12 遠征道中初戦闘
戦闘はありますが、チュートリアル風。
魔物退治を目的とする魔界への遠征。その道中。
ウェストリア王城から出発し、およそ二日が経っていた。
俺達はサスペンションの効かない数台の馬車に揺られている。
ウェストリア王国から同行するのは王国騎士団の騎士団長と精鋭二十名。戦闘訓練で散々お世話になったSランク冒険者達は俺達への指導という役目を終え、お役御免となった。
騎乗する騎士に守られ、移動する道中ではあったが、俺達はガタゴトと揺れ続ける馬車に辟易していた。
そして、気になることがもう一つ。
「一端止まれ! 魔物の襲撃だ!」
これである。もう何度目だ。
出発前の騎士団長さんの話では、人界内で出没する魔物は弱く、数も少ないとのことだった。
しかし、実際に馬車に揺られていると、騎士達に一刀両断されていることから、確かに弱いのかもしれないが、とにかく数が多かった。
襲撃に関しては、十回を超えたあたりから数えていないが、とにかく多かった。
当初は、ナンちゃんとアマちゃんへの対応もほどほどにユーリさんの笑顔を脳内再生し続け、幸せな気分の俺だったが、度重なる魔物の襲撃で、そんなことを考えている場合じゃなくなっていた。
幸い俺の影には、魔法を使える大量のGという心強い護衛がいるので、安眠できたが、他のクラスメイトは寝れない者も多いようで、目元に隈ができたクラスメイトをよく見かける。
そして、また馬車が動き出す。
気になって、近くで並走する馬上に騎士に尋ねると、襲撃して来たのはまたゴブリンだったらしい。
そう、またか。
というか、道中で俺達の前に現れたのは初期のコボルトやウルフを除き、そのほとんどがゴブリンだった。
そして、その傾向は魔界に近づくほど多くなってきている。
うーん、こういうパターン、心当たりがあるなあ。
こういうとき、異世界ものの小説を読んだ知識があると、大体予想がつく。
「なあ、ナンちゃん、アマちゃん。安全地帯でのゴブリンの大量発生ってなると、やっぱりアレだと思う?」
一応、自分の考えを補完するため、同じように詳しい親友二人に尋ねる。
「まあ、そうだろうな」
「仮に異世界だから先入観を抜きにして考えても、アレじゃない? 魔物が生息域以外に現れる理由なんて住処を追われるか、もしくは……」
口元に手を当て、予想を言っていくアマちゃん。
ああ、やっぱりそうだよなあ。
「住処から溢れ出すくらい数が多くなったか……」
今回だと、住処を追われるにしても、わざわざ全部が人界に流れて来るだろうか。まあ、人為的なものならば考えられるかもしれないが。
そして、もう一つの可能性。
「起きてるのかなあ、スタンピード」
俺の呟き、ナンちゃんとアマちゃんが「げっ」と嫌そうな顔をする。
まだ不確定ではあるが、仮にスタンピードが起きているならば、最悪だ。
今のところ、確認されているのはゴブリンしかいないけれど、他の魔物が押し寄せようものなら戦闘経験のない神使など、すぐに飲み込まれるだろう。
「引き返したいな」
「無理だと思う。日本なら自衛隊がいたけどさ、この世界の力関係を考えてみるといい……民衆は騎士団に、騎士団は……」
俺達に頼ると。
アマちゃんが言いたいことを俺は察した。
そうだった。俺達は元々そういった危機に対する備えとしているんだった。
神使など持て囃されているが、本当のところは困ったときの戦力。
逃げ出そうものなら、人界にとって用済みになる。
つまり、現状の選択肢は一つ。
「戦うしかない、と。はあ、ミズキに守ってもらおう」
『任せて、ご主人様! ミズキ、頑張る!』
「ああ、ズルい」
「そう言えばエイちゃん、夜に一人だけぐっすり寝てたな」
***
どうせゴブリンとの戦闘があるならばと、俺達三人組は騎士団長に直談判し、人界内のゴブリンが弱体化しているうちに、初戦闘をさせてもらうことになった。
それはクラスメイトも同じのこと。
はじめは余計なことを言うなとばかりに睨まれたが、天童君経由でスタンピードの可能性を伝えると、以降反論はこなかった。
王城での座学で知ったことだが、なんでも人界内には過去の偉大な先輩(神使様)によって正規の手続きをせず、侵入した魔物の力を大きく削ぐ結界が張り巡らされているらしい。
つまり、結界内だと魔物は通常よりもはるかに弱体化するらしい。
クラスで動くとなれば、真っ先に戦闘するのは決まって、この人。
固有スキル:聖剣召喚を持つ天童君。
Sランク冒険者との訓練で、模擬戦とはいえ、一本入れたことがある、唯一の神使である。その戦闘能力は他と一線を画す。
ゴブリンなど、なんのその。召喚した聖剣で、特に技も使用せず、一刀両断した。流石に魔物とはいえ、生物の命を奪ったことで息を乱していたが、それだけだ。
以降は、騎士達が側に控えた万全の態勢で、次々とクラスメイトがゴブリンを倒していく。
本当にゴブリンしか出ない、どれだけいるんだ、ゴブリン。
そして、俺の番が来る。
ゴブリン五匹が現れたが、俺用の一匹を残して、四匹は騎士達が引き受けてくれた。
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桂 栄作
固有スキル:生むは易し▶
配下:魔甲虫98/100、魔蜚蠊、魔蜚蠊×132
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これが現状の俺のステータスだ。
見ての通り、この召喚されて以来、他のスキル習得もできていないので、仮に戦うなら配下頼りとなる。
しかし、今はクラスの監視があるので、ミズキ達を影から出すわけにはいかない。また、影でもミズキは攻撃できるけれど、それをやると怪しまれる。
なので、戦闘はまともなスキルのない生身で俺が行うことになる。
とはいえ、だ。
そんな怖いことできるか!
俺はビビりだった。
この世界では最弱と呼ばれ、『聖域の門』というありがたい結界によって、弱体化すらしている魔物とはいえ、その容姿は醜悪そのもの。
小柄で、ろくに手入れされていない棍棒を持つ姿も、俺からすれば異形という感じがして、恐怖を助長する要素でしかないわけで。
なので、保険をかけておく。
(危なくなったら助けて、ミズキ)
『わかった!』
なんと情けない主か。とはいえ、優先するべきは命である。
俺に向けて、幼稚園児の駆けっこのような速度で近づいてくるゴブリン。
「うわ、来た!」
俺は固有スキルを人前で使えないので、装備として剣と盾というオーソドックスな装備で身を固めていたけれど、咄嗟に出たのは前蹴りだった。
呆気なく吹き飛んだゴブリンは、そのまま地面で顔を押さえて、ゴロゴロ転がりながら痛がっている。
確かに剣を持っているけどさ。ほら、ゴブリン小さいし、正直蹴った方がやりやすかったから。
それにしても、弱いな、ゴブリン。まだ転げ回っているし。
『聖域の門』という結界の効力がすごいのか、ゴブリンが弱すぎるのか、判断に困るところではあるが、今が好機である。
俺は痛がっているゴブリンに剣を突き刺した。
素人故に狙いがブレ、死にもの狂いで足掻くゴブリンを見ないといけなくなり、戦闘後に胃の中が空になるまで吐くことになってしまった。
魔物退治と口で言うのは簡単だったが、実際にやってみるとやはり命のやり取りなのだと思い知らされる。
それでも、神使だから戦うしかないのだけど。
現実って甘くない。
異世界でも、それは変わらないらしい。




