正気なら発狂しかねないことも、なんか黒い鎧に身を包むと格好いいんじゃね? という突発的な思いで実行していた。

 実際は全身にGが集るというトラウマものの光景なのだが、もはやハイテンションモードのオタクには気にならない。


 そして、俺は動く魔法砲台と化し、ただ歩くだけで四方八方に魔法をばら撒く災害となる。


「はっはっはっは、撃ちまくれ、配下達よ、ゴブリンを蹂躙するのだ!」

『うん、ドンドン行くよー。発射ー!』


 主従揃ってノリノリである。

 もちろん、ナンちゃんとアマちゃんも負けていない。

 ナンちゃんは五体のクレイゴーレムに身を隠し、チャージが蓄積されれば、解放して一度に多くのゴブリンを屠っている。

 そして、アマちゃんはナンちゃんをフォローしつつ、クレイゴーレムでゴブリンを牽制して盾役として機能していた。


 自分で言うのもなんだが、俺達の固有スキルは強力だった。

 山ほどいるゴブリンだってもう、何百と倒しているのに、まだ傷一つないことからも、それは事実だろう。

 ゴブリンアーチャーなんて、戦闘の素人からすれば天敵のような後衛もいたのだが、俺は配下が魔法の弾幕で撃ち落とし、ナンちゃんとアマちゃんはクレイゴーレムを盾にすることでうまく防いでいた。


 しかし、いくら固有スキルが強力だろうと、どうしようもないこともある。

 戦闘訓練は積んだとはいえ、俺達は異世界召喚されて、日の浅い神使。

 そんな神使にとって、致命的なことは戦闘能力そのものよりも、むしろ持久力にあった。

 つまり、魔力量である。


 そもそも固有スキルには発動するために魔力を使用している。そして、俺達神使は常人よりもはるかに多い魔力量とその成長率を誇るらしいのだが、限度はある。


 要するに、ゴブリンの大群との勝敗を決める決定的な要素は、持久力の有無であり、俺達にはそれがなかったのだ。


 もう何度目になるのか、複数のゴブリンが徒党を組んで、俺に押し寄せてくる。

 これまでならば、魔蜚蠊達が迎撃し、近づくことすらなかったのに、近づくことを許してしまっていた。


「どうした、ミズキ。もっと、魔法をゴブリン達に打ち込むんだ!」

『ごめんなさい、ご主人様。もう、みんな魔力なくなって魔法使えない』

「なんだって! ナンちゃん、こっちに援護をくれ!」

「悪い、魔力使いすぎてもう吐きそう……うっぷ」

「じゃあ、アマちゃん!」

「ごめん、俺のクレイゴーレムも全部やられたし、魔力使いすぎて俺も気持ち悪い……うっ」

「え……じゃあ、どうすれば」


 俺が悩んでいる間にも、ゴブリンが俺に押し寄せ、棍棒を振りかぶる。

 その様はこれまで何度も倒してきたものと同じゴブリンであるはずなのに、酷く醜悪で、恐ろしい。


「ひっ……」


 恐怖で顔が引き攣り、目を瞑る。

 

 なんで来るんだよ、来るな来るな来るな来るな!


『ご主人様! 避けて!』


 …………。

 しかし、いつまでだって痛みも衝撃も来なかった。

 恐る恐る目を開けると、そこには前方にいたゴブリンを切り伏せ、剣から血を振り払うセリーヌさんの姿があった。


「まったく……あれほど逃げるべきと言ったのに困った神使様方です」


 セリーヌさんは呆然とする俺達に優しく微笑む。


「ここは私が食い止めておきますから、神使様方はお逃げください」

「え……いや、でも、セリーヌさんには……」

「いいから早く行きなさい! あなた達は人界の希望なんだから、私なんて放っておいて生き延びなさい!」


 怒声と一緒に肩を押され、俺はナンちゃんとアマちゃんのところで、下がる。

 セリーヌさんがゴブリンを次々と切り伏せる中、混乱しつつ、何かできないかと考えるも、魔力がないので三人ともできることはなく、オロオロとしてしまう。


「そ、そうだ。セリーヌさんが時間を稼いでいる間に逃げないと。このままだと、あ、足手まといになるかもだし……」

「お、おう」「う、うん」


 選択肢がない中で、自然とセリーヌさんに言われたことを選んでしまう。そこに俺達の意思はなく、混乱する思考に用意された答えに飛びついていただけ。

 俺達はトボトボと集落から離れていく。


 そんな中、俺は後方に山ほどいるゴブリンのことを忘れて、考えていた。


 どうして、セリーヌさんが残るんだ?


 言うことも聞かずに、好き勝手して、死にそうになったのも全部俺達のせい……なのに……なんで?


 というか、俺達なんかのためになんでセリーヌさんが犠牲になるんだ?


 言っていたじゃないか。

 魔王を倒したら、幼なじみで婚約者のマリウスと結婚するって。

 自分の幸せを掴むために、彼女は騎士団に入ったんだ。俺達の我儘に付き合って、死ぬために騎士になったんじゃない。





 そんな女の子を置き去りに逃げ帰るのか、俺達。

 全部俺達のせいなのに?


 そこまで考えて、足が止まる。


「おい、エイちゃん。何してるんだ。早くしないと……」

「せ、せっかくセリーヌさんが、か……稼いでくれた時間が……」


 二人を見ると、顔を真っ青にして、酷い顔をしている。

 きっと、俺も似たようなものだろうが。


「なあ、俺達って神使なんだよな?」

「はあ?」「今はそんなこと言っている場合じゃ……」

「場合だよ! ナンちゃん、アマちゃん。俺達は今、押しつけられた役目とはいえ、神様の使いとして、人界の救世主として召喚されたんだよな」


 俺は二人の肩を力強く掴む。


「でもさ、そんな俺達が今、同い年の女の子に尻拭いしてもらって、逃げ出そうとしてる。俺達が言うこと聞かずに好き勝手したのにさ、これからの人生、幼なじみと幸せに暮らそうとしてた女の子を見殺しにしようとしてる」

「このままじゃさ、俺達、本当に格好悪くね? せっかくチートもらって異世界来てるのにさっ! こんな情けないまま終わっていいはずないだろう! ……俺達が本当に天下の神使様だって言うんなら……女の子を一人くらい守って連れ帰ろうぜ!」


 沈黙。

 そして、すぐに二人は顔を上げた。そこには相変わらず顔を青くしていたが、目には力が宿っていた。

 ナンちゃんが自分の両頬を叩く。


「そりゃあそうだ。惚れた女に死なれちゃあ寝覚めが悪い。こっちは告白前に失恋してやったんだ。せっかくなら結婚式まで見届けてやらないとな」


 アマちゃんもニタッとした笑みを返してくる。


「あと一回くらいなら、クレイゴーレム生成して運んでやれる。二人までなら多少の怪我しても大丈夫だ」


 俺は二人を伴い、ゴブリンの集落に引き返す。

 この話でまとめようとしたけれど、まとまらなかったので、セリーヌさん救出は次の話にします。

 それにしても、長くなったなあ。

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