呪いの主2
もっのすごく間が空いてしまいまして申し訳ありません。
今日から不定期ですが再開します。
体に感じた重い衝撃に思わず目を閉じる。
暗くなった視界から恐る恐る目を開けるとなぜか上空に。
辺りを見渡せば学校の時計塔の近くにいることに気づいた。
(なぜ一瞬にしてこんなところにいるのだろう? )
混乱のあまりつい先ほどの出来事を思い出すのに少し時間が掛かってしまった。
(こんなところでぼーっとしている場合じゃない!エルの所に戻らなくては!)
目を閉じる間際投げた聖水に風の刃が当たったのは見えた。でも肝心のエルに降り注いだかまでは分からない。
(お願いだから!無事でいて!)
黒い靄の見える森へ慌てて向かう。
最悪の事態になるほどエルは弱くない。でも嫌な想像は次から次へと湧いて来る。
いつもどこかしらにいる精霊たちもこの黒い靄のせいか見当たらないので現状を把握できないのが痛い。
ドキドキしすぎて気持ちすら悪くなってきた。
ようやく元居た場所に戻るとエルとシファさんの周りに黒い球体が浮いているのが上空からでも良く見える。
体の温度が急激に下がるような嫌な寒気を感じながら、頭の片隅は冷静に今飛び出すべきではないと告げる。
今は霊体だが呪がどう影響するのか分からない。早く助けたい気持ちを押さえ近場に降りて隙を伺うことにしよう。
少し距離を置いた場所に降りると思っていた展開との違和感。
エルは立っているのにシファさんは地面に座っている…と言うより腰を抜かしている?
更に奇妙なことにエルがこの状況で微笑を浮かべているにも関わらずシファさんは見惚れるどころか顔を青くしている。
状況が呑み込めないが悪くはないはずなのでもう少し近くに行くことにしよう。
「─────だが、そんなことは関係ない。わかるか?私が気分が悪いのはそんな対外的なことではないんだよ」
エルは優しく微笑んでいるにも関わらず声は氷の様に冷たく、その言葉はナイフの様に鋭い。
「おまえが、パールを傷つけたことが腹立たしい。それを防げなかった自分も。だからね?手始めに君を時空の迷路にご案内しよう。死ぬまで出れない。死ねるかも分からない。時空の迷路は解明されてないからね。とりあえず私の前から消えてくれるかな?パールを探さなきゃいけないので、ね?」
エ…エルがブチ切れてる!闇落ちしてる⁈笑顔で怖い事をサラッと言ってますけど⁈⁈名前もパールになっちゃってますけど⁈
言葉を向けられているわけではないのに圧がすごいく、気軽に「ここに居まーす」なんて名乗り出る勇気はない…。
まごついている私を余所にエルの合図で周りの球体がシファさんに近づいて行く。
「さようなら。もう二度と会うことは無いだろう」
まずい!今は怒りで正常な判断ができていないだろうが、このままエルが手を下してしまえば後で罪悪感や後悔の念に駆られるであろうエルが簡単に想像できる。彼にこんなことをさせてはダメだ。然るべき場所で然るべき人たちによって裁かれるべきで彼のすべきことではない。
「エル!ダメ!」
あと一歩でシファさんに届いてしまうと言うところで球体が急停止する。
エルは慌ててメガネを掛けると辺りを見回し私を見つけるとこちらに駆けてくる。
止めるために伸ばしていて手を両手で包むようにし、祈る様に手に頭を乗せる。
「よかった…パールに呼びかけたけど返事がなくて…消えてしまったのかと…本当に無事でよかった…」
霊体なので手を握れていないし、体温も分からないはずだけれど包まれている位置にある手が暖かい。
「心配かけてごめんなさい。気が付いたら塔の近くにいて慌てて戻ってきたところです」
「そうか…本体があんな感じだから余計に動揺してしまったんだ」
ちょっと恥ずかしそうに顔を上げ、少し距離を取った後気まずそうに視線を動かす。
その先にあるのは無残な元私。エル曰く無数の黒い針が体を貫いていたそうだ。
見てしまったエルの動揺は疎さマジかっただろう。感覚がない人形で良かった…あれ絶対激痛だったはず。
「エル!ルー!」
慌てた様子の師匠と騎士の方々がこちらに駆けてくるのが木々の間から見て取れる。
先ほどからすっかり忘れていたシファさんは気を失って倒れている様だ。
怖かったよね。自業自得だけど。ご愁傷様。
「師匠。こちらに犯人がいます。気絶しているようですが、まだ念の為師匠だけ来て確認をお願いします」
師匠は騎士たちにその場待機を告げた後こちらに来て封魔の枷をシファさんに嵌め、エルから事情を聴く。
「なるほどね。パールは霊体だけど無事でよかったわ。でも、なぜ加護持ちなのにこんなことになったのかしら?加護は呪を対象にしていない?…まぁ、パールが最悪の事態を免れていて安心したわ。人形があれじゃね。エルはさぞかし動揺したでしょう」
そう言い終えると人型にどこからともなく取り出した大きな布を掛けて隠し、騎士を呼びシファさんを移動させた。
シファさんの持っていた禍々しい石は離れた場所に転がっており、誰にも触れぬよう騎士を1人付け神殿の指示を仰いでいる。
私達は元私兼被害者の近くに移動して声を潜めて話し続ける。
「石の件は後々考えるとしてパールの人型についてだけれど、このまま死んだことにしましょう」
「え⁈でも、私が死んだことになると色々大変じゃないですか?」
「まぁ多少は仕方ないと捉えるべきね。でも、呪のせいだから悪い事にはならないと思うし、ルーナには悪いけど正義感で先走ったことにさせてもらえれば問題ないわ。それに利点が勝るのよ。死んだことにする理由はまず損傷が激しく直せるか分からない事。更にルーナ自体はどこかで存在を消さなければならない事。不幸中の幸いと言うべきかこの方法が1番後腐れなく存在をけせるの」
生徒としての学生生活が楽しかっただけに寂しいけれどきっとこの方法が1番だろう。それにまだキツネの姿が残っている。またエルにくっついて授業を受ければいい。
「わかりました。そうしましょう。ただ、この方法を取るならリーナには正体を明かしたいのですが…」
「そうね。死んだとなると関わりの深かったあの子は気の毒ね。身辺調査でも何も出てこなかったし、信用に足るとは思うけど念のため誓約書を書いてもらった後話しましょうか?」
「レイフ先生はどうしますか?」
「あの人は口が堅いからついでに話しておきましょう。何かあった時に頼れる可能性も有るし…ってエル大丈夫?」
言われてエルの方を見ると立っているのがやっとの様にふらふらしている。
「すみません。思ったよりも魔力を使い過ぎたよう─────」
言い終わる前にエルが倒れる。幸い師匠が居たので受け止めて顔面強打の大事には至らずホッとする。師匠に受け止められたエルは眉間に少しシワを寄せたまま寝息を立てている。
師匠は近場の騎士を呼び至急エルを学生寮に送り届ける様に指示をすると元私の人形を抱え私達はようやく帰路についた。




