13 余裕があると調子に乗る人種 前編
「この村から先が魔界の入り口になります、神使様方」
騎士団長の一言に、俺達クラスは全員が揃って、啞然とした。
その驚愕っぷりはすごいもので、あの完璧超人たる天童君でさえ、目を点にしているほどである。
俺の個人的なイメージでは、何かしら城壁や柵のように、魔物が入りこまないための設備があるものだと決めつけていた。
おそらく、クラスメイト達も細部は違えど、似たような想像をしていたのだろう。
だからこそ、驚愕は大きかった。
時刻は日差しが真上にあるので、おそらく正午頃。天気は晴天。
のどかな農村に、土にまみれて畑仕事に励む農民、家々が点在し、中心に一つだけ大きめの一軒家が一つ。
見事に辺境の農村といったような風景だった。
本当にここで間違いないの? 国門がある場所と違って優先度は低いだろうけど、魔界との前線だよね、こんなので大丈夫なのか。
「人界には『聖域の門』がありますからね、国門以外の警備はどこも地元の自警団に頼り、手に負えなければ当該地の領地を治める貴族や国に頼り、立地によっては冒険者に依頼して安全を確保しております」
なるほど、そういう形で警備網を敷いているのか。
「でも、それだと後手に回り、前線の村には被害が出るのではないですか?」
と、質問したのは天童君だった。
俺? 俺はこういうとき、クラスの端で村の様子を見たり、周りの警戒をしたり、場合によってはナンちゃんとアマちゃんと話しているよ。
「神使様方にお伝えするのは情けない話ではありますが、いくら魔物が弱体化しているとはいえ、前線に被害が出ることはあります」
騎士団長は悔し気に続ける。
「しかし、すべての前線に騎士や領主の私兵を常駐させるのは財政的に困難です。ですから、現状では可能な限り、前線付近に冒険者ギルドの支部を設置し、冒険者に退治してもらう形式に落ち着いています」
国では経費を賄えないから、冒険者ギルドという民間に委託してると。
「ちなみに、この村には冒険者はいませんが、隣村に冒険者ギルドがあるので、この村の依頼はそこで受理されています。今回は神使様方が遠征されるため、冒険者には依頼していないかもしれませんが……」
ほうほう。
つまり、金銭の必要な冒険者より、無料で魔物退治をしてくれる神使様にやってもらおうということか。なんか嫌だな、その扱い。都合よく利用されている感じがする。
ともあれ、魔界との境界にあるルード村に到着した。
魔物退治に向かう前に、腹ごしらえすることになった俺達は村長宅である大きな一軒家にて、昼食を取ることになった。
村長宅には神使一同を歓迎するための椅子や机などなかったので、床に座って食べることになり、騎士団長が申し訳なさそうにしていた。
しかし、道中を思うと、魔物の襲撃に怯えながら馬車の中で食事していたことを思えば、それほど不快には感じなかった。
これまでの旅では食事は騎士団が用意してくれていたが、味気ない干し肉ばかりだったので、ちゃんとした食事にありつけるだけで嬉しい。
まあ、食事自体はお粥だけだったけど、貴重な食事を与えてくれたことを感謝するべきだろう。
食事を終えると、少しばかり休息となった。
これですぐに魔物退治に出掛けて、神使が再び胃の中を空にする自体がないよう、騎士団長が気を遣ってくれたのだろう。
クラスがそれぞれ緊張した面持ちで、友達グループで不安を口にする中、俺とナンちゃん、アマちゃんの三人が席を立ち、別室へと向かう。
そこでは地図らしき紙を広げ、話し合う騎士団長と精鋭二十名の姿がある。
ここへ来た理由は単純。またも、直談判である。
いくらゴブリンが大量発生し、スタンピードの危険性があろうと、クラス単位で行動させられると、俺の配下達がまったく使えなくなる。
だからこそ、自由行動を求めに来たのである。
「おお、誰かと思えばお三方でしたか。どうされました?」
騎士団長が俺達に気づく。
彼が俺達三人を認識でしているのは偏に旅の途中、唯一スタンピードの可能性を指摘した神使だからだ。
言うなれば、俺達は今、頭のキレるインテリ系神使という立ち位置を得ているのだ。
まあ、実際はオタクが知っている知識に当てはめて考えたら当たっていたというだけなので、頭が良いわけではないけれど。
「はい、午後から始まる遠征なんですけど、俺達は三人だけで探索させてもらえませんか?」
余計なことを言わず、率直に本題に移る。コミュニケーション能力に難がある俺に、自然な会話を期待されても無理。
こういったことは本来ならクラスの中心人物である天童君に相談するというプロセスを経るのだろうが、俺達はそんなことはしない。
だって、天童君に相談したら、正論言われて論破されそうだから。
騎士団長なら神使様の発言力で案外押し切れそうと考えたのだ。
「そうは言っても、お三方も知っての通り、今はスタンピードが疑われる非常時です。三人だけの行動は危険なので私は反対です。それに実力に関しても、ナンゴー様とアマカス様は戦闘向きな固有スキルということもあり、魔物との戦闘も可能でしょうがカツラ様は……」
言いずらそうにする騎士団長に、俺は彼が言いたいことを察した。
つまり、あれだ。
そこの二人はともかくお前がお荷物だから、やめておけ。
そんな風に思っているけれど、どう言い繕えばいいものかと考えているのだろう。
俺がこれまで戦闘訓練でも固有スキルを使っていなかったことから、この反応は当然。むしろ、俺の身を案じてくれていることを感謝こそしても、怒りはない。
しかし、それで納得もできない。
道中から考えられる限り、相手は大方ゴブリンだろうし、いくら弱っていたとしても蹴り一撃で地面に転げ回るゴブリンでしかない。
俺には配下のGもいるので、それほど危険はないだろう。
なので、俺はここに来る前に騎士団には固有スキルについて明かすことを決めていた。
これまで隠していたのはクラスの目があったからだし、魔物が普通にいる異世界なら虫に対する耐性もあると思うのだ。
「ああ、騎士団長。別に俺、二人と比べてもそんなに弱くないですよ」
と、人生最高のドヤ顔を決め、スキルウィンドウを騎士団の面々に開示する。
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桂 栄作
固有スキル:生むは易し▶
配下:魔甲虫99/100、魔蜚蠊、魔蜚蠊×140
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「この配下というものは一体?」
「俺の固有スキル:生むは易しは配下を生み出すスキルなので、戦力としては問題ありません。まあ、これまでは一身上の都合でお見せすることができませんでしたが……」
魔女裁判ならぬG裁判をされ、駆除対象になることを危惧していたからな。
「そんな強力なスキルだったのですか! では、なぜこれまでお隠しに……。その……一身上の都合とはいったい?」
役者さながらに、良い反応をしてくれる騎士団長。
しかし、現実は非情である。彼が想像するよりも事実は陳腐である。俺にとっては死活問題だが。
「少し耳を貸してください、騎士団長」
俺はミズキに聞かれないよう、騎士団長に小声で説明をする。
固有スキル:生むは易しは訳あって、ある生物しか生成できない状態にあること(生成ルーレットなる悪辣な機能のせい)。
その生物が俺達の住んでいた世界、この世界で言うゴブリン並に嫌われており、下手に俺がそれを生成し、大量に抱えていることをクラスメイトが知ると、生理的嫌悪から母体である俺が殺されかねないこと。
そして、最後に俺の影には現状百匹を超える数がいて、内一匹には意思があり、嫌われている事実を隠したいということ。
最後に、その生物は一匹一匹が魔法を使用でき、戦力としてむしろ過剰であること。
言わないといけないことが多かったので、わりと時間がかかったが、騎士団長は最後まで真剣に、相槌を打ちながら聞いてくれた。
「まさかカツラ様にそういった事情があったとは……知りもせず、勝手な物言いをしてしまい、申し訳ございません」
「いえ、言わなかった俺も悪かったので」
最終的に、俺の固有スキルの強力さを知った騎士団長は、渋々ながらも自由行動を認めてくれる運びとなった。
ただし、条件として騎士団から一人、護衛をつけられることになったが、そこは俺達も了承した。
よくよく考えたら、魔界に行ったことないから、道に迷っても困るから、むしろありがたい。




